短編小説

□蛇苺
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「ただいま〜帰ったっすよー」
浦原商店の入口を浦原は開け声をかけたたが中は薄暗く静まり返っていた。
「と、イケないイケない今日はみんな出掛けてるんでした」
帰ると家に電気が付いていて、誰かが待っている、という生活にずいぶん馴れてしまった。
浦原は愛用の帽子を被り直して、気を取り直すと駄菓子屋の店舗部分を抜けて奥へ続く硝子扉をくぐる。
「!!」
浦原はその瞬間血臭を感じて、身構えた。
『誰っすか?主の留守に勝手に上がり込む人は』
仕込み刀の柄に指をかけ、いつでも抜刀出来る体制で居間に入る。
人の気配はない、しかし襖の奥から風が吹いて来るのを感じる。
当然浦原は戸締まりをして、雨戸まできっちり閉めて出掛けていた。
『こっちか』
息を整えると襖を勢いよく開いた。






「黒崎さん!?」

雨戸を蹴破ったのか、黒崎一護が外れた戸板と共に倒れていた。
駆け寄り抱き起こすと苦しそうに目を開ける。
『拍動が弱い…』
外傷はたいした事はなさそうだが、呼吸が荒く、触れた身体が燃えるように熱い。
『毒っすね…』
虚との戦闘で受けたものだろう。
無駄に体力があるせいで動き回ってしまったのか全身に回り始めている。
「苦しそうっすね…」
どうしてこの子はこんな弱った状態で私の前に現れるのか
助けを求めるにしても他にいくらでも相手が居るはずなのに。
また私に利用されるとか考えないんすかね。
「助けて欲しいっすか?」
「…っ…っ」
一護は口を開いたが発した声は言葉には成らず、ただ喉がヒューヒューと鳴るだけだ。
弱っている一護を見ていると何故か嗜虐心がそそる。
「私のモノになるなら助けてあげてもいいっすよ」
もちろん本気ではない、ただ一護がどんな反応をするのか興味があっただけだ。
怒るのか慌てるのか、浦原は何時もの調子でただ若年の者をからかって見ただけ。
「………」
だが一護は特に反応せずただ真っ直ぐ浦原を見詰めただけだった。
茶色の澄んだ瞳で見詰められると自分勝手な彼への気持ちが見透かされて居る気がした。
「冗談っすよ冗談、安心して下さい私がきっちり治して差し上げますよ」
視線に堪えられず浦原は直ぐに撤回した。
いつもなら、ここで小気味よい一護のツッコミが貰えるのだが、今回は期待出来ない。
「準備しますからここでおとなしく待ってて下さいね」
浦原は一護を畳みの上に横たえ身体を離そうとした。
ガッ
一護が浦原の胸倉を掴んで押し止める。
「…」
そのまま一護は浦原を引き寄せた。
刹那の瞬間だったが、浦原は頭突きされるのだなっと思った。
一護の無言のツッコミを受けてそれは何時も通りの流れ。
「!?」
一護の顔が近付き、唇に唇がぶつかる。
乱暴なキスは一護が力尽きるまでの短い間だった。
力が抜けて崩れ落ちた一護を浦原は抱き留めたが、一護はまた意識を失ってしまったようだ。
さっきのは何だったのか、浦原は白昼を見た気分だった。
「私まで毒が回ったみたいっすね」
浦原は一護を抱き上げると自室へと消えていった。


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