小説置き場4
□踊り場と生首
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「ねぇ」
ふと顔を上げると彼女の顔が浮いていた。一瞬ぞわっと鳥肌が立つ。階段の手すりから顔だけ覗かせていたようだ。脳溢血になりそうな格好のまま、彼女は笑顔で話しかけてくる。
「人体錬成って、興味ある?」
「………は?」
踊り場に下ろそうとしていた足が止まり、慌てて手すりを掴んだ。見上げると彼女の頭がなくなっており、軽い足音が駆け下りてくる。踊り場にポーズを決めて着地した彼女は得意げにこちらをみていた。冷静に足を降ろす。
「私、化学苦手なんだけど」
「大丈夫、だって錬金術だよ?」
「結局化学じゃん」
「夢がないなぁ、りっちゃんは」
顔の前でちっちっ、と指を振る。地味に腹立たしい。
「錬金術だったら何かこう、手を合わせてパンとやってバーッと。知識もくれるらしいし」
「それ、人体錬成できるくらいの知識を持ってなきゃ開けないやつじゃ」
「りっちゃんの関門外!」
謎の罵倒をされた。なんだそれは。
「とにかく、人体錬成できたら理想の彼氏が作れるんだよ!顔が良くて、運動もできて、ご飯も美味しくて、あと優しい!」
「確かに胃袋掴まれたら勝てないね」
「でしょ?だからりっちゃんもれっつあるけみー」
「のーあるけみー。私は何も犠牲にしたくない。それに、なつみにも何も失ってほしくない」
「えーそうかー。じゃーわかった」
やっと諦めてくれたみたいだ。ほんのりむくれた頬を見下ろす。その条件に合ってても、男じゃなきゃだめなのか。さすがに口にはできないな。
ああ、だからこんな話題は嫌いなんだ。もしできたとしても、なつみに人体錬成なんか永遠にできなくていい。