小説置き場4

□面倒なのでごた混ぜ
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罪悪感
お題:早すぎた殺人犯


見慣れた道を覚束ない足取りで歩いていく。道行く人の視線が、木の枝の先が、側を吹き抜ける風までもが僕の肌を突き刺していく。滲み出るのは濃密な罪悪感。何で。どうして僕は、あんなことを。自首しなくては。早く。早く。僕がこの罪の意識に潰されて罪を償うこともできなくなる前に。クリーニング屋の角を左に曲がる。くらくらと世界が揺れて尻ポケットにある塊がまろびでないかと強い不安に駆られ冷や汗がぽたりと落ちる。それを拭う前に僕はその場にへたり込んだ。ああ、とうとう来てしまった。僕の罪が裁かれる場所だ。言わなくては。早く。ごくりと固い唾を飲み込み、僕は大きく息を吸った。


結果はなんと無罪だった。なんで。どうして。僕は明確な殺意を持ってこれを握った。そして、それを奴に突きつけたのだ。それを何度も説明しても警察官はわかってくれなかった。僕が絞り出すように話す度彼らは僕の背中をさすり、優しい言葉をかけた。あまつさえ耳元で「社会人なんてみんなそうさ。俺だって何度もしてる」と囁く始末だ。どうやら僕の罪は永遠に裁かれないらしい。上辺だけの笑みを浮かべて頭を下げ、僕はふらふらと交番を後にした。


誰であれ心の中で殺したのなら、僕に取ってその人は殺されたのだ。これは立派な殺人だ。僕は一生この罪悪感と戦いながら生きなくてはならない。
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