小説置き場4

□いきりょうのおはなし
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一年前の今日、貴方は私をころしたの。何も作らず、できず、貝のように粘つく体で貼り付くだけの私を。あの日から私死ぬことも生きることもできないまま、水底に転がってるの。幸せそうに楽しそうに泳ぐ貴方たちを見上げながらね。暗くて臭い、ヘドロの溜まった深海で、まともに息もできずにいるのよ。蹴り落とされた時にちぎれた肉がね、生きながら腐っていくの。逃げたくても触足をもがれたから動けないの。黄色い膿と分泌液を垂れ流しながら、苦痛に身を縮ませ続けているのよ。貴方はもう気にしていないのでしょうけど。ええ、ええ、わかってるわ。私はただの寄生虫だった。何も生み出さず、ただ貴方の甘い汁を啜って生きていく存在だった。そんな自分が嫌いで、でもそれでも貴方と物語を作っていたかったのよ。ええ、これは本音。
今貴方は前よりも優雅に大きく羽ばたいているわね。傍らにいる彼らも、とても楽しそう。喜ばしい事だけど、私は貴方を一生恨み続けるわ。逆恨みなど事もちゃんとわかった上で。私の大事な根幹に蜜を注ぎ込んで、甘く甘く漬けてから少しずつ減らして、最後は全部ひっくり返したのね。ああ、ひどいわ。痛いのよ。今でも削がれて膿み腐った肉が、あったはずの腕や足がズキズキするの。手も足もなくて、どこにも行けなくて、あったはずの場所を探って泣いてるの。これからだったのに、って。ここに吐いても意味はないわね。でももう嫌な思いはさせたくないわ。私の根幹をエゴだって全否定した人だけれど、あの人はあの人で、人間だったのよ。
好きだったわ。そう、好きだったの。だから、資格がなくとも近くでお話ししていたかった。今はもう、叶わない夢ね。伝えたいことは沢山あるけど、不甲斐なくてごめんなさいとそれでも私は一生恨むってことが大きな2つかしら。今は、ね。私もその景色を見たかったのよ。貴方の作り出すもの、大好きだったのよ。とってもね。
さて、そろそろ寝ないと行けないわね。早く私がこの思いを浄化して、本当に貴方との縁を切ってあげられる事を願っているわ。じゃあ、おやすみ。
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