小説置き場
□うめすぐり
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朝日の光で目を覚ますと欠伸をして大きく伸びをする。それから僕は柔らかくて大きなベッドからもそもそと起き上がって自分の病室を見回した。
ふわふわとしたピンク色のレースと無数のぬいぐるみでいっぱいのまるで僕の好きなものばっかりを集めて形にしたような所。
本来はただ白いばかりの味気ない部屋のはずなそれの中は消毒液じゃなくてお菓子のような甘い匂いが漂っている。
とてもすてきな場所とはいえ自分の家と違うそこに未だ根を張っている不安にもう一度ベッドに倒れ込みそばにあった枕をぎゅっと抱きしめて体を丸めた。
するとここだけは病室のままのドアが横に引かれ四角く切り取られた病院の廊下と共に細長い人影が目に映った。
「おはよう、フリッピーくん」
にへらと笑い入ってきたのは僕をここに入院させたお医者さん、ランピーだった。
手には白い湯気を立てるカップとい くつかのお皿が乗ったお盆が乗っている。
「おはようございます」
僕がうっすら微笑んで返すと更に笑みを深くしてドアを押さえていた足をどけてそのお盆をベッドの脇にある白いレースのかかったテーブルの上に置いた。
「昨日はよく眠れたぁ?」
「ええ、一応は」
自然な動きで僕の隣に腰掛けてくるランピーのために腰をずらして答えると腕を引き寄せられてぴったりくっついて座られ、僕の頭が片手で薄い胸板に押し付けられて髪を梳く用に撫でられる。
ちょっと息苦しかったけど特に抵抗する理由もないので僕はランピーさんの匂いを吸い込みながらされるがままにじっとしてい た。
それに気を良くしたのか腰の辺りをもう片方の腕でふんわりと抱きしめられる。
「怖い夢はみなかったの?」
「はい」
「それは良かった」
短く答えると最後に強く抱きしめられたあとすっと両手が離れていき、それはそのままお盆の上のトーストを掴んで程よく柔らかくなっているらしいバターを取り、塗り始めた。
そのひどく食欲をそそる匂いにお腹が音を出さずにきゅるりと鳴る。
じっとそれを見つめているとその上にブルーベリージャムを塗り延ばしていたバターナイフがカタリと皿に置かれ紫とクリームのマーブル色のペーストがたっぷりと乗ったトーストが口元に近づけられた。
たまらず大きく口を開けてかぶりつく。
バターのいい香りとブルーベリーの柔らかい甘味、
さくさくふわふわに焼かれたトーストが混ざりあって広がり意図しなくても顔中に笑みが広がる。
僕がはむはむとそれを食べるうちまたランピーの手が僕を撫でてきたけどほおっておいた。
「美味しい?」
見ればわかるような問いかけにこくこくと頷いて返す。
食べ終わると同時にあったかいココアの入ったカップを口元に寄せられそれに従ってこくこくと飲んだ。
半分ほど飲み終わってから顔を上げ、問いかける。
「僕一人でもちゃんと食べれますよ?」
首を傾けてきくとランピーさんはふるふると首を振り唇を尖らせて言った。
「ダメー。俺が食べさせてあげたいのー」
子どもみたいに眉間にシワを寄せ頬を膨らませる。
その顔がおかしくて吹き出すとランピーもつられて吹き出し、ぷっと空気を吐き出した。
「じゃあいいですよ」
笑みの中に少し苦味を混ぜて言うとランピーはパァッと顔を輝かせていそいそとサラダを手に取った。
結局、今日の朝ごはんも全部ランピーに食べさせてもらった。