小説置き場
□錦玉
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耳をつんざく悲鳴と唸り声のような狂笑に呼ばれてきてみれば、やっぱり手遅れだった。
生臭く鉄臭いそこできょろきょろと首を巡らせると一面の血だまりと肉片の真ん中にほとんどが赤に染まった緑色が見つかり、そばに歩み寄る。
途中でぐちゃりと何かを踏みつけたけど確認するのも面倒で次の一歩で足を擦り彼のそばにしゃがみこんだ。
「またダメだったのかい?」
右胸の辺りからナイフの柄を突き出して荒い息を吐くフリッピーくんに問いかけると、億劫そうに顔を私に向けくしゃりと顔を歪ませた。
「ディ…ドさ…ん」
血みどろの顔でポロポロと涙を流す姿はひどく痛々しい。
私は真っ赤な地面に膝をついてかがみこみ彼の頬を撫でてやった。
すると彼は涙を溢れ出させたままふっと頬を緩ませて震える手で私の手首を掴んできた。
「ディドさん、怖い……怖いです」
私の手のひらに頬をすりつけどこか甘えるような拍子で怖い怖いと繰り返す彼の頭に私は空いた片手をそっと乗せた。
「君は、何が怖いんだい?」
「…独りになるのが」
彼は目を伏せながら呟くように言う。
なんだ、ごく当たり前のことじゃないか。
私は彼に微笑みかけた。
「じゃあ、君が死ぬまで私が手を握っていてあげるよ」
優しく髪をなでながら言うと彼は弱々しく首を振りそれじゃだめです、と呟いた。
「一体どうしたら君は怖くなくなるんだい?」
そうきくと彼はいきなり自分の胸に刺さったナイフを抜いて俊敏な動きで私に覆い被さり、突然のことに反応しきれず呆然としている私の左胸にそれを強く突き立てた。
その瞬間彼の体から力が抜け私は押し倒される形でそのまま地面に背中を打った。
「一緒に、死んでください」
ああそうか、それでいいんだね。
驚きに見開いていた目を閉じて、彼を抱きしめる。
彼は私の首元に腕を絡め、血が溢れ出る唇で掠れた声で囁いた。
「愛してます、スプレンディドさん」
ふ、と最期の息と共に吐き出された言葉は暗くなった私の視界にくるくると舞って、消えた。