小説置き場2

□Dining table of love
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「ごちそうさま」

 大きなスープ皿になみなみ注がれたシチューの最後の一口を飲み込んだフリッピーは綺麗に舐め取られたスプーンを置いて呟くように言い、席を立った。

「珍しいね、君がそんなこと言うなんて」

 スプレンディドはバスルームに向かっていく背中を眺めて行儀悪く頬杖をつき、愛しげに笑う。

「今日のは美味しかったからいいたくなった」

 フリッピーは肩越しに振り返り、興味なさげな無表情で返した。

「…さらっと言っちゃう所がかわいいな。君は何かい?ナチュラルキラーかい?」
「意味わかんねぇよ」
「ふふふ、わからなくてもいいよ。ただ他人の前では控えておくれよ。君の魅力に気づいて近づいてくる輩が出たらたまらない」
「だから意味わかんねぇって。…シャワー借りる」
「ああどうぞ。早く出てきておくれハニー」
「気持ちわりい」
「そんな所もかわいいよ。愛してるフリッピーくん」
「………」
「ああっ無視かい!?私の愛に答えてくれないのかい!?」

 スプレンディドは気持ち悪い妄言を完璧にスルーしバスルームに消えていくフリッピーに片手を伸ばし叫ぶが、当然何もならない。
 ばさりと軍服を脱ぐ衣擦れの音が聞こえてくる頃ようやく片手を下ろし、くすりと笑った。
 今日はほんとに喜んでくれた。あんなこと言ってくれるのは実は初めてだ。
 でもつい言いたくなるのもわかる。
 元を使わず小麦粉を炒めて一から作ったシチューは我ながらどこのレストランと比べてもいい出来だと思う。
 朝から寝かせておいた全粒粉のライ麦パンも上々の焼き上がりだ。
 気のせいかフリッピーの皿はいつもより早く空になったようだし(もちろんすぐにおかわりをよそってやった)、作った本人である自分も思わずカップ一杯分も味見してしまった。
 テーブルの上で手を組み、今日の成果にしばらくほこほこしてからスプレンディドは立ち上がり、シャワー独特の水音を聞きながらベッドメイキングに向かった。



 いつからだろうか。
 裏の彼が出てきた日の夜、フリッピーは必ず私の家を訪ねるようになっていた。
 その時は必ず食事を求め、その後に体を欲しがるのだ。
 ただ、それだけ見れば夕飯一食で彼の体を買っているような気がして嫌なのだけれど。
 多分、彼は私の事を好いてくれている。
 彼は思考が単純で、だからこそ行動基準が明確で、読みやすい。
 そんな分かりやすい所も、大好きだ。



「ん…ふ、ぅ、」
「ひ、あぅ、……んぁッ!」

 スプレンディドがシャワーを浴び、ベッドに座るフリッピーを優しく押し倒してそっと口付け、纏った少し湿ったバスタオルを丁寧に剥がし、事を始めてから一時間。
 フリッピーはもう既に出来上がった体をはっはっと息を荒げたスプレンディドになすがまま揺さぶられ、その刺激を余すところなく甘受し、弱点を全て晒して快楽に溺れていた。
 大きく膨らんだスプレンディド自身が前立腺を掠めて最奥を穿つ度フリッピーはひくひくと痙攣して喉の奥からかすれた声を吐き出し、僅かに湿ったシーツをくしゃりと握りしめる。
 フリッピーの体内の熱にすっかり理性を焼かれ、自身を往復させる事だけしか考えられずにただ自身の精液とフリッピーの体液を粘着質な音を立ててかき混ぜていたスプレンディドはフリッピーの辛そうな呼吸にふと伏せていた顔を上げ、フリッピーの顔を眺めた。
 恍惚に細められたまぶたの隙間で涙の膜に覆われゆらゆらと揺らめく金色が美しすぎて思わず息を飲み、スプレンディドは律動を止め艶やかに濡れた白い頬に手を添えて間近でじっと見つめる。
 無くなった刺激に驚いたのかひくん、と肩を跳ねさせてまだ焦点の合わない目をゆっくりと開いたフリッピーは、淡く色付いた目元も相まってこの世のものとは思えないほどに綺麗だった。
 情事の最中の陶酔しきった表情に見とれているうちにフリッピーは僅かに開かれた唇に乗る舌の先っぽを引っ込ませ、ごくりと喉を鳴らし、滑らかな腕をするりと首に絡ませてスプレンディドの瞳を真正面からじっと見据えた。

「ッ…、なん、だよ」
「何がだい?」
「んっ…、何で止めんだ」
「止めてはないよ、ほら」

 確認させるようにぐいと腰を進めれば、フリッピーはくっと吐息を漏らして硬直した体をびくりと跳ねさせる。
 その反応に愛しげに笑って、スプレンディドはゆるゆると腰を動かし始めた。

「…あっ、なん、で」
「君があまりにも綺麗だったからさ」
「あ、ひあッ」

 喋る間にうっかり前立腺を突いてしまったらしく喉を晒してびくんと仰け反る。
 汗に濡れて艶めかしく光る首筋から鎖骨に向かって宥めるように何度かキスを落とし、既に付けた花弁の一つをぺろりとなぞる。

「きれい、とか…ぁ、わけ、わかんね、」
「そのままの意味さ、フリッピーくん、」
「…そうかよ、…なぁ、それより、もっと…っ」
「ッ…おねだりかい?それなら、お言葉に甘えて…ッ!」
「ん、い、ひっ、…ひうっ、あぁう、あぁっ!」

 焦らされ、発情しきった顔で強請られたスプレンディドはたまらずもう一回り自身を大きくさせ、しがみつく彼を潰さない程度に、しかし最大の愛情を込めてぎゅっと抱きしめ、がつがつ腰を振りたくる。

「ふ、あ、君の中、あったかいね…、また、出してしまいそうだ…」
「ひ、あ、早漏、やろ……んぁあ!!」
「こんな、ときまで、悪態かい?…、かわいいねッ」
「んっ、あっ、あっ、…つよッ…!!」
「ああ、かわいい、かわいい、…っ愛してるよフリッピーくん!!」
「ひ、あ、あぁっ!!」
 
 張り出した先端にぐりっと深く前立腺を抉られたフリッピーは悲鳴に近い嬌声を上げて後孔に埋まるスプレンディド自身をきゅうと締めつけ、限界寸前だったスプレンディドはその刺激に大量の欲望を中に吐き出してしまった。

「────は、は、あぁ…、君、締めすぎだよ…」
「…ん、うっせ…、お前ががっつくのが、悪い…ッ」
 
 スプレンディドはくぷ、こぽりと音を立てながら自身を抜いてフリッピーの腹に散った白濁を拭き取り、中に吐き出した自分の精液の掃除をすませると、くったりと力の抜けたフリッピーの隣に寝そべり、そっと抱き寄せる。

「はは、でもそれだけ感じてくれたって事だね…嬉しいなぁ」
「…お前の、そういうとこが嫌いだ」
「照れ隠しだろ?わかっているよ、フリッピーくん」
「……、死ね」
「君が生きてる限りは死なないよ、フリッピーくん。これはヒーローとしての私の誓いさ」

 スプレンディドは腕の中のフリッピーの頬を人差し指でくりくりと撫で、苛立ったフリッピーに思い切り噛みつかれるが動じず、むしろ愛おしげに目を細めた。

「なんかすげぇ疲れた…寝る」
「ん、お休み。いい夢を見ておくれ」
 
 歯形もつかない指から口を離し、小さく頷いて目を閉じるフリッピーを幸せそうに眺め、スプレンディドは珍しく柔らかな寝顔に顔を寄せ、額にちゅっと口付けた。
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