小説置き場2

□simmer soup
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 覚醒と温かいシャワーを浴びて同じ軍服を着込み、朝食を囲む。
今日のメニューはいつもと一緒。
サラダにトースト、というありきたりの朝食メニューに、アールグレイの紅茶。
覚醒が火を使っている間に運んだジャムやバター、ケチャップなども一緒に並べられている。

僕らは毎日同じものを摂取して、体の成分を同じにしていく。
 細胞の摺り合わせから始めて、やっと僕らの心は近付くのだ。
でも結局一つの体だからどっちかが食べればそれでいい訳なんだけど、僕は覚醒と一緒に食事を摂ることが好きなんだ。

 今日はなんとなく食欲がわかなくて、摘んだセロリを噛み潰しながら頬杖をつき手元に置かれたサラダをぼんやりと眺めていた僕はふと思い立ってフォークから手を離す。レタスが刺さったそれがからりと音を立てて落ちた。
 覚醒の目がちらりとこちらを向いたのを感じながら引き寄せたマーマレードジャムをトーストの上にたっぷりと乗せて塗り広げ、スプーンに余ったそれをぱくりと咥える。
口中に広がる煮えたオレンジのいい香りと甘酸っぱい中に混じる微かな苦味に目を細めた後、それをそのままくし切りのトマトを口に運ぶ覚醒の口元に持っていく。

「あーん」

 僕も口を開いて差し出すと覚醒は食べかけのトマトを持ったまま、躊躇なくかぶりついてくれた。一口分をもくもくと咀嚼する覚醒をじっと見つめていると食欲が少しだけわいてきて、覚醒の歯形の周りを少しずつかじる。
それを手元の皿に戻すと隣に転がった焦げ目のきれいなソーセージを新しいフォークで突き刺し、ケチャップを絡めた。 思った以上にケチャップが多く付いてしまったしょっぱそうなソーセージにしかめっ面をしてこれも目の前に突き出す。今度はスクランブルエッグをすすっていた覚醒がそのまま体を乗り出してたっぷり付いたケチャップを舐めとった。

覚醒は時々顔の角度を変えながら真っ赤なソーセージに柔らかそうな淡い肉色の舌を器用に絡ませ、赤色を掬い取っては口の中に取り込んでいく。
目の前でちらちらと揺れ動くうっすら開かれた金色の瞳がとてもきれいだ。
ほどなくして首が引っ込められその口がまたスクランブルエッグを頬張り始めて無意識にフォークを手元に戻してもあの色が目にこびりついたままで、そのまま覚醒の顔があった場所を見つめる。
その間に覚醒がガタンと音を立ててテーブルから立ち上がったのも気付かなかった。

「──!?」

突然横から顎を掴まれたと思ったら唇に柔らかい物が当たって、それから唾液とケチャップとスクランブルエッグの混じったものが口内に流れ込んできた。
とろりととろける、卵の味。

「これで丁度いいだろ?」

すぐに離れた悪戯っぽい笑顔にこくんとうなずいて、程よくしょっぱい卵を喉に流し込む。
そんな僕を見て、覚醒はくすくす笑って愛しくてたまらないという風に僕のおでことほっぺたにキスを落とす。
柔らかな唇が触れた所から覚醒の愛が僕の中にどろどろに溢れてきて、どうしようもなく心臓がぎゅっとなって、思わず僕も立ち上がり覚醒にキスをした。
緩く閉じられた艶やかな唇をこじ開けてぐちゅぐちゅと舌を絡ませ合い、吐息をこぼしながら薄い卵味の唾液をお互いに音を立てて啜る。
しつこいほどにお互いの口内を味わい尽くし息が苦しくなった所で唇を離して、つう、と伸びた銀糸が切れないうちにお互いに首を抱きしめ、顔中に啄むようなキスを降らせ合う。
ひとしきり終わった後紅潮したお互いの頬に手を当てて、僕らはこつんと額を合わせて予定調和のように囁き合った。

「愛してるよ、覚醒」「俺もだ、フリッピー」

おんなじ笑顔で投げ合った言葉は、蜂蜜よりも甘かった。
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