本。
□season4 主人のご厚意
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「うわあ…ひろーいっ」
「ルーナ、あんまり離れるなよ。」
にこりと笑いながら返事をするルーナに苦笑しつつ、ヴァイナスはそのあとに続いた。
屋敷からの道程は、それほど長くはなかった。
ヴァイナスの屋敷は木々に囲まれており、街からは見えない場所にある。
なので、滅多に彼の屋敷に人が訪れる事はない。
ルーナは目の前の小川に足を止めて、冷たい水を触りながら不思議そうに見つめると、次いできょろきょろと小さな煙突のついた家を見やる。
…記憶の無いルーナから見れば、全てが不思議な物ばかりだった。
「行くよ、ルーナ。」
「はーい!」
ルーナは大きく返事すると、ヴァイナスの隣に戻った。
街に入ると、すぐ右側に仕立て屋の看板が立っているのが見える。
大きなハサミが布を切っている絵を看板にしたその家に、ヴァイナスは躊躇無く入って行く。
ルーナもヴァイナスの後に続いた。
「こんにちは」
ヴァイナスが椅子に座っている老人に声を掛けると、老人が驚いたように椅子から立ち上がった。
「…ヴァイナス殿か……?」
「ええ。お久しぶりです、ゴード殿。」
ヴァイナスが笑みを向けると、老人…ゴードは笑みを深くして歩み寄った。
「……ヴィー、知ってる人?」
怖々とヴァイナスの後ろに隠れている可憐な少女を視野に入れて、ゴードはこれまた不思議そうに目を丸くする。
「仕立て屋のゴード殿。俺がよく世話になった人なんだ。」
「そんな…ワシは何もしておりますまいて。」
「いや、少なくとも俺は世話になった事を覚えているよ。」
和やかに微笑むヴァイナスを見て安心したのか、ルーナもヴァイナスの横に立ってちょこんと頭を下げた。
「初めまして、ルーナレンスです。」
「初めまして。ゴードと言うただのおいぼれですわい。
とても珍しい色の可愛いお嬢さんだ。」
にこりと微笑んだゴードに、ルーナは警戒を解いてふんわりと微笑んだ。
「して…今日は何を仕立てましょう?」
にこにこと微笑みながらヴァイナスに視線をの向ける。
「実は…とある理由でこのルーナを俺の屋敷に住まわせる事にしたんだが、男の一人暮らしなもんで、彼女に会うサイズの服が無くてね。」
ゴードの微笑みに、ヴァイナスは苦笑で返した。
「そうですか…それはさぞお困りでしょうな。
人を呼びましょう。このお嬢さんに似合う、とびきり綺麗な洋服を…して、何着繕えば満足ですかな?」
「十着頼もう。金に糸目はつけない、彼女をとびきり綺麗に着飾って頂きたい。」
挑むように楽しげなヴァイナスの視線を受けて、ゴードは嬉しそうに「御意」と呟き頭を下げると、奥の扉を開けて何事かを呟いた。