本。

□season6 過去の夢
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ひどく懐かしい夢を見た。


王宮の庭で遊ぶ妹のミリアスと弟のクロヴィスを、執務室で見た時の…。


あの時の俺は、今の様に穏やかではなった。
少なくとも、笑顔と言う物を出した事が無かった。


国は経済的に厳しかったと言うほどではないにしろ、国民に安心を与えられる余裕が無い。
王都の城下町では下級の貴族達が市民を恐喝し、安全を脅かしていた。
国の国王たる自分の預かり知らないところでそのような事があったと言う知らせは、自分が国王になってから二年後に市民の一人が王宮に押しかけて来た事で初めて分かった。
…俺は、それまで国民の為と銘打って様々な法を敷いて来た。
だが、上辺だけを変えてしまっても意味は無かったんだと言う事を、その市民の一声で思い知らされた。


それから一年の間、城下町の下級貴族の実態を調べ上げ。
それら全ての権力を剥奪。
怒りに狂った元下級貴族は市民と同じ階級に納得せず、時には俺自身の命を狙ってくる者もあった。
俺は…それらの命を物ともせず切り捨てて行った。


俺自身が行政に携わっていた期間は五年と、歴代の中では短い人生を使って、国は安定を取り戻した。
そして俺は、弟のクロヴィスに王位を献上し…王都を出た。


俺がまだ王都に居たら、五年前の事を根に持つ者達にクロヴィスやミリアス、両親が狙われてしまうと思ったからだ。
それなら、私はさっさとその後の生活場所を見つけ、一人で生きる。
…コルディオ国が平和で、何事もなければそれで良かった。
それで、俺の人生を終わっても良いとさえ思っていた。


それから八年立った時、とんでもない出来事が起こるなんて…その時の俺に想像出来る訳が無かった。


空から落とされた、自分と同じ瞳を持つ女の子に、恋に落ちた。

国王だった時の自分に言い寄って来るような下劣な女共とは違う…触ったら崩れてしまいそうな程繊細で、綺麗な女性。


ルーナとの出会いは、俺の人生を大きく狂わせた。
ここで一生を一人きりで終えるつもりが、ひょんな事から守るべき者が増え、毎日が楽しくなってきている。


…ルーナが自分を呼ぶ時、俺は必要とされているんだと心が躍る。
毎朝、ルーナを抱きしめる度に離したくないと思う。


自分勝手だろうが、ルーナに嫌われるのが怖い。
ルーナを甘やかしたい、ルーナを…俺の物にしたい。
他の事なんて頭に入れてほしくない、全てを…ルーナの全てを俺で満たしたい。


そんなことまで考えてしまっている辺り、俺はもうルーナ無しでは生きて行けないんだろうな、と思う。


俺の腕の中にすっぽりと収まっているルーナの薄い蜂蜜色の髪…今は閉じている自分と同じ薄い紫の瞳…。
どうか、その瞳には、俺だけを映して欲しい。


俺はすやすやと眠っているルーナの瞼にキスを落として、再度眠りについた。


…幸いにも俺達にはまだまだ時間がある。
その長い時間をかけて、ルーナを俺無しでは生きて行けなくなるまで甘やかし、蝕んで行こうと心に決めて。
 

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