本。

□shot1 絶望の外
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ある夜。私は市街地から遠く離れた自然公園のベンチに座っていた。
外には私以外の人はおらず、上を見ると綺麗な星が見えた。
何もする気になれず、取り敢えずベンチに横になる。


綺麗な腰まである長いブロンドの髪を無造作に後ろに纏め、薄い青色の瞳に潤みが差している。


「……まさか、こんなに早く一人ぼっちになっちゃうなんて。」


堪えていた涙が次々と溢れて来る。
泣くまいと、ぐっと奥歯を噛む。
…しかし、瞳から溢れる涙は止まらない。


「父さんも母さんも、居なくなっちゃった…。
どうして…」


どうして私だけ置いて行ったの。


それだけが頭から離れなくって、今は上に見えるはずの星なんて涙で見えなくなっていた。
霞んで、霞んで…もう何も見えなくなってしまえば良いのにと思った。


大人はずるい。
ずる賢くって、嫌い。


あの街の領主だって言う人は、もっと嫌い。


高い税金を払っても、あの人達は自分の私腹を肥やすだけ。
私達市民の状態なんてほったらかして…美味しい料理とか豪華な調度品に囲まれて暮らしてるんだ。


私達は明日を生きるのも大変だと言うのに。


「…っ」


憎い。憎い。憎い。


父も母も、あいつに殺されたようなものだ。
あの街はあいつの支配下で、家の畑で取れた作物の約6割を献上していた。
なのに「不味い」と言って、私達が丹精込めて作った作物を投げ捨てた。
そしてあろう事か、この街から出て行けと言った。


私でも解る。


私達家族は、この街の領主に弾かれた。
その言葉を聞いたのが、昨日の夕方。
そして今日の朝、起きたら誰も居なかった。


母さんも、父さんも…
畑に行った。きっと、私が起きるのが遅くって二人共が先に畑仕事をしているんだって思った。


…思いたかった。


だけど畑には居なかった。


家の中も、馬屋も、倉庫も、街の至る所に探しに行った。
嫌な予感がしたんだ。


最後に、三人でよく来ていた小川を見に行った。


そこには、父さんが使っていたバンダナと、母さんが持っていたリボンが落ちていた。


その二つは、小川の近くにあるイリスと言う私と同じ名前の花の上に無造作に置いてあった。


そこで悟った。


ワタシ ヒトリニナッタンダ。


堪えていた不安が爆発したように弾けた。
溜まっていた怒り、苦しみ、悲しみが、一気に飛び出した。


私は人目をはばかる事無く叫んだ。
叫んで叫んで、泣いた。


私は一人だと言う事がとてつもなく不安で、ずっと肩を抱いていた。
それでも寂しさは恐怖を呼ぶ。
深い混沌に落とされてはいけないと自分に必死に言い聞かせ、私は街から離れた。


そしてたどり着いたこのベンチの上で、私はまた涙を流した。


「どうすればいいか解らないよ、お父さん、お母さん。」


諦めればいい。


どこかでそう声がした。


キミも、何もかもを投げ捨てて
さっさと消えてしまえばいいんだ。


頭に反響する声は私を蝕む。


そうか…と小さく呟くのと同時に
何か温かい物が私を包んだ。
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