本。

□life2 森の奥の魔人館
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流れに逆らえば快感は逃げて行くことを知っている。


だから私は逆らわない。
それが一番幸せだと知っているから。


「…伯爵のバカ。」


事情後、ぽつりと呟くと黒い瞳が私を不思議そうに映した。


「俺のどこが?」


「しらっと言わないで下さいよねっ」


本当に解らないとも言いたげな目は、きっと解ってやっている。
だって、私はいつもこんな感じで伯爵に食べられてしまうんだから。


「…まあ少なくとも俺の事では無いだろうが」


ほらやっぱり。


私はじっと横目で伯爵を盗み見た。


…いつもの黒いコートの下には引き締まった体がある事を私は知っている。
意地悪で真っ黒な伯爵だが、肌は私と同じ…もしくは私よりも白い。
どこにも余分な脂肪なんか無いくらい綺麗な体をしている…って、なんだかこれじゃ私が変態みたいじゃないっ


「なんだ、そんなに続きをしてほしいのか?」


そんな様子を面白げに見ていた伯爵が、再度私に覆い被さるようにして体重を掛けて来た。


「違いますっ!ただ…無駄な脂肪もない綺麗な体だなって…。」


「何を言うか。お前の体の方が綺麗じゃないか。
特にその首筋…俺の残した鬱血の痕が…」


「ちょっ!!また!?ここ服で隠れ辛いから困るって…」


私が慌てた様子で言っても、伯爵は笑顔でこう答える。


「お前の困っている顔は、とても可愛いよ。」


「私はムカつきます!!」


普通に言われれば赤面しそうなほど嬉しい言葉だけど、この男はそんな事は素面では言わないのを知っている。


「も〜…街に出る時にどうやって隠そう…。」


「安心しろ、消えたらまたつけてやる」


「それなにに安心すればいいの!?
…痕を付けるんなら、別の所にしてよ…。
嫌な訳じゃないんだから…。」


頬に空気を溜めこむと、伯爵は私の頬に口付けた。
そして瞼、鼻、もう一度頬と来て…最後に口にたどり着く。


くすぐったくって顔を反らすと、それをさらに追いかけて来る。


「…解りました、解りましたってば。
首じゃ無ければいいです。…伯爵。」


「ん。」


そのまままた深い口付けを送られる。


…そんな時間がどれくらい経過したくらいだったか、勢いよく扉が開かれた。


何事かと二人して扉の方を見ると「ジェントルマン」が杖をついて仁王立ち(と言えばいいのか)で私達を見下ろしていた。


…誰だっけ。


「ローゼ、そのままで居なさい。」


「はい」


私はシーツを被ったまま、事の成り行きを見送る事になった。


そして、ジェントルマンが口を開く。


「…君が、ロズレイワルド伯爵殿かね。」


あまりにも冷たい言葉の槍に、私は寒気を覚えた。
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