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「あとはもう痛いところない?」

十束が顔を覗き込み、人好きがするいつもの笑顔で微笑みかければ夾架は首を上下させる

「これ飲んでちょっと心落ち着かせたら、約束通り話してくれるか?」

『はい。…これ、なんて言うんですか?』

「ホットミルクや。知らんの?」

『初めて見ました』

すっかり冷えてしまった身体を暖めるべく草薙が作ったのは、蜂蜜入りホットミルク
差し出されたカップの中のミルクをじっと見つめて夾架は首をかしげた
小学生くらいの子でも知ってるんじゃないかという、日常的な飲み物への知識さえどうやら持ち合わせていないようで、草薙は驚いてしまった

夾架は初めて出された飲み物に恐れを感じつつも飲めば、暖かくて甘くて飲みやすく、心が落ち着くのを感じた

それから淡々とした口調で話し始めた

『私がストレインなのは、ご存知の通りですね
ストレイン。と言っても、一般的なストレインとは違って、コモンクラスでもベータクラスでもない特殊なストレイン、というよりは異常なストレインって呼ばれてました……』

「それ、ずっと気になってたんやけど、なにが特殊で異常なんや?」

『私は、2種類の能力を持ってます。2種持つことにより、制御がずっと難しくなって…暴走しちゃうんです。
暴走したら、周りに甚大な被害を齎すし、関係ない人まで巻き込んでしまいます。
だから暴走しないように私を施設に閉じ込めて、制御出来るようになるまで訓練させたり、色んな実験をさせられたり、時にはストレイン同士で戦わされたり。
ずっとずっと閉じ込められてて、たまに外出許可が出ても監視役がついてきて、私に自由なんてものはなかった…』

いわば籠の鳥だ

好める味だった為に早々に飲み干してしまい、微かに温かみが残るカップを両手で包み、空のカップを見つめ続けた
今顔をあげても、どんな顔をしていいか分からなかったし、3人がどんな反応をしているのかも、知る気にはなれなかった

重苦しい雰囲気の中でも夾架は話を続け、それを3人は黙って聞いていた

『ある時、能力のせいで知ってしまったんです。力を制御できるようになっても、私に自由は訪れないと。
そのままずっと施設に閉じ込めて一生、実験材料とか能力の悪用をするつもりらしいです。
でも、制御できるようにならなければ殺処分。
そろそろ処分でいいんじゃないかって話も結構出てました。
殺されるかもという恐怖で頭が可笑しくなりそうで、逃げてきました…』

施設の人は隠してるつもりでも、自分が能力を使うことによって、知ってはならないこと、知らなくていいこと。何から何までわかってしまうのが、凄く嫌で怖かった
ひたすらに力に嫌悪感を抱いた

自分で制御できれば、どうってことないのに何で出来ないんだ。
自分の力なのに制御出来ない事を恨み、そんなダメな自分への戒めとして自ら手首を切りつけ、感情を抑えていた

夾架の心は今にでも崩れ落ち、崩壊してしまうギリギリのところにまできていた
毎日少しずつ精神をすり減らしていき、自暴自棄になって、死んでしまえばこれ以上苦しまなくて済むと、命を絶とうとしたこともあった
自殺やリストカット、施設からの脱走、何をどうすれば楽になれるのか、何も分からなくなっていた

話し終えたら身体が勝手に震えていた
悪質な実験の数々など、トラウマとなって夾架にこびり付いた忌まわしき過去を、ほんの少しでも思い出すだけで頭痛と吐き気が襲い、目の前が真っ暗になる

その状態になると必ず訪れるものがある

『うっ……』

酷い頭痛が、襲いくるのと共に、激しい耳鳴り、動悸。息苦しくなって、身体の波長が一際波立つ感覚がする

「どないしたんや!?大丈夫か!?」

『きちゃ…ダメ!!』

頭痛に耐えこめかみを押さえるとすぐさま草薙が駆け寄ってきて、夾架の肩に触れようとした瞬間夾架の制止の声がかかる

でも少し遅かった
制止よりも先に草薙が夾架の肩に触れてしまい、その一瞬辺りの空間がぐにゃり歪んだ
草薙は夾架と同じようにこめかみを押さえたじろぎ、床に膝をつく

「草薙さん!大丈夫!?」

「っつ…なんや、今の…」

一瞬のうちに脳内がかき回された様な歪んだ感覚
ぐにゃりと世界が揺らぎ、平行感覚を失ってしまい、草薙は立っているのも困難であった

夾架はというと、幸い割れることはなかったが持っていたカップを落としてしまい、その手は変わらずこめかみを押さえ、息を荒げていた

「どうしたの!?」

『……そう、だったんだ…』

「え…?」

十束は、夾架に近付かない様に強く言われたので、言われた通りに離れた場所から安否確認をする

息を荒らげながらも話し出す夾架は、明らかに様子が可笑しかった
漸く顔を上げた夾架は苦しげに眉を潜めていた
でもその瞳には、揺るぎがなく、確信をもっていた

夾架はゆっくりと視線を動かし周防を見た

『第三王権者、赤の王…周防尊…。赤のクラン、通称"吠舞羅"。そしてそのクランズマンの草薙出雲、十束多々良。
そしてここは王権者属領のバーHOMRA。
…そっか、だからストレインのことも知ってたのね…』

「これが自分の能力か?俺の頭ん中覗いてわかったっちゅう訳やな。一瞬だけやけど、夾架ちゃんと繋がった感じしたんや」

『…はい、勝手に繋がる気はなかったんだけど暴走してしまったみたいです…。あ、で、でも、すぐ良くなります…… ホントに…ごめんなさい…!』

まだクラクラし、余韻が残り苦しむ草薙に夾架は精一杯頭を下げた
幸い軽い暴走だった。というわけで能力もすぐ止まった

もしも大きな暴走だったら、もっと、考えを読み取ることができ、草薙の他にこの場にいた十束や周防まで繋がるかもしれなかった

「いや、ええよ。てっきり十束が話したと思てたんやけど、なんや十束、話し取らんかったんか」

「んー…忘れてた。最初にそれ言っちゃっても面白くないかなって」

「ほんとフリーダムなやっちゃな…」
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