long

□03
2ページ/3ページ



「まさか尊が自ら進んで夾架ちゃんをクランズマンにしたとはなー。夜中に尊から、クランズマンにした。って一言だけやけど電話もろて驚いたわ」

「だよねー。キング、何かと夾架ちゃんの事気にかけてるし、気に入ったのかな?」

「あないな可愛い子、いくらアイツでもほっとけへんよ」

「うんうん」

草薙と十束はカウンター内で朝ご飯を作っていた
完成に近づいてきた時夾架を担いだ周防が降りてきた

「尊はオムライスな。夾架ちゃん食べれるか?」

『オム…ライス…?』

「食べたことないんか?」

『………たぶん』

自分の食の状況のことをざっと説明したら、草薙も十束も眉間に皺をよせていた
見るものの殆どが、きっと食べたこともないだろうし、名前も知らないだろう
そういう事に関して疎くなってしまったのは、仕方のないことだ

「ちゃんと食べなきゃだめじゃないか。夾架ちゃん細すぎ!よくない!」

「せやな。でもいきなり食べろ言われても、なかなか食えへんよな。ちょっとずつでいいから、ちゃんとした食生活に戻してこ。今、腹減ってるか?」

首を左右に振り否定の意思を伝える
草薙は腕を組み首を傾げ、思考をフルに巡らせた

「せや、スープなら飲めるか?コーンポタージュならすぐ作れるけど…」

『飲みたい…です…』

スープなら暖かくて、サッと飲めて苦にはならない
飲めそうだと判断した夾架は草薙に作ってもらうことにした

程なくして出来上がったスープと夾架はにらめっこしていた

「どうしたの?冷めちゃうよ?」

淡い黄色のスープに水々しいコーン、表面に浮かぶ緑色のパセリ
香りが久々に食欲をそそり、思わず夾架は唾を飲む

恐る恐るスプーンを手にしスープを掬う
口に持っていき、後は呑むだけという肝心のところで手が震えてしまい動かなくなり、どうしても食べられなかった

心が食事をすること自体を、拒絶してしまっているのかもしれないと思った十束は、夾架の手からスプーンを取り、スープを先程よりも少なく掬い夾架の口元へと運んだ

「あーんして?」

夾架が落ち着くようにとニコニコと笑みを浮かべて十束が口元へとスープを差し出すと、夾架はゆっくりと口を開いてスープを呑んだ

『ん……おいしいです…』

「やっと少し笑ってくれたな。夾架ちゃん、笑ってた方がかわええよ」

素直に食べさせてもらい、飲み込むと今まで浮かべていた頑なな表情が少しだけ和らぎ、綻んだように見えた

漸く見せたその表情に安堵し、今までの緊張が解けた気がした

少しずつ少しずつ、丁寧にスープを飲み完食した
たったスープ一杯でお腹いっぱいになったようで、呑んでくれたのは嬉しいが、出来ればもっと食べてほしいので嬉しくないような

『吠舞羅の徴って…お2人も持ってるんですよね?』

「うん、あるよー。力をもらった時に、キングがくれるんだ。夾架ちゃんはどこにもらったの?」

『私は…お腹の右側です』

「腹かあー、尊も中々なとこにつけたな」

ふん。と周防は鼻で笑い、見向きもしなかった
あまり興味をもたず、つまらなそうにして、起きたばかりなのにソファーに寝転がる

朝ご飯を食べるだけ食べて寝る、という1番良くない事をこれから行おうとしていた

いつもの事だが身体によくない。と草薙はお灸を据えようとらしたが、どうせ言ったところで、聞く耳持たずで寝てしまうだろう
との事でそっとしておくことにした

『十束さんと草薙さんは、どこにあるんですか?』

「んー。説明するより見せた方が早いかな。見たい?」

『見たいです…』

「りょーかい。ちょっと待っててね」

特十束はプチプチとシャツのボタンを3個はずし、右手で左肩の部分をはだけさせ、背中を夾架に見せた
肩甲骨の上にある、自分と同じ徴を夾架は見つめる

「草薙さんは俺と逆の方にあるんだよ。おっきい鏡使わないと自分じゃ見えないんだけどさー。結構気に入ってんだ」

『…………』

誘われるかの様にすっと手が伸びて行き、夾架の手が十束の徴に触れた

「あは、なんか照れるなー…」

『あ…ごめんなさい。でも、こういうの、何かいいですね…』

また少し表情が和らいだ
雰囲気も少し変わってきている、徐々に打ち解けてきている
完全に笑うようになるのも、そう遠くはないのかもしれない

「夾架ちゃんって、どこから逃げてきたの?」

『…七釜戸にある、ストレインの収容施設、研究センター?だったかと思います。あんまり詳しくはわからないんですけど、運営は黄金で、警備とかを青がやってるので、青に追われてます』

「黄金に青か…。やっかいなもんやな」

「だねー。これからどうしよっか。でさ、夾架ちゃんはどうしたい?」

本当なら、そんな質問するべきではないのは、十束もわかっていた
しかし、本当に帰りたがっているのなら、意思を尊重してあげなきゃいけない
だから彼女が今、何を思っているのかキチンと理解しておこうと思ったのだ

『わ、わたしは…』

「十束、今夾架ちゃんにそないな質問したら…」

「いいから。お願い、夾架ちゃんの気持ち、ちゃんと聞いておかなきゃだから」

戸惑う夾架を見て草薙は、困らせるなと十束に制止の声をかけるも、十束は話を続ける
黙って十束は夾架を見続け、答えを待つ

『私は、ここにいたい。…帰りたく、ないです…』

やがて声を振り絞るように訴えかけた、夾架の迷いのない答えに驚いた

「…よかった。もう勝手に出ていかないって、約束してくれる?」

『…ごめんなさい、もうしません』

2人のやりとりを見て草薙はホッと息を吐く
どうやら自分が思ってたより、心配はいらなかったのかもしれない

『十束さん…』

「ん?てかさ、十束さんってやめてよね。なんかよそよそしいじゃん。キングの事は尊さんって呼んでるでしょ?だから俺も、多々良って呼んでほしいな」

『多々良…さん…?』

「ホントはさんもいらないんだけどね。まあ、しょうがないか…」

流石にそこまではお願いできなかった
あまり負担をかけすぎると、具合を悪くしてしまうかもしれない
だから少しずつ、慣れていってくれればそれでよかった

とりあえずは夾架が、自分の意思でここにいたい。そう望んでくれた、それだけで十束も草薙も満足だった
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ