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「そういえば夾架ちゃん、いくつなんや?」

『私?……えっと…今、2008年でしたっけ…?』

「そうや」

『じゃあ…18です。今年で19になります』

指を使って数えだし、曖昧にだが草薙の質問に答えた
すると十束も夾架と同じく何やら指を使い初める
それから首を傾げて困った顔をした

「夾架ちゃん89年生まれ?」

『……そうだったと思います』

「あれー……、俺90年の早生まれだから同い年だ……」

「ほんまかいな!?いやぁー、夾架ちゃんには悪いけど、15か16くらいかと思てたわ」

『よく言われます』

決して、背が小さいとか、貧乳とか、超童顔ってわけでもないのに、どことなく幼い印象があった
予想よりも4.3歳上であった事に驚きを隠せずにいた
夾架は歳を大幅に間違えられる事に対してかなり慣れているようなので、自分たち以外にも彼女を若く見る人は多いんだと思った

「誕生日、いつなんや?」

『んー………。6月の…13日だったような気もします。誕生日とか、あまり意識した事なかったんで…』

誕生日といったら、家族や友人に祝われて、プレゼントをもらったりいつもより豪華な食事をしたりと、一年に一度しか訪れない大切な記念日

しかし意識してないということは、今までろくに祝ってもらえなかったのだろう
だとしたら曖昧になっているのも無理ない

十束は無意識に夾架の頭を撫で始めた

「今年の夾架ちゃんの誕生日は、盛大に祝わなきゃだね。あーでも草薙さんの誕生日が先だよね」

「せやな」

『いつ…ですか?』

「4月10日!夾架ちゃんも一緒にパーティーしようね」

『はい、楽しみです』

十束は夾架の髪で遊び始めた
ただ単にさらさらな髪をずっと撫で、楽しんでいた
嫌がる事なく、いじられている夾架は落ち着いた様子で口を開く

『多々良さんに触られてると落ち着く…。何か、能力が安定する気がします…』

夜寝る時はいつも睡眠薬を使うことで眠っていられた
投薬しないと、夜中にも精神がふらつき何度も暴走を引き起こし、寝れたもんじゃなかった

なのに吠舞羅へと連れていかれる時と、昨夜、共に暴走することなく寝れたのが不思議だっとずっと思っていた

「十束、ちょっと手ぇ離してみ」

「え?うん、わかった」

草薙は何かを思ったのか、十束に離れるように言う
十束は言われた通り夾架に触れるのをやめると、途端に夾架は軽く呻いた
穏やかで波が少ない海が、いきなり津波が起こりだしたかのように、力が荒ぶり始めた
夾架は息苦しさに片手で胸元の服を握り、貫くような頭痛にもう片方の手でこめかみを抑えた

『…っ、なに、これ…』

「どしたの!?大丈夫!?」

『っ……!?』

突然苦しみ出した夾架を心配し、すぐさま十束が夾架の肩に触れると、夾架は驚いた顔をして勢いよく顔を上げた

「どないしたんや…?」

『今、絶対暴走するって思ったのに、収まりました…』

「本当に?」

『はい……』

草薙に触れられた時は暴走が止まらずに力を使ってしまったのだが、十束に触れられた時は暴走することなく収まり、寧ろ力が消えていくのを感じた
暴走の片鱗が見えたらそのまま暴走するか、必死に宥めて堪えるしかなかった

今までこんな事は絶対に無かった
それなのにどうしてこんな現象が起きたのだろうか

草薙はやっぱりか、と言うように腕を組んで話し出す

「こいつ、どっかネジ抜けてるアホからな。それ故にこいつには能力効かんとちゃうか?少しばかり変わった奴やからな。尊の暴走も止められるし、そないな不思議な力、持ってるんとちゃう?俺はそー思う」

「えー、ネジ抜けたアホは酷いって草薙さん。でもさ、もしそうだったとしたら、俺が夾架ちゃんのリミッター役になれるってことなのかな。そしたら夾架ちゃんが施設にいる必要もなくなるよね」

十束が真面目な顔して考え出す
その考えを聞いて夾架は興味を示した
もしもそんなことがありえたら。と夾架は淡い期待を抱く

「ほなら、1回十束とリンクしてみたらどや?何かわかるかもしれへんやろ??」

『やってみます…いいですか……?』

「もちろんさ」

十束の了解を得て、夾架は目を閉じた
そしていつもやっているように、人の波長を感じ取り、自分の波長と合わせ、その人の脳内へと入り込む
精神をもリンクさせ覗き込む

いつもなら自分の力で精神だけを移動させているだけなのに、何故か誘われているかの様に身体が引き寄せられ、辺りが真っ白な空間へと変わり、そして堕ちていく

深入りしすぎた、
たまにあることなのだが、いつもなら真っ暗な闇の中なはずなのに、真っ白な空間で堕ち続けている

"繋がった"
奥深くまで堕ちたところで急な浮遊感が訪れる
それから耳鳴りのあとに、頭の中までも真っ白になる

ここが十束多々良の精神なのか
一切の穢れがなくとても暖かい
不思議な気分になった
胸の内の大きな力が最小限までに抑えられている

『なんで……』

「なんでだろーね。でも君の心、はっきり見えるよ」

『今まで私と情報の共有なんて…』

出来た人はいなかった
一方的に読み取ることで精一杯だった
それなのに十束の精神に引きずりこまれ、目の前には十束がいて、会話している

「俺が夾架ちゃんを引き寄せた。なんか君とは似てる、だからかな。ねえ、力、治まった?」

『…みたいです』

「そっか、よかった♪」

ニコリと十束が微笑んだ瞬間、視界が霧のようなものに覆われた


『あ………』

「おっと…やっぱり疲れちゃったか…」

2人の精神は現実に戻ってきた
初めての出来事と感覚にキャパシティオーバーを起こして、戻ってきた途端に意識を失い、十束へともたれ掛かる

「成功、したんか…?」

「みたいだね。夾架ちゃんの能力弱まったままだし、まだ繋がってる感じするから、草薙さんの言う通りみたい。でもなんで俺と繋がることで、能力の制御ができるようになるんだろうねー…」

「そんなん、俺にもわからへんよ」

十束は胸の内で気を失う夾架を抱きしめた
自分がいることで、少しでも彼女の枷になるものを外してあげられるなら、十束はなんでもしてあげたかった

同い年の子が想像をはるかに越える苦しみを味わってきて、その事を思うと自分が感じる苦なんて、どうってことないんだ

素直に守りたい。と思った



出会ったばかりだけど
夾架とは運命を感じていた
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