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今夜のパーティーのために、店は臨時休業ということにした

それから草薙ははりきって料理を作ると言い、買い出しに出かけた
周防は昼寝をしなかった分を補うべく夕寝をしだした

取り残された十束と夾架
暇だから散歩にでも行こう。という十束の案で外に出た

赤く輝く夕陽が綺麗だった

他愛のない会話をしながら、真っ直ぐに向かった先は公園
あの雨の日の夜、夾架と十束が出逢った場所

「夜来るのと夕方来るのだと、全然雰囲気違うねー」

『うん、たった3日前の事だけど、すごい昔に感じる』

「あー、それ分かるなー」

夾架は十束から離れ、自分があの時座っていたブランコに腰掛ける
その隣に十束も座り、小さいなーと小言を言う

18歳にもなる大人がブランコに乗っているなんて、少しおかしな光景だ

『あのさ…私の望み通り運命は変わったよ。だからもう言っていいよね?多々良さん、本当にありがとう…』

「なんか改めて言われると照れるなー…//」

夾架は真剣な眼差しで十束を見据え、ずっと言いたかった言葉を漸く解き放つ
十束自身が後で聞かせて欲しいと言ったのに、いざ言われると、十束は赤面してしまう

つられて夾架も赤面し、十束から視線を外し、自分の足下を見る

『多々良さんがあの時手を差し伸べてくれなかったら、どうなってたんだろうね、考えるだけで怖いや…。本当に、伝えきれないくらい感謝してるの。ありがとう…多々良さん…』

先程バーでひとしきり泣き、涙はすっかり枯れたはずなのに、涙腺は緩んだままで、また涙ぐんでしまう
自分はいつのまにか、こんなに泣き虫になってしまったのか
しかし、何度拭っても、涙は溢れてくるばかり

その間も十束は黙っていた
何か言いたげなことはわかっていた
夾架は必死に心を落ち着かせ涙を止めて、十束が話してくれるまで待つ事にした

よし。と何かを決意したらしい十束はブランコから腰をあげた
それから縮こまった身体を解すべく大きく伸びをした

「んー。夕陽が綺麗だなー」

普段より一層強く輝く真っ赤な夕陽を見て十束はうっとりとした
自分たちのチームカラーである赤をみてると、不思議と心が踊る気分になる

十束はクルリと身体を反転させ夾架の方へ向き直る

夕陽を背にして立つ十束は、キラキラ輝いていて素直に綺麗だとおもった

「俺さ、凄く弱いんだ」

『知ってる、出雲さんに聞いたよ。でも、凄く器用な力の使い方をするって』

「んー、そうなんだけどね」

十束は左手の手のひらを見つめた
手のひらの輪郭が薄っすらの赤みを帯びているのがわかる
今も自分の中で小さな力が流れ続けているのを感じた
夾架も手のひらを見つめれば同じ力を感じられる

「今までは、こういう力もアリかなって思ってたんだ」

周防尊が王になったあの日
草薙と同じように手を取り、力を受け入れたはずなのに、十束に備わった力は極僅かなものだった

赤の力は"暴力"の象徴である
それなのに、全くと言っていいほどまでに、十束は戦う力をもっていない
クランズマンになる前は、なんの変哲もない人だったのに、どうしてこうも草薙とは違うのだろうか

それでも持ち前の器用さから、巧みに力を操れるようになり、これでいいんだと思っていたのに、十束は己の非力さを悔やんだ

「でも、俺にももう少し、戦う力があったらなって…。こんな事思ったのは初めてだよ」

『どうしてそう思ったの?』

夾架だったら、力がある方。ない方。どちらかを選べと言われたら、迷わずない方と答えるだろう
いらない力をたくさん持っている。欲しいのに少ししか力を持てない。2人の考えている事は正反対だった
それでもお互いに突っぱねる事なく、解り合おうとしていた

「俺は弱いけど、夾架ちゃんの力になれる自信ないけど…それでも夾架ちゃんの事、守りたいんだ」

十束にいつものように、へらっとした笑顔は見られなかった
真剣な眼差しで夾架の事を見つめていた

しかし、どうやら夾架には上手く、本当に十束が伝えたい事の意味を悟ることができなかった

『あ、ありがと…』

「…そーじゃなくて!」

『そうじゃなくて…?』

イマイチ夾架は鈍い
期待していた答えとは全く別のものが返ってきて、驚き、緊張感が一気にどこかへ旅立ってしまった

十束は苦笑いしながらも、もう一度腹を括る

「率直に言うよ?」

『う、うん…』

十束は一秒一秒が酷くゆっくりで重たいものに感じた
一回深呼吸をし、心を落ち着けてから言う

「夾架ちゃんの事、純粋に守りたい、守らせてほしい。…だから、俺と付き合ってください」

十束なりに精一杯考えて出した言葉
真剣さも充分に伝わってくる
冗談でからかわれてるわけではないとわかっているが、いまいち現実を受け止められず、信じられない。といった表情で夾架は十束を見上げた

十束は心配の色を浮かべていた
しかし、返事をしようとしても上手く言葉が出てこない
夾架は人生初の出来事に、頭がいっぱいでついていけなかった

『あ、えっと…その…なんて言ったらいいのかな…よ、よろしくお願いします…でいいのかな?//』

断る理由はなかった
寧ろ夾架自身も十束を好いていた

出会った時から他とは違う何かを感じていた
それから、命の恩人で、施設を出れたのも、吠舞羅と出会えたのも、全て十束のおかげ
そんな彼のことをもっともっと知りたかった

上手く伝わったかは分からないが、夾架がOKという返事を出せば、忽ち十束は満面の笑みを浮かべ、立ち上がった夾架に抱きつく

凄く嬉しそうにする十束を見て、本当に自分のことを想ってくれているんだと伝わってきて、胸がぎゅっと締め付けられ、苦しくなった
でも嫌じゃない苦しさだ

「夾架、好きだよ」

『わ、私も好きだよ、多々良…//』

残念ながらファーストキスでは無かったが、重なる唇から熱が伝わり、脳がジンと焼けるような感覚と、身体の内側から溶け出すような不思議な感覚が襲いくる

目を閉じれば世界が変わる
繋がった時みたく、真っ白な世界で再び堕ちていく気がした

どんないもがいても、どんなに抗っても、堕ちていく
もう、戻れない


彼からはきっと
離れられないんだと思う
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