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そのまま周防に手を引かれ、十束のバイト先まで連れて来てもらった
カフェ、レストラン、その辺りの類いだった
イタリアンな感じで、見た目もとてもオシャレで、テラス席があり、結構人気が凄いらしい

こんなところで働いていたとは知らなかった

きっと十束なら、こういうオシャレな店で働いていても様になるだろう

「いらっしゃいま…夾架、キング!あ、もしかして…」

『うん、持ってきた…んだけど…///』

「どしたの?」

『な、なんでもない…///』

店に入ればすぐさま店員が駆け寄ってきて、席に案内してくれる
案内にやって来たのは十束だった
シワ一つない白いシャツに、きっちりと締まった黒いネクタイ。同じく黒のベストにスラックス。磨き上げられたツヤのある革靴
この店の制服は執事を思わせるものだった

初めて見た十束の格好に夾架は思わずときめき、頬を紅潮させた

目的を果たすべく端末を取り出し渡すと、十束はそれをポケットにしまい、お礼を言ってから営業スマイルを

「ありがと、なんか食べてくよね?中のお席とテラス席、どちらがよろしいでしょうか?」

『…テラスでお願いします///』

十束が改まって丁寧な言葉で話すのを聞いたのも初めて
普段の雰囲気とはまた違い、新鮮そのものだった
ニコリと微笑んだ十束はかしこまりましたと言い、夾架と周防をテラスへと案内する

案内されている時に、何人もの従業員とすれちがった
皆それなりのルックスを持っていて、夾架は悟った
イケメンの従業員を集め、女性客を中心に客足を増やしているのだ

「こちらの席でよろしいでしょうか?」

『うん。凄くいい感じ!』

十束に案内されあテラス席は、全体のつくりが木で、今にも木の匂いがしてきそうな場所だった
日当たり良好で、春の暖かな陽気に包まれ、本日は小春日和となり、外で行動するのには最適だった

円状のテーブルで周防と向かいあって座り、メニューを眺め始める
夾架はメニューを見て考え出すが、周防はメニューに見向きもしなかった
もう決まってるらしく、でも夾架はまだメニューを見て悩んでる

周防の事を待たせてる。と思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになり、早くしなくてはと必死にメニューを凝視する
綺麗に写真が撮られているのでとても美味しそうだったが、その大半が食べたことのない料理ばかりで、写真と名前を見てもどんな味なのか想像がつかなかった

ペラペラとメニューを捲り、デザートのページまでくると、夾架の目が一層輝く

草薙にミートソースのパスタを一人前の半分ほど食べさせてもらったばかりだったので、デザートなら食べられそうで、味もなんとなく想像がついた

「お決まりでしょうか?」

『うーんとね、このチョコのトルテ、それから、ミルクティーのホット』

「ホットコーヒー、ブラック…」

「かしこまりました。少々お待ちください」

随分と楽しそうにメニューを見ながら、自分に注文を伝えてくる夾架が可愛くて、十束は微笑む

注文をとった十束は、一礼してから店内へと戻って行った
その十束の後ろ姿を夾架はじっと見つめ、穏やかな笑みを浮かべる

『多々良、凄いね』

「ああ」

『尊さんはバイトしないの?』

「しねえ」

『そっか。めんどくさいこととか、細かいこと嫌いだもんね』

十束が働く姿を見て、自分もバイトしてみたいな。なんて夾架は思うも、自分は知識が乏しすぎるから無理か。との事でこの考えはなかった事にした

本当にここの店は人気らしい
近くに座っている女性が話している事が耳に入ってくる
"ここの噂、本当だったんだねー。マジイケメンばっか"
"ねえ、あの人格好良くない?"
"あ、思ったー。彼女いるのかなあー…"
女性の目線の先には十束
注文をとりつつも、女の子となにやら楽しげに会話している

面白くないと夾架は思った
頬杖をつき、人差し指でトントンと机を叩く
行き場のないモヤモヤとした感情が夾架の中で渦巻く

とてつもなく不快で、でもこれが何なのか明確ではなかった為に、尚更モヤモヤしてきた

何にイラついているのか、何が気に食わないのか、夾架は知らない

「…嫉妬」

『しっ…と?』

ずっと無言だった周防が口を開く
夾架は周防が何を言っているのかはさっぱりだった
周防が口にしたとおり復唱してみると、周防は更に口を開く

「好きな奴が違う奴と仲良くしてるのを見ると腹が立つ。してんだろ、嫉妬」

『嫉妬って言うんだ。あたしも随分変わったなぁ…いい気分じゃないね、嫉妬ってものは』

初めてするものだが、あまりしてはいけないものだと感じた
それを受け止める広い器を持たなければいけない。なんとなくそう感じた

「お待たせしましたー。って、あれ…夾架不機嫌?」

『…別に』

十束は運んできた飲み物、ケーキをそれぞれの前に置く
先程まで楽しそうにしてた夾架は今は不機嫌。違いは一目で分かる。しかし本人は違うと言い張っていた

周防となんかあったのかと思うが、周防はいつもと変わらない表情をしているため、どうしたんだと十束は思う
だが、あくまでも仕事中のため、仕方なく夾架らの席から離れる

「いいのか」

『何が?』

「何でもねえ」

変なの。そう口にしながらお目当てのケーキを一口
夾架は思わず泣きたい衝動に駆られた
想像してたよりもずっと美味しくて、濃厚なチョコレートクリーム、フワフワなスポンジ。それらが合わさってできる絶妙な味に感動していた

周防はコーヒーを口にしながら、コロリと態度が変わった夾架を見て、食べ物一つで機嫌を直すなんて、単純な奴だなと思う
そしてその夾架が口にしているものが、甘そうにしか見えなくて、物好きな奴。とも思った

「よくそんな甘いもん食えるな」

『えー、そうかな。美味しいよ?一口あげる』

フォークで一口大の大きさに切り分け、それを周防の口元へ運ぶ
周防は目の前に差し出されたケーキを口に含み、味わってみると、案の定眉を顰めた

「…あめえ」

『普通だと思うんだけどな』

草薙監修の夾架の食事改善計画によって、漸くまともに食事を取れるようになってきたので、少しばかりのデザートなら余裕だった
世の中には色々な物があって、こんなにも美味しい物があるんだと、最近の夾架は食に関しては興味津々だった

だから料理も始めた

十束の多趣味を見習って、夾架も少しずつ色々なことにトライしていこうとしていた
次は何をしてみようか。なんて考えながらミルクティーを啜る
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