long

□06
3ページ/5ページ



「…お前は俺のこと怖くないのか?」

『どうして?尊さん凄く優しいよ。怖いなんて思ったことない』

訥々に何を言い出すのかと思いきや、いつになく弱気な面を見せる周防
そんな姿は未だ見たことがなかった

いつも感情を押し殺して表に出すことなく、変わらぬ態度で、でも時に優しくて、強くて、そんな周防が少し儚げな顔をしてるもんだから、明日は雪が降るかもしれない
夾架は冬物の準備をしなくては。と冗談まじりで思う

「…夾架、お前は変わってるな」

『知ってるよ。尊さんだって変わってる』

そういえば、周防に"夾架"と名で呼ばれたのは初めてかもしれない。と夾架は思う

あの日の夜、周防の好意でクランズマンになったのだが、あれから"てめえ"、"お前"と呼ばれ続け、心のどこかでは、まだ自分が吠舞羅のメンバーとして認められてないんじゃないか、と思っていた
だが、夾架は漸く名で呼ばれ、
今自分がこうしてここにいることも、認められた気がした

『確かにみんな尊さんのこと恐れてるよ。それに、ただ強いから取りいって、自分を守ってもらおう。って思って来る人もいる。でもそれは上辺だけっていうかなんていうか、みんな本当の尊さんを知らない。知らないくせに勝手に変な噂流したり、怖いイメージもったり。本当の尊さんのこと知れば、きっとそんなことなくなると思うんだけど、まあ無理だよね。っていうあたしも、まだまだ尊さんの事よく知らないっていうのが本当の所なんだよね。偉そうなこと言ってごめんね』

夾架の言うとおり、最近夾架がチーム入りをして、吠舞羅の名もより広がった
鎮目町など、少しばかり治安が悪いところでは、この話題は持ちきりだった

バーの運営で忙しい草薙。戦う力を持たない十束。
それに比べてすることもなく、戦える力をもつ夾架は、たまに周防にひっついて回り、周防曰くの退屈な小競り合いに付き合っていた

奇妙な力を使うだけでなく、ケンカの強い女がいるともなれば、周囲の目も変わる

その相乗効果により吠舞羅の知名度はグンと上がり、無謀にも戦いを挑んで来る者、仲間になりたいと言う者、色々いた

最近の周防はより一層、ストレスが溜まっている様に感じられた

『尊さんは、人が怖い?』

「あ?…んなことねえよ。夾架、いつまでもさん付けしてんじゃねえ、気分悪くなるだろ」

本当に意外だった。まさか王が、自分にそんなことをいってくれるなんて
夾架は危うく持っていたカップを落としかけ、慌てて両手で掴む
チラリと周防を見てみれば、恥ずかしげもなく平然としていた

夾架はそんか言葉1つで嬉しがる自分を、先程周防も思った様に単純だと思う

「そうだよね、ごめん尊。…あたしはさ、尊ももっと笑えば良いと思う」

「…バカなこと言ってんな」

冗談ではあるが冗談ではない
だが少しだ周防の表情が和らいだ気がした

やればできるじゃないか。
夾架は心の中でそう思っていた

ーーーーー


『尊、バーに戻る?』

「ああ」

完食し、満足。といったところで、さっさとお暇することにした
夾架がカードでちゃっちゃと支払いを済ませ、店から出る

『先帰ってて。あたし色々買いたいものあるから、買ってからバーに戻るね』

「帰ってこれんのか?」

『やだなあ。バーまでだったら迷わず帰れるよ』

流石にそこまでバカじゃない夾架はそういって、周防と店の前で別れ、人混みの中へと消えて行く

周防にとって夾架の背中は随分と小さいものだが、少しだけ逞しくなった気がした
背中を任せたこともあった。もちろん夾架は周防の背中を守りきった

周防も夾架の実力を認めていた
十束により抑えられているが、ストレインの能力と赤の力の両方を組み合わせた巧みな戦い方をしたりと、自分を最大限に活かしていた

少し前までは、目を離すとふらりと何処かに消えてしまいそうな程だったのに、今はしっかりと存在している

今後、夾架は強い良い女になるだろう
周防はフン。と鼻で笑い、夾架が進んで行った道とは逆に歩いて行く
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ