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「ただいまー」

『ただいまーって、ここあたしの家なんだけどなー…』

「もう俺の家同然だもん。…ダメ?」

『別に、ダメじゃないよ』

バーに戻って少し話をして、例の少年らの話もして、十束の帰りを待たずに夾架は自宅に戻った

草薙監修の夾架の食事改善計画では、食べたくない気分でも少し食べろと強く言われているので、自宅で夕食を軽く取り、テレビを流し見しながら、端末を弄っていた
リラックスしてきたところで、玄関の扉が開く

そして当たり前の様に入ってきて、"お邪魔します"ではなく"ただいま"と言う
いかにもここは自分の家だ。と言うように上着も脱ぎ、所定の位置にハンガーでかける

十束がこの家にも慣れ、住み着き始めているのは夾架も了承している

夾架の住むマンションのセキュリティは、顔を認識するプログラムと、指紋認識プログラムが組み込まれたもので、少々手間はかかるが、登録さえすれば楽なもんだ

各々の部屋については、端末にキーをいれておけば誰でも開けられる

夾架が十束を信頼しているからこそ、こうしていつでも出入りできるようにしている

『お疲れ様。ご飯は食べた?』

「うん。バーで食べてきた。バーに帰ったら夾架がいなくて焦ったよ」

『ずっといたら、出雲さんに迷惑かけちゃうでしょ。今日は手伝わなくていいからって、言われたから帰ったの』

あれだけ忙しそうに働いていた十束の表情に、大した疲労の色は見えなかった
いつも通りヘラーっとした感じで、ちゃんと手を洗うのを忘れずに済ませてから、ソファーに背を預けてフローリングに体育座りする夾架の隣に腰掛ける

「夾架、妬いてくれたんでしょ?キングから聞いたよ」

『なっ!別に…妬いてなんか…ない…//』

十束は夾架の肩を抱き寄せた
まさか周防がそんなことを十束に言うなんて、思ってもみなかった夾架は恥ずかしさのあまり、膝に抱えていたクッションに顔を埋めた

十束に嘘は通じないのはわかっているが、どうしても恥ずかしいことには未だに慣れず、顔を死んでも見られたくなかった

「顔、見せて?」

『や、やだ…///』

「いいから」

『……っ///』

死んでもみられたくなかったはずなのに、耳元で囁かれると一発KOされてしまう
夾架は耳が弱点であり、それを踏まえての十束の戦法なのだ
夾架はおずおずとクッションから顔をあげると十束にキスをされる

「すっごく嬉しい。嫉妬するってことは、俺を思ってくれてる証拠だよね。夾架、嫉妬しなそうなタイプだから不安だったよ」

『あたしだって、するもん…///』

夾架は誰よりも十束を思っていた
実際十束が思ってるよりも思っているし、中学生との会話で自分は一途だ!と堂々発言した

夾架は涙ぐんだ色気ある瞳で十束を見つめ、初めて自分から唇を重ねた

「俺もさ、今日ちょっとしたよ。夾架がキングにあーんしてるし、すっごい楽しそうに話してるからさ」

『多々良も妬いてくれたんだ…///』

「男の嫉妬ほど醜いものはない。ってよく聞くけどね」

『ううん、嬉しい…//』

夾架は十束にもたれかかり、胸いっぱいの幸せを噛みしめる

触れた肩から伝わる体温が心地よくて、眠気のようなものが訪れる
十束の傍でこうしていると暖まって、今すぐにでも寝れそうだった
周防や草薙といる時には、それぞれ違う良さがあった
だがダントツで十束と話しているときが好きだった

離れてしまうのが辛くて、十束が家に帰ってしまう時はもどかしい
寝つきも悪くなるし、目覚めも悪い
しかし、起きた時に隣で眠る十束の姿を見ると安心する

『泊まってくよね?』

「もちろん。ベッド大きいし、夾架と寝るの好きだし。夾架抱いてると凄いフィットして、丁度良いんだよねー」

今日は寂しい思いをしなくて済むらしい
夾架はホッと息を吐き、目を閉じた

それから少しの間、お互いが無言となり、テレビの音がやけに大きく感じた

2人が一緒にいて無言。と言うことは度々あり、その都度お互いがお互いのことを考えていた

『多々良…』

「なあに、夾架」

『離れたくない』

「俺もだよ」

ポツリポツリと呟くような短い会話だが、意味は何重にもあって、とても不思議な会話だった

言葉で伝える以前に、心が繋がっているからこそ、…言われなくても分かるに、考えているだけで自然と口から出て行ってしまう

「一緒に暮らそっか」

『心読まないで』

「そんなこと言われましても、わかっちゃうんだもん」

答えなんて聞かなくても分かってるだろう
それはお互いが望んでいたことで、今漸くスタートラインに立った

既に夾架の部屋のタンスには、十束の服も何枚か入っている

色々な物がおいてあって、現在十束が借りているアパートを引き払いさえすれば、ボストンバッグ1つで引越し出来るかもしれない

「さて、お風呂入りに行こっか。一緒に入るでしょ?」

『えー、多々良スケベだからやだー』

「えー、その言い方はないよ夾架ちゃん」

『冗談。ほら早く入ろ!ドラマ始まっちゃう』

「はいはい」

買ってきたばかりの入浴剤でもいれて、長ったらしく風呂に入って、みたいドラマを見て、それから一緒に寝て。たまには寝坊してみるのもいいかと



これ以上の幸せなんて
あるのかな
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