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そのとき、夾架が言ったとおり扉がひらき、ひょこっと十束が入ってきた

「ただーいま」

十束は何食わぬ顔をしていた
墓参りに行ってきたはずなのに、余韻を残すことなく、寧ろいつもより清々しい顔をしていた

夾架は、十束を見た瞬間に、止まったはずの涙が再びとめどなく溢れた
そのまま思い切り、飛びつくようにして十束に抱きつく

「えっ、ちょ、何っ?…いっつー……」

いきなりすぎて、体制も整ってなかっ十束は、そのまま倒れて床に背中をうちつけた
夾架が押し倒したような形となり、草薙はやっぱりか。とため息をつく

「夾架、どうしたの…?」

『…………』

十束は床に背をつけたまま、自分の胸板に顔を埋める夾架に視線をやる
夾架がどんな表情をしていたのかは、前髪で隠れていてわからなかった

「夾架…?」

様子を伺うようにして名前を呼んでも返事はなかった
ぎゅっと十束の服を握りしめ、十束の胸で小さく震えていた

困り果てた十束は、ヘルプ、という意を視線に込めて草薙へ送る
助け舟が出された瞬間に草薙は視線を逸らし、十束を見捨てた

「草薙さーん…」

「十束が悪いんや。ちゃんと話し聞いたれ」

「えー、困ったなぁ。ねぇ夾架、話し聞かせて?」

十束は夾架の前髪を軽くかきあげ、その表情を確認した

瞳にいっぱいの涙を浮かばせながら、震えた声で言う

『…なんで…なんで言ってくれなかったの…?』

「…もしかして、聞いたの?」

『聞いたよ…』

十束は全てを察した
草薙に聞いてしまったのか。と、ちらりと横目で草薙をみれば、再び視線を逸らされた

「ホントはさ、今から全部話そうかなって思ってたんだけど、手間が省けたよ」

『バカ…阿保…』

たいして痛くなかったが、夾架は十束の胸をグーでドンと叩き、その拳をぎゅっと爪が食い込むくらいに握りしめ、消えそうな声で言った

『辛かったんだよね…ゴメン、あたし…何も知らなくて…』

繋がっているのに、気づけなかった。

気づく依然に、そんな素振りを一切見せることがなかった
だいたいの人なら、精神に潜り込んだだけでわかってしまう
黒や灰、その人の心情によって色もかわる

それなのに十束の精神世界は真っ白で、なんの曇りもなかった

捨てられたことに関しては何も思っていない。本当にそうみたいだ
気にしてないから、心に映ることもない

だから気づかなかった

仕方のないことかもしれないが、それでも気付けなくて夾架はショックだった
自分のことは話すだけ話して、十束のことについては、実はあまり聞いたことがなかった
十束のことを考えていたはずなのに、それはお門違い
全然ダメじゃないか。そう思うだけでため息をつきたくなる

「夾架、俺さ、夾架の方が辛かったと思う。俺なんか比じゃないくらい、辛い思いしてきたでしょ?俺、親のこととか、全然気にしてないよ。それに今、幸せだからいいんだ」

『多々良…』
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