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「俺さ、あの人に、お前は薄情だって言われたことがあるんだ」

十束が中学に入ってすぐ、義父に言われた言葉
中学生とは言っても、まだ難しいことはよくわからなかったので、その時は気に留めることなく、受け流していた

しかしある時気付いた
やはり自分は薄情な奴なんだ。と

「お前は色んなことをやってるけど、何にも執着しない。いつかお前も、何かに執着出来るようになるといいな。って言われた。だから今日、報告しに行って来たんだ」

『…報、告…?』

「そう、報告」

いつか、義父の言った望みを叶えられることが出来たなら、必ず報告しに行こう。と昔から決めていた
そして漸く叶え、念願の報告、となったのだ

「執着できる人、見つかったよ。って」

穏やかな笑みで、バー全体を見渡し、それから最後に夾架を見る

「キングに草薙さん。吠舞羅は俺にとって、大切な居場所だ。それから夾架。夾架とは、まあ運命かな。大好きで守りたくなる。夾架見てると危なっかしくて、ずっと俺が傍にいないとって思うんだ。ずっと探してた執着できる人、見つけたから、絶対離れたくない。だから頑張るね。って報告してきたんだ」

漸く話したかったことを全て義父に話すことが出来、十束はとても嬉しかった
たまにこうして、近況報告に行くのも悪くないなと思ったのだ
きっと義父も喜ぶだろうと、天国にいる義父の顔を夢想した

「今度、夾架も一緒にお参りしに行こうよ。夾架の可愛さ、見せつけてあげたいんだ。…ダメかな?」

『…………行く///』

十束は特に何も気にせずベラベラと喋っていたが、ちょくちょくと出てくる口説き文句の様なものを夾架は聞き、頬を紅潮させる

こんなに可愛い彼女みたら、吃驚するかな。

なんだかんだ言って、十束は義父思いだった
亡くなった後もこうして、色んな面から義父を思い、そんな義父は良い息子を持ってさぞ幸せだろうに

『これからは、隠し事無しね…?』

「りょーかい。努力します」

泣き笑い、儚げに、でも精一杯の笑顔を十束に向け、左手の小指を十束に差し出す
夾架の指に、十束も自分の小指を絡ませた

十束も笑って見せると、笑顔だった夾架の顔がみるみる変わっていく。また泣き出したのだ

「もー、泣かないでよ」

『…だって…だって、多々良が…』

「夾架は泣き虫だなー」

『そ、なこと…ない…っ』

泣き顔もまた可愛いもんだ
口元を手で覆ったりする仕草も、実に女の子らしくて、見てるだけで飽きなかった

潤んだ瞳で上目遣いなんてされたら、それこそもうダメだった

「夾架、泣き顔はやっぱり反則だよ…」

「盛んなや十束。ほら夾架、目冷やし。また赤なっとるで、泣きすぎや」

十束は夾架に
キスをしようとしていた
寸前のところで、すっかり存在を忘れていた草薙に止められた

カウンターの内側から出て来て、よく冷えたタオルを夾架に渡す

渋々とだが十束の上から退いて、草薙から受け取ったタオルを目にあてる

「あとちょっとのとこだったのになー…草薙さん意地悪」

「意地悪やない。普通の反応や。いちゃつくなら家帰ってからやり」

「はーい…」

十束は不服そうに口を尖らせる
そんな十束を草薙は軽く小突き、それから思い切り頭を撫でた

「ちょっ、何するのさ!」

「バカップルみてたら、こっちまでバカんなるわ」

草薙によって盛大に乱された髪を軽く整え、十束は再び口を尖らせる

"どうせバカップルだもん"と思えば"一緒にしないで"と冗談めかしく夾架が思ったというのが、自然と伝わってきた


2人は所構わずいちゃつくことが多かった
2人は、というよりは、十束が一方的に攻めるということなのだが

草薙はもう慣れたはずなのに、見せつけられてる気がしてイラっとくる
燃やしてしまいたい衝動に駆られるが、ここは大事な大事なバーだ
手塩にかけて創り上げて来たものを、自らうっかり焼き払うなどという事だけは、絶対に避けなければならない

見てみぬふりをしたいけれど、あくまでもここは自分の店
草薙は煙草に火をつけ、心を落ち着かせるための一服を


公園で1人、そんな夾架を見て、すぐに昔の自分が思い浮かんだ。
あのときはの俺と重なって、何故か放っておけなくて…


俺は無意識に
昔の自分と夾架を重ねていた
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