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夾架の身体の内にある、十束の温もりが消えた

罪悪感を感じつつも、夾架は強制的に、自ら十束のとのリンクを断ち切った
吠舞羅に来てからずっと十束と繋がっていた為、施設にいた時に完璧にではなかったがやっていた制御の仕方を忘れてしまい、今まで十束に抑えられていた力が、身体に戻ってきたのをすぐに感じる事ができた
抑えていたから余計に溢れ出て来る
しかし自力で抑える事が出来ない力は、すぐに夾架のキャパシティ超えた

精神のフラつきが気分を害する
先程からどうも覚束ない足取りで、フワフワと身体が浮いたような感覚と、グラつく視界
夾架の意思なんてまるで無視しているようで、激しい頭痛と、耳鳴り、倦怠感、異様なまでに重たい身体
全くと言って良い程、いうことを聞いてくれやしない

想像してたよりもずっと苦しい

少し頭を冷やしたかった
悪いのは自分だと分かっていたから、今更帰れないし、何を言っていいのかも分からなかった
こんな状態のまま帰ったって、恐らくまた喧嘩になるだけ

それから、最近の自分は甘えすぎている気がした
十束がいなくても、自分1人でやっていける
勝手にそう決めつけて、自立しようとリンクを切った矢先にコレ

いつもリンクを外す時は完全にではない
心で繋がっていたから、こんな風にならなかった

しかし心まで離れてしまえば、今まで何処かに溜められていた力が一気に身体の中に流れ込んできて、夾架の身体にかかる負担が増える

周防に赤の力を貰った時のように、急に流れ出した莫大な力に身体がついていけず、異常をきたしていた

ー結局あたしは、多々良がいないと何も出来ない…。
いつまで経っても1人前になれない。
…どうしてこんなことになっちゃったんだろう。

変わりたい。ずっと願っていた
変わったはずなのに、根本的には何1つとして変われていない
これからも、人の迷惑を被って、誰かに頼りながらでしか、生きていけない?

この力が有る限り、一生自由になんてなれないと、気付いてしまった
自由だと思い込んでいただけで、結局は力に縛られたまま

どうしたらいいんだ
バーから出てきたは良いが、出てきたって何も変わらない
余計に迷惑をかけているのは分かっている

でも自分が言ったことは正しいと思っている

自分の内に溜めているエネルギーを、少しずつでいいから放出し続けなければ、身体の方が保たなくなるのは分かっていた
十束と繋がる事で能力を抑えられる事は事実だが、その力が消えて無くなっているわけではないようだ
自分の中でだけで抑えきれない力を十束に預ける
リンクを切ると預けていた力が全て夾架へと戻る
力さえなければただの一般人である夾架に、莫大なエネルギーを収容できる大きな器というものは、夾架は持ち合わせていない

十束がどれだけ力を預かってくれるかわからない
十束に預けられなくなって、また自力で力を抑え、溜めなければいけなくなってしまったら
力をずっと中に押しとどめておいたら、自らの力で自らを滅ぼしかねない

変わりたいけど、変われない
一生付き纏うであろつ力を、好きになれたはずなのに、やはり好きになりきれていなかった

好きだと思わせていたのは、十束の存在というものがあってのことで、自分から突き放したのに、こんなことを思うなんて都合が良すぎる

自分の不甲斐なさに腹が立つ

余計に気分が悪くなり、夾架は歩を止める

『っ…はぁ…、はぁ…』

ゆっくり歩いていて息切れなんてする訳がないのに、妙な息苦しさがあって、何も怖くないのに足が竦んで、何かに押しつぶされそうだった
もうすぐ夏が終ろうというのに、凄まじい悪寒がして、ブルりと身体が震えた

視界がぼんやりと暗くなり始め、光が入らなくなる。瞼が重い。
意識が途絶え始め、でもなんとか気力で保っている状態だった

ーこんなところでぶっ倒れる訳にはいかない…。

救急車なんて呼ばれてしまったらひとたまりもない
なんとか休めるところまでは

ーあ…やば……。

がくりと全身の力が抜け落ち、夾架は倒れそうになる
訪れるであろう衝撃に備え、身体を強張らせぎゅっと目を閉じた

「…大丈夫ですか?」

『………え?』

「奇遇ですね。こんなところでまたお会いできるなんて、思ってもみなかったです。しかし、今日は随分と具合が悪そうですね」

倒れると思ったのに、何かに抱きとめられていて、耳許で聞いたことのある声がする
うっすらと開かれた瞳で見上げる

『むな…か…たさ…』

その人物を確認し、夾架はホッとしたのかそのまま気を失い宗像に身体を預けた

「おやおや…」

自分の胸の内で、いきなり気を失ってしまった夾架を見て宗像は驚くものの、口角を釣り上げ怪しげな笑みを浮かべていた

奇遇。と言っていたが、こうなることを予想していたかのようだった

宗像は夾架を抱き上げて歩き出す
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