long
□10
3ページ/3ページ
「まずは紹介からだよねー」
『うん。改めまして、あたしは九乃夾架。19歳。このいかにも人の良さそうなのが十束多々良。あたしと同い年だけどまだ18。あの背の高い京都弁のおにーさんが草薙出雲。22なんだけど、ここのバーの経営者さん。それから、あのこわーい赤髪が周防尊。このチームのリーダーというか王様、実際は優しいから大丈夫。見たとおり若いのばっかでコワモテのおじさんとかいる、不良とかヤクザのチームじゃないから安心して』
「へー……」
今ここにいるのは変わらず6人で、他のメンバーはまだ来ていない
来しだい紹介すればいいかなー。ということで、とりあえず。だ
『先に王のこと、話すべきかな…』
「せやな。何も分からずに力もろて、後でどうこう言われたらかなわんからなー…」
『んー、そっかー…』
かくかくしかじか、これがこうでそーなって、どうこうして、こうなんだよ。
『ってわけです。OK?』
マイナーなこと、ミーハーなこと、何から何までベラベラと相当早口で、王のことのくだりを説明していった
「いや、んな早口で言われても…わかんねぇっすよ。ここがクランってやつ?で、あの人がなんか王とかいう偉い人で、あんたらがクランズ…マン?ってことくらいしか…」
『それぐらい分かってれば大丈夫。ダモクレスとかドレスデンとか、そういうカタカナ系はいつか覚えてくれればいいからさ。とりあえず、まあ、ただの集団じゃないから。あたしたちは物を簡単に破壊できる強い力を持っていて、社会を動かすことだって出来る。前も使って見せたけど、こういう変な能力を使えたりするんだ』
夾架は何処からかレシートの様な紙を取り出して、少年らの前で、一瞬で燃やして見せた
紙は灰すら残らず消えてしまい、微かに炎の暖かみが残る
『尊…いや、王に認められた者のみに力が与えられ、王の配下、クランズマンになれる。この力で王を守るのがあたしたちの役目。別になんかと戦ってるわけじゃないんだけどね。表向きはバーHOMRAに集まる吠舞羅っていうチーム。裏では第三王権者周防尊とその仲間たちの集会所である、赤のクラン。知る人ぞ知るあたしたちの本性なの』
「そんなとこに、なんで俺らのこと誘ったんだよ。俺ら、ただの中学生だぜ?」
「夾架は俺たちが感じている物とは違う物を感じる力を持つ、特異能力者だから。まあ、そこら辺はあんまり気にしない方がいいよ」
確かにハタからみたらただの逆転ナン
しかし最初に出会った時から、十束の言う通り、2人に対して何か違う物を感じていた
実は予知能力とか、そんなもんがあるんじゃないか。時に疑いたくもなるが、7割くらいは女の感というものが働いているから、その考えはなかったことになる
『そういえばさ、2人の名前まだ聞いてなかったね』
裏事情を説明するのでていっぱいだった
自分らはさっさと名乗ってしまったが、肝心の2人の名前を聞いていないことに夾架は気づいてしまった
夾架は少年らに問いかけた
『ほら、名乗って名乗って!』
「………八田」
オレンジ髪がボソリと呟いた
何か嫌そうな顔をしているのは気のせいなのか
『八田ね。ファースネームはなんていうの?』
「…………八田」
『八田八田っていうの?変わった名ね…って、マジメに答える気ないの?』
ちょっとノリ良く冗談に付き合ってみたが、すぐにバカらしくなった
夾架はムスッとしながら八田と名乗る少年を見ていたが、八田はそっぽ向いて、どうやら真面目に名乗る気はないようだ
「美咲」
メガネの少年がボソリと呟けば、八田はすぐなか目をカッと見開いてメガネの少年を睨む
「自分、八田美咲ってゆうんか。随分とまた、かわええ名前やなー」
『美咲くんかー。よろしくね!!』
ようやく名を教えてもらい、夾架は嬉しそうに八田の頭をポンポンと撫でた
すると、八田は顔を真っ赤にしながら夾架から飛び退く
「下の名前で呼ぶんじゃねえ!//」
『え…あ…ご、ごめんなさい…』
「君、変わってるねー。俺的には良い名前だと思うんだけどなー」
「いーから呼ぶな!!」
まるで犬みたいだった
ぎゃんぎゃんと吠えかかってきて、十束は困りながらもその様子をみていた
チワワ。という種の犬が、すぐに頭の中に浮かんできて苦笑い
『君の名前は?』
十束と八田がワイワイとやっているのを放置して、メガネの少年に尋ねた
「…伏見、猿比古」
『君も、下の名前で呼ばれることに抵抗あったりする?』
「別に。あいつと一緒にしないでくれませんか」
『そう。よろしくね。猿比古くん』
夾架は八田と同様に伏見の頭をポンポンと撫でた
チッと短く舌打ちをされたが、気にせずニッコリしていた
そういえば八田は小さいが、伏見は自分より大きい。と夾架は思う
3.4歳ほど年下だが、既に差ができていて、成長期の男は凄まじい
「くんはやめてもらえますか」
『……こだわりあんじゃん』
ー…何故だ。
ここの男共は、呼ばれ方に執拗にこだわる。めんどくさー。
おっといけない、多々良に伝わったらもっとめんどくさくなる。
「夾架ー、なんか呼んだー??」
『なんでもない!』
ー危ない危ない…。
ほんと、いつどんな風に、人の心読むかわかんないからね、はあ…。
「夾架、ストレインのことはええんか?」
『あぁー…、そっか。話さないとあとあとめんどくさいよね』
このまま吠舞羅に入ってもらえるなら、ストレインのことを知っておいて貰わないと、少々困ることもあるだろう
夾架が草薙にアイコンタクトを送れば、草薙は右手の人差し指を立て天井に向け、その指先に炎を灯した
夾架はその、赤く揺らめく美しい炎に、遠巻きに手をかざす
すると、炎が一気に膨れ上がり、関節2つ分ほどの高さで細い炎から、拳一つ分ほどの力強い炎へと変わる
それから夾架がスッと目を細めれば、炎は一筋の煙をたたせ、鎮火された
「これ、俺の意思やない。俺はずっと、最初くらいの大きさで灯してたつもりや」
「タネも仕掛けもなく、正真正銘。夾架が操作したんだよ」
距離もあったので、吹き消したわけではないのは分かる
ましてや、炎の火力をあげさせるなんて、普通、何も使わずには無理だ
ー…なんだよココ。…普通の集団じゃねえ…。
『なんだよココ。普通の集団じゃねえ。そう、あたしたちは普通じゃないから。普通じゃなくて結構。平凡より非凡の方が、生きてる実感、湧くんじゃないかな』
「お、おい、俺まだなんも言ってねえぞ…」
ーやっぱココ、すっげー変…。
『やっぱココ、すっげー変。か…。うん、だから、ここはクランなの。変っていうよりは"特別"って感じかな』
夾架はいつになくニコニコしていた
目の前で戸惑う八田を見て楽しんでいるようだ
やはり、中学生にこんな話をしても、理解するのには時間がいるのか
早まりすぎたかと思うも、それなりには理解されている様で、今の段階ではそれで良いということにした
ーチッ、めんどくせえ…ややこしいんだよ…。
『めんどくさいとか言わないの。あと舌打ちも』
「してないんすけど」
『心の中でバリバリしてたでしょ。まあそれはいいとして、とりあえずあたしには、尊から貰った力とは別の力がある。王から与えられたのではなくて、固有の、強い力。数少ないんだけど、その人たちのことを、はぐれ能力者だとか、ストレインっていうの。能力を持っていたとしても、普通は一種類、でもあたしは二種類。これは特別というよりは"異常"にあたる。色々あったんだけどさ、その話はいつかしてあげる』
さすがにここまで話してしまったのなら、もう後には引けなくなる
一般人が裏社会を知りすぎると、後々危険な目にあうことは、避けては通れない
夾架はそれを承知の上で話したし、八田と伏見も、なんとなくだがそれを感じ取っていた
『あー…、また難しい話になっちゃったね。とりあえずあたしたちは、裏社会で生きる人間。だだのチンピラじゃない。其れ相応の危険を伴い、死ぬかもしれない。…それでも、そんなあたしたちの仲間になる気、あったりする?』
八田と伏見は固唾を飲んだ
後に引けないならいっそ、いけるとこまでいってしまえば良い
きっと、たいくつな人生とも、オサラバできる
そう信じて、2人が出した答えは"YES"だ
彼らの鬱屈感を、あたしが取り除いてあげたかった