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『あ』
「どないしたん?」
『…あの子たち、こないだの』
街の片隅で、地面に座り込んでいる少年2人を夾架は指差した
不貞腐れ、つまらなそうな顔をしている彼等には見覚えがあった
数ヶ月前に、夾架が助けた中学生だ
草薙には、そのことを話してある
久しぶりに彼等の姿をみて、夾架は相変わらずだと思った
だるそうな顔と、いい具合に着崩した制服、まったく変わっていない
夾架が3人を連れ、少年らの元へ歩みを進めた時、オレンジ髪の方がビンを投げた
道端へと放り投げたかったのだろうが、そのビンは周防の元へと、綺麗な弧を描き飛んでいく
これはマズイ。夾架は顔を引きつらせ、周防を見る
まだ中身は入っていて、恐らくコーラ
周防はそれを避けようとはせず、片手でキャッチし、中身をゴクリゴクリと飲み干した
「尊、中坊ヒビらせなさんな」
「なっ、ビビってなんかねーよ!!」
オレンジ髪が吠える様にいっているが、眼鏡の方は戸惑っていた
周防は空になったビンを少年たちに返すかの様に放り投げた
だが、ビンは空中で発火し、地面で液体の如く溶けてしまった
周防はそのまま、2人に背を向けて歩いて行ってしまい、少年らは奇妙なものを見る様なめで自分たちを見ていた
『久しぶり。あたしのこと、覚えてる?』
夾架は軽く手を振りながら少年らの前に姿を晒した
少年らは夾架の顔を見てハッとなる
そういえばこの女も変な力を使っていた。
思い出せば、ビンが1人でに燃えたということも収拾がつく
「あの時の…」
「痴女…」
オレンジ髪の、夾架に対する印象は普通だったがら眼鏡の少年には、どうも誤解されている
「夾架、お前中坊に何したんや」
『なっ、何もしてないわよ!//前も違うって言ったじゃない…//』
慌てて夾架は否定したが、眼鏡の少年にジッと見られれば、言葉に詰まる
先ほどからやりとりを見ていたが、いまいち状況を掴めていない十束
不思議そうに首を傾げている
「夾架の知り合い?」
「顔見知りってところや。ちょっと前に、路地裏で絡まれてるん見つけて、助けたんやて」
「あー…なんか、夾架らしいねー…」
実に夾架らしいと思った
いつのまにか繋がれていた手が離れていて、少々不服だったが、十束は気にしちゃダメだと自分に言い聞かせた
『随分退屈そうだね。ねぇ、することないなら、あたしたちと一緒に来なよ』
夾架は座り込む少年らに微笑みを向けながらそう言った
直訳すると、吠舞羅に入らない?だが、あえて回りくどく言えば、少年らは口を揃えてこう言った
「「は?」」
「なに、ナンパ?綺麗な顔して歳下を、しかも中学生をナンパとかえぐー。まあ痴女だからな…」
眉を潜めてしかめっ面をしていた
メガネの方なんて、更に口を開けば毒のある言葉が出てきた
『ちっ、違うってば!//痴女じゃないしナンパなんてしてない!』
「いやー、今のは普通にナンパだったと思うなー」
「せやな。もうちょっとちゃんと言葉選び」
『2人とも酷いなー…』
フォローくらいしてくれたっていいじゃないか、期待していた自分がアホみたいに思えてくる
淡い期待は簡単に裏切られ、儚く消えていった
それならば、と夾架は両の手を少年らの前に差し出した
『そんなところで腐ってるくらいなら、あたしたちの仲間になって、あたしたちと戦おうよ。楽しいよ、案外。溜まってるもの全部ぶっ放せるし、きっとあなたたちの居場所になれると思うの。…どう?』
「どうって…言われても、なあサル?」
「あ、ああ…」
少年らは差し出された手に戸惑い、お互いに顔を見合わせていた
もとより、そう簡単に手を取るとは思ってなかったので、夾架はしょうがないかと思う
『別に強制じゃないよ。ただ、あなたたちのこと放っておけなくて。あ、嫌ならいいんだからねっ?選ぶのはあなたたちだから…あたしは強制できないし。あなたたちが入ってくれたら、もっと楽しくなるし、えっと…あ、本当に嫌ならいいんだからね?』
ーわざとらしー…。
明らかに企んでいるのが十束には丸わかりだった
押して、引いて、猫をかぶって。そうすれば釣れると分かっているから、夾架は計算高く、知能を全力で働かせ、話を進めていく
夾架が少し残念そうな顔をすれば、少年らは再び顔を見合わせた
「別に、嫌とは言ってねえ…けどよ…」
『じゃあ決まりだね。ようこそ吠舞羅へ』
夾架が再び両手を彼らに差し出せば、少年はおずおずと夾架の手をとった
夾架に手を引っ張られ、立ち上がれば、周防が不敵な笑みを浮かべているのが見えた
『あたしたち、あの赤髪の怖そーなおにーさんに仕えてるの。あの人は王様、あたしたちは家来』
「そ……っすか…」
一見怖そうだが、単にダルがりなだけ
きっと、周防も2人の加入は認めているし、テストにも合格すると思っている
なので、さっさとバーに帰ってテストをして、色々説明してしまおう
『よし、帰ろう!あたしたちの溜まり場に』
「溜まり場やない、俺のバーや。そこちゃんとわきまえてくれへんと、もう入れないで」
「そんなの変わんないってー」
「変わるわ!!」