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「まずは紹介からだよねー」

『うん。改めまして、あたしは九乃夾架。19歳。このいかにも人の良さそうなのが十束多々良。あたしと同い年だけどまだ18。あの背の高い京都弁のおにーさんが草薙出雲。22なんだけど、ここのバーの経営者さん。それから、あのこわーい赤髪が周防尊。このチームのリーダーというか王様、実際は優しいから大丈夫。見たとおり若いのばっかでコワモテのおじさんとかいる、不良とかヤクザのチームじゃないから安心して』

「へー……」

今ここにいるのは変わらず6人で、他のメンバーはまだ来ていない
来しだい紹介すればいいかなー。ということで、とりあえず。だ

『先に王のこと、話すべきかな…』

「せやな。何も分からずに力もろて、後でどうこう言われたらかなわんからなー…」

『んー、そっかー…』

かくかくしかじか、これがこうでそーなって、どうこうして、こうなんだよ。

『ってわけです。OK?』

マイナーなこと、ミーハーなこと、何から何までベラベラと相当早口で、王のことのくだりを説明していった

「いや、んな早口で言われても…わかんねぇっすよ。ここがクランってやつ?で、あの人がなんか王とかいう偉い人で、あんたらがクランズ…マン?ってことくらいしか…」

『それぐらい分かってれば大丈夫。ダモクレスとかドレスデンとか、そういうカタカナ系はいつか覚えてくれればいいからさ。とりあえず、まあ、ただの集団じゃないから。あたしたちは物を簡単に破壊できる強い力を持っていて、社会を動かすことだって出来る。前も使って見せたけど、こういう変な能力を使えたりするんだ』

夾架は何処からかレシートの様な紙を取り出して、少年らの前で、一瞬で燃やして見せた
紙は灰すら残らず消えてしまい、微かに炎の暖かみが残る

『尊…いや、王に認められた者のみに力が与えられ、王の配下、クランズマンになれる。この力で王を守るのがあたしたちの役目。別になんかと戦ってるわけじゃないんだけどね。表向きはバーHOMRAに集まる吠舞羅っていうチーム。裏では第三王権者周防尊とその仲間たちの集会所である、赤のクラン。知る人ぞ知るあたしたちの本性なの』

「そんなとこに、なんで俺らのこと誘ったんだよ。俺ら、ただの中学生だぜ?」

「夾架は俺たちが感じている物とは違う物を感じる力を持つ、特異能力者だから。まあ、そこら辺はあんまり気にしない方がいいよ」

確かにハタからみたらただの逆転ナン
しかし最初に出会った時から、十束の言う通り、2人に対して何か違う物を感じていた
実は予知能力とか、そんなもんがあるんじゃないか。時に疑いたくもなるが、7割くらいは女の感というものが働いているから、その考えはなかったことになる

『そういえばさ、2人の名前まだ聞いてなかったね』

裏事情を説明するのでていっぱいだった
自分らはさっさと名乗ってしまったが、肝心の2人の名前を聞いていないことに夾架は気づいてしまった

夾架は少年らに問いかけた

『ほら、名乗って名乗って!』

「………八田」

オレンジ髪がボソリと呟いた
何か嫌そうな顔をしているのは気のせいなのか

『八田ね。ファースネームはなんていうの?』

「…………八田」

『八田八田っていうの?変わった名ね…って、マジメに答える気ないの?』

ちょっとノリ良く冗談に付き合ってみたが、すぐにバカらしくなった
夾架はムスッとしながら八田と名乗る少年を見ていたが、八田はそっぽ向いて、どうやら真面目に名乗る気はないようだ

「美咲」

メガネの少年がボソリと呟けば、八田はすぐなか目をカッと見開いてメガネの少年を睨む

「自分、八田美咲ってゆうんか。随分とまた、かわええ名前やなー」

『美咲くんかー。よろしくね!!』

ようやく名を教えてもらい、夾架は嬉しそうに八田の頭をポンポンと撫でた
すると、八田は顔を真っ赤にしながら夾架から飛び退く

「下の名前で呼ぶんじゃねえ!//」

『え…あ…ご、ごめんなさい…』

「君、変わってるねー。俺的には良い名前だと思うんだけどなー」

「いーから呼ぶな!!」

まるで犬みたいだった
ぎゃんぎゃんと吠えかかってきて、十束は困りながらもその様子をみていた
チワワ。という種の犬が、すぐに頭の中に浮かんできて苦笑い

『君の名前は?』

十束と八田がワイワイとやっているのを放置して、メガネの少年に尋ねた

「…伏見、猿比古」

『君も、下の名前で呼ばれることに抵抗あったりする?』

「別に。あいつと一緒にしないでくれませんか」

『そう。よろしくね。猿比古くん』

夾架は八田と同様に伏見の頭をポンポンと撫でた
チッと短く舌打ちをされたが、気にせずニッコリしていた

そういえば八田は小さいが、伏見は自分より大きい。と夾架は思う
3.4歳ほど年下だが、既に差ができていて、成長期の男は凄まじい

「くんはやめてもらえますか」

『……こだわりあんじゃん』

ー…何故だ。
ここの男共は、呼ばれ方に執拗にこだわる。めんどくさー。
おっといけない、多々良に伝わったらもっとめんどくさくなる。

「夾架ー、なんか呼んだー??」

『なんでもない!』

ー危ない危ない…。
ほんと、いつどんな風に、人の心読むかわかんないからね、はあ…。

「夾架、ストレインのことはええんか?」

『あぁー…、そっか。話さないとあとあとめんどくさいよね』

このまま吠舞羅に入ってもらえるなら、ストレインのことを知っておいて貰わないと、少々困ることもあるだろう

夾架が草薙にアイコンタクトを送れば、草薙は右手の人差し指を立て天井に向け、その指先に炎を灯した
夾架はその、赤く揺らめく美しい炎に、遠巻きに手をかざす

すると、炎が一気に膨れ上がり、関節2つ分ほどの高さで細い炎から、拳一つ分ほどの力強い炎へと変わる

それから夾架がスッと目を細めれば、炎は一筋の煙をたたせ、鎮火された

「これ、俺の意思やない。俺はずっと、最初くらいの大きさで灯してたつもりや」

「タネも仕掛けもなく、正真正銘。夾架が操作したんだよ」

距離もあったので、吹き消したわけではないのは分かる
ましてや、炎の火力をあげさせるなんて、普通、何も使わずには無理だ

ー…なんだよココ。…普通の集団じゃねえ…。

『なんだよココ。普通の集団じゃねえ。そう、あたしたちは普通じゃないから。普通じゃなくて結構。平凡より非凡の方が、生きてる実感、湧くんじゃないかな』

「お、おい、俺まだなんも言ってねえぞ…」

ーやっぱココ、すっげー変…。

『やっぱココ、すっげー変。か…。うん、だから、ここはクランなの。変っていうよりは"特別"って感じかな』

夾架はいつになくニコニコしていた
目の前で戸惑う八田を見て楽しんでいるようだ

やはり、中学生にこんな話をしても、理解するのには時間がいるのか
早まりすぎたかと思うも、それなりには理解されている様で、今の段階ではそれで良いということにした

ーチッ、めんどくせえ…ややこしいんだよ…。

『めんどくさいとか言わないの。あと舌打ちも』

「してないんすけど」

『心の中でバリバリしてたでしょ。まあそれはいいとして、とりあえずあたしには、尊から貰った力とは別の力がある。王から与えられたのではなくて、固有の、強い力。数少ないんだけど、その人たちのことを、はぐれ能力者だとか、ストレインっていうの。能力を持っていたとしても、普通は一種類、でもあたしは二種類。これは特別というよりは"異常"にあたる。色々あったんだけどさ、その話はいつかしてあげる』

さすがにここまで話してしまったのなら、もう後には引けなくなる
一般人が裏社会を知りすぎると、後々危険な目にあうことは、避けては通れない
夾架はそれを承知の上で話したし、八田と伏見も、なんとなくだがそれを感じ取っていた

『あー…、また難しい話になっちゃったね。とりあえずあたしたちは、裏社会で生きる人間。だだのチンピラじゃない。其れ相応の危険を伴い、死ぬかもしれない。…それでも、そんなあたしたちの仲間になる気、あったりする?』

八田と伏見は固唾を飲んだ

後に引けないならいっそ、いけるとこまでいってしまえば良い
きっと、たいくつな人生とも、オサラバできる

そう信じて、2人が出した答えは"YES"だ



彼らの鬱屈感を、あたしが取り除いてあげたかった
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