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"右耳に付けるのは、守られる人。優しさと女性の象徴"
"左耳に付けるのは、守る人。勇気と男性の象徴"
それが逆になると、同性愛の証
愛する女性を守る。という意味が左耳のピアスには込められている為、男性が自分のものと対になった右側を女性に贈ることで、その思いを告げる
という様な事を、昨日草薙は言っていた
夾架の為に、と草薙は話をしたのだが、十束も聞き入ってしまい、1日経った今でも、夾架よりも十束の頭の中に色濃く残っていた
今日は2人が初めて繋がって、夾架が草薙の家に泊まった日
去年の十束はバイトをしていた
それから1年経った今日は、昨日も出かけたが、午前中に買い物へと行き、午後からはずっと家にいた
「んー……、どーしよっかなぁ……」
十束は自室にてにらめっこをしていた
にらめっこの相手は手の平サイズの小さな箱
この部屋にベッドはない、寝るのは2人で共同に使う寝室
寝室の他に各々の自室があって、寝室ほど大きくはないが、机に椅子、棚、クローゼットなど必要最低限の家具、それから十束の趣味の産物
物は多い(主に趣味の産物)方だが、きちんと整理整頓された部屋だ
そんな自室で、椅子に深々と座り、机に置かれた箱と、神妙な面持ちでにらめっこ
整えられた眉をぐっと真ん中に寄せて、うーんと唸る様子は、ひどく悩んでいる様だった
午前中に行ったショッピングモールで買ってしまったのだ、ピアスの穴を開けるための道具を
他ならぬ夾架の為にだ
昨日帰ってきてすぐに自室の棚を探った
引っ越す時に無くさぬよう、大事に大事に持ってきた、自分の左耳に光るピアスと対のピアス
あんな話を聞いて、開けて欲しいと思わないわけがないのだ
そういうジンクスや呪い事は、元々好きであったし、誰よりも夾架を守りたいという思いは強い
だからピアスという形で、その意思を証明するのもいいだろう
寧ろ夾架が開けたがっているから好都合である
日が沈みはじめ、窓の外も暗くなり始めた
キッチンからはガチャガチャと食器がぶつかる音や、トントンと一定のリズムで聞こえる包丁で刻む家庭的な音が聞こえ始めていた
今日の夜ご飯はハンバーグらしい
美味しいハンバーグを作るから!!と、腰に手をあてて仁王立ち、極めつけに得意げな顔をして大々的な宣言を、部屋に入る前にされたのを思い出して、あの夾架可愛かったなあと思い出し笑いをした
ピアスが入れられた箱は笑わないが、にらめっこに勝った気がした
よし。と握りこぶしを胸の前に掲げ、立ち上がった十束の表情には決意が現れていた
『用事は済んだの?』
「うん、終わった終わった、手伝うよ。……うわぁー、何かエロいね、夾架ちゃん」
『いやいやいやいや、どこにもそんな要素ないからね』
「いやぁー、いっぱいあるよー」
手伝いをしようとキッチンにやってきた十束はゴクリと唾を飲んだ
ショートパンツからスラリと伸びた長い脚、なんと生足
相変わらず無防備に開いた胸元、料理をする時だけつけるエプロン
珍しく束ねられた髪
普段は隠れている首筋や耳なども見えていたので、それらの要素全てが十束にとっては堪らないものだった
つい勝手に体が動き、気づけば夾架を後から抱きしめていた
ふわりと香る、いつもの夾架の匂い、心地よくて酔ってしまいそうだった
『ちょ、多々良邪魔!動けないんですけど!』
「わーお、冷たい反応。…寂しいなぁ」
予想外の反応だった
照れる。とかではなく、ウザがられてしまった
どうにか離れてもらおうと思ったが、生憎手が使えない状態だ
ひき肉を一生懸命捏ねていたので、手が汚れてしまっている
そんな手で十束に触れるわけにはいかないが、身動きが取れないぐらいにがっちりとホールドされてしまっているので、作業が進められない
いきなりどうしたものだと思いながらも、どうにか作業をそのまま進めようと、再びひき肉を捏ね出した時、生暖かいヌルッとした感覚が耳から伝わり、ビクッと夾架の体が跳ねたのと同時に、色めいた声が零れた
『あっ……それ、やっ…///』
想像以上の反応に、もっと見たいという欲を掻き立てられ、ペロリともうひと舐めした
『んんっ!!//耳は、やめて…///』
「えー、耳ダメなの?」
『だ、だってくすぐったい……』
涙目になりながらどっかを睨みつけた
しかし、睨みになんてなっていない
十束はくすくすと笑いながらごめんね。と一言謝った
謝らないと後が怖いんだよね、と思いながら
元々耳が弱いのは知っていた
耳には触らないでと言われてきたので、触らずに舐めてみるのはアリなんじゃないかという独特の都合のいい解釈
いつも以上に新鮮な反応も非常に愛らしい
こんなにも愛しい彼女を他の誰にも渡したくない
つい先日、自分が夾架の首筋に残した所有印を見て、満足げに口元を緩ませた
(耳がすっごく弱くても、開けられるのかなー)
『ん、なんか今思った?//』
「えへへ、ないしょー」
『なにそれ?まあいいや。早くご飯作って食べよーよ』
夾架の呼びかけに反応がなく、再び聞いてるの?と呼びかけた時、
十束の抱きしめが一層強くなり、耳に甘い痛みを感じた
その瞬間、全身にビリビリとした痺れが走り、先程より大きく身体を震わせ、声が出るまもなく夾架は崩れ落ち十束に抱きとめられた
『なっ、な、なにしたのよ!///』
「んー、甘噛みかな?」
なぜ語尾にクエスチョンマークがつくのか
自分でもどうして噛んだのかよく分からなかった
気付いたら噛んでいた、そして気付いたら夾架が体を預けてきた
やらかした。どうしても衝動には勝てなかった。
あははーと笑いでごまかしをかけた
「気持ちよくて腰抜けちゃった?」
『……バカ///』
夾架が重いわけではないが、流石に全体重を預けてきているのを立った状態で受け止めているのが少し辛かった
十束は夾架の体を支えながらゆっくりと床に腰を下ろし、自分の膝の上に座らせた
『ねぇ、手洗いたいんだけど』
「ごめんちょっと待って、言いたいことがあるんだ。それ終わったら好きなだけ手洗っていいからさ』
『洗うのは1回で十分です。で、何かな?』
いつまでも脂でベタベタだと洗っても落ちなくなってしまいそう
匂いも落ちなくなってしまいそう
明らかに夾架は不機嫌だったが、十束は夾架を離さなかった
すーっと息を吸って、ゆっくりと吐き出して、夾架の耳元に唇を寄せた
「夾架。ここに、俺と対になるピアス、開けたい?」
言葉と同時に、十束は夾架の右耳の軟骨、自分のピアス装着部を正反対の処にそっと触れた
慣れることはないのか、ピクリと反応し、身を縮こませ耳を真っ赤にさせた
『た、多々良が望んでくれるなら//』
「俺が望まなかったら?」
『それでも、あたしは開けたい』
十束に言われなくても、十束と対になるピアスじゃなくても、開けようと思っていたので、少し驚きはあった
だがしかし、答えた夾架に一切の迷いはなかった
「本当にいいの?」
『うん、だからあたしのこと、ちゃんと守ってね』
満更でもない夾架に十束は安心感を覚え、再び耳をぺろりと舐めあげれば、腹に肘鉄をくらった
その後、すっかり腰の抜けた夾架に変わって十束がハンバーグ作りを再開させ、夾架はソファーに座ってのんびりと完成を待つことにした