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「本当にいいの?」

『それ何回目?いいって言ってるでしょ』

「いやーちょっと不安で。せっかく開けたのにやっぱやだなんて言ったら怒るからね」

『そんなこと言わない、大丈夫。だからさっさとやろ、ね?』

寝室でベッドに座る2人
サイドテーブルに置かれているのは、これから使うもの
見慣れないものがチラホラと

直前になってやっぱり無理、って言われても困るので何度も何度も確認しなければ気が済まなかった

でも何度確認したって夾架の意思は揺らがなかった
大丈夫だから。と急かされ、十束も始める決心をした

「血が出るかもしれないから夾架は目瞑ってていいからね。他人にやるのは初めてだけど、一応2回目だからそんなに心配しないでね」

『多々良になら安心して任せられるよ』

どうしても血を見ることに対しての恐怖心は無くならないから、目をぎゅっと閉じて、痛みも出来れば感じたくなかったので、意識も違うところに持っていくことにした

「じゃあはじめるね」

はじめる、と言われ胸がドキドキした

念入りに消毒をされ、十束と同じであろう位置に印をつけられて、その後はあまり覚えていない

外の感覚と自分の内側を切り離して、色々なことを考えているうちに終わっていた
元より痛みに慣れてしまっている体なので、大した痛みは感じなかったが、耳が熱くなるのを感じた

周防から力をもらった時に感じたような熱さと似ている
熱を持った右耳が焼け焦げでしまいそうだ

それだけではなかった
終わったと十束に告げられ、目を開けて十束の顔が視界いっぱいに広がった時、胸がざわついた

「どう、大丈夫?やっぱり痛い?」

『少し痛い、けど、それよりもピアスが熱い…』

「やっぱり?俺のピアスもすっごく熱い」

それぞれのピアスが互いに共鳴し合っているみたいだ
胸の鼓動と同じリズムで、ドクンドクンとピアスも反応していて、痛くて苦しい

十束のピアスホールはとっくに完成しているので、痛いはずがないのに、確かに耳に痛みを感じている

「夾架の痛み、俺にも伝わってる。こんな風に俺たち、痛みも共有出来るようになるのかな?」

『…あたしの痛みは、多々良の痛み。
多々良の痛みは、あたしの痛み、か…悪くないわ』

「そうだね」

ゆらりとピアスを自分たちの炎が覆う
ピアスが赤く輝いて本当に綺麗だ

「絶対守るから」

『……うん』

「この先、何があるか分からない。いつも絶対守るから。とか言ってどうせ口だけ。って思ってるかもしれないけど、嘘なんかじゃないから。
俺が夾架の傍にいられる限り、俺は必ず夾架を守る。
今日改めて、このピアスに誓うよ」

『いなくなったら許さないよ。絶対にいなくならないで、お願いだからずっと傍にいて…』

「……努力はするよ」

約束は出来ない
いつ死んでもおかしくない世界で、自分の身を守る力さえ持ち合わせてない十束
それでも、誰よりも夾架の傍にいたいと願う気持ちは強い
その気持ちが途切れぬ限りは、きっと夾架を守る

すっかり熱くなった息を、十束は吐き出し、冷めない熱に嫌気をさす
身体全体が熱くて、何かこう、奥底から、モヤモヤとした何かが湧き上がってきている
単刀直入に言うと、ムラムラしているのだ

痛い。熱い。苦しい
夾架が好きで好きで堪らない
可愛い。綺麗。色っぽい
誰にも渡したくない
このモヤモヤをどうにか吐き出したい

十束は、首を傾げて自分を真っ直ぐ見つめてくる夾架を見て、ゴクリと喉を鳴らして唾を飲んだ。

(あー、やばい……)

夾架が欲しい、と思ってしまった
今まで必死に抑えてきた欲が、今にも暴走してしまいそうだったが、
内心その欲に任せてどうにかなってしまいたいと、願っていた

でもダメだ。きっと傷つけてしまう

『どう、したの……?』

甘い声に誘われるがままに、十束は答えた
言えない。と思った言葉は案外すんなりと出ていってしまった

「夾架が…欲しいんだ……」

十束の言葉に夾架は目を丸くさせ、熱で潤んだ大きな瞳を数回瞬かせ、再び甘い声色でゆっくりと答えた

『あたしは、もうとっくに多々良のものだよ?』

「あのね夾架、そういう意味じゃなくてね…」

あまりにも純粋な答えが返ってきたものだから驚いた
確かに夾架の心は十束のものだ
しかし、今の十束には心だけでは足りなく、欲しているのは身体だ

どう説明しようかと唸りながら、頭をフル回転させ考えているうちに、素肌と衣服が擦れる音がして、バサりと、何かが床に落ちる音が聞こえた

『ちゃんと分かってるよ…?』

「え?ちょちょ、ちょっ、夾架!?//」

幻聴かと思ったが、確かに音は耳から入ってきていた
慌てて十束が顔を上げると、夾架は何故か下着姿で、その事に驚いていると、夾架に肩を押されいつの間にか背中にふかふかのベッドを感じるようになっていた

夾架を見上げる形になり、背中にもベッドの弾力を感じ、押し倒されたのだと、僅か数秒で理解することが出来た

正直このアングルは宜しくない
夾架の裸を見たことが無いわけじゃない、寧ろ毎日一緒に入浴をしているので、見慣れたものだ
しかし下着によって見えそうで見えない、そしてこのシチュエーション、となると全く別物だった

十束は下半身に熱が集まっていくのを感じている

こんな姿を魅せられて、興奮しない方がおかしいんだ
十束だって、アホで鈍くても、健全な青年だから

「夾架、あんまり煽んないで…、俺流石にこれはキツい……」

『あのね、出雲さんが言ってた。多々良もそろそろ限界、相当溜まってる。でもあたしの事傷つけたくない、って。それって本当に?嘘じゃない?』

夾架は、十束が何の限界を迎えていて、何が溜まっているのか、キチンと理解しているのか

草薙の入れ知恵に本来なら、純粋な夾架に変な事を吹き込まないでくれと怒るところだったが、今は有難いと思えた

嘘をつく理由がないので、十束は素直にうん。と答えると、夾架は十束にリップキスを送り、すっかりとろけた瞳で十束を見つめた

『あたしの全部を多々良にあげる…心も…身体も…全部…。あたしもうね、多々良の事好きすぎてどうにかなりそうなの。胸が苦しいの。あたしも、多々良の全部が欲しい…!//』

「俺も、夾架が好きすぎてどうにかなりそうだよ…」

『じゃあどうにかなろ?あたしのこと、抱いて…?めちゃくちゃにして…?』

「っ……。どこでそんなエロい言葉覚えてきたのさ。そんな事言って、抑えが効かなくなったらどーすんの?」

熱い息を長めに吐いて、崩れ去るギリギリまで迫る理性を何とか保ち、自分を見下ろす夾架の肩と腰を抱いて、性急に、だが優しく、今度は夾架を押し倒した

十束は自ら上半身の衣服を取り払って、夾架の頭の横に手をついた
ギシ。とスプリングが軋む音をたて、夾架の瞳も不安げに揺れた
これから始まる行為に、少し抵抗があるのだろうか

口ではなんとでも言えるが、初めての行為に、無垢で純粋な夾架は耐えられるのか
しかし夾架は覚悟を決めたのだ

『大丈夫。抑えないで。好きなだけシて?あたしも、多々良が気持ちよくなれるよう頑張るから//』

ハナから抑えるつもりなんてなかったのかもしれない
売り言葉に買い言葉で、十束もそのつもりで覚悟を決めた

「どーなっても知らないからね?」

『うん、多々良こそね……?』

もう止まらない
理性なんてものは、もう存在しなかった


ーーーーー

多々良は、自ら生きる術を見つけられなかったあたしに、生きる術を教えてくれて、明るい世界へと導いてくれた。

力とか、そういう事を必要としてるんじゃなくて、
あたしを1人の人間として、女として、必要としてくれた。

こんなにも汚くて、醜くて、1人じゃまともに力も操れないダメなあたしを愛してくれた。

あたしの全ては多々良のものだから。
多々良が欲しいと望むならあげられる。
こんなあたしなんかでいいなら、いくらでもあげられるよ。

別に、多々良があたしを欲したからこういう事をするんじゃない。
あたしだって、多々良が好きだからしたかった。

だから今、幸せ。
幸せすぎて怖い。

こんなに深く繋がったのは初めて。
今、多々良が必死にあたしを求めてくれてるのも、全部伝わってくる。


ーーーーー

「っ、考えごと…?っは、余裕、だね……。俺は、んっ、そ…な、余裕っ、ない、けど…?」

『っぁあ!ごめ、なさ……んっ、あぁっ!!』

「はー……っ、夾架のナカ、キッツ……」

『た、たら……愛して、るっ、』

「………俺も、っ、愛してるよ…夾架……」

『あっ、も、ダメ!多々良、あっ、ぁ、あ、あ!ん!!////』

「っぅ!!」

当然1回でこのドロドロとした熱が冷めるわけがなく、2人は互いの愛を確かめるように、何度も何度もこの行為を繰り返し、慣れない感覚に付いていけなくなり夾架が意識を飛ばすまで続いた


シーツを取り替えたり、ぬるま湯で濡らしたタオルで夾架の身体を拭いてやったり、軽く後始末をした後、十束も流石に疲れたのか、布団へと潜り込んだ

隣でスヤスヤと眠る夾架
カーテンの隙間から入り込む月明かりに照らされて本当に綺麗だ

十束は夾架を抱き寄せて、ふとサイドテーブルに置かれたデジタル時計を見た
十束が時計を見た瞬間に時は変わり、日付も変わった

「夾架、俺たち今日で付き合って1年になるんだね……」

夾架の艶やかな髪を撫でながら、眠る夾架へと話しかけた
当然返事は返ってこなかった

可愛くて、美しくて、心配性で、泣き虫で、強くて、弱くて、守りたくなる

今までたくさん傷つけた
これからは、傷つけた分も、いっぱい、いっぱい愛するって決めた

一、クランのクランズマンである限り、困難な壁にぶつかる事もあるし、危険な目に遭う事も少なからずある
でも、2人でなら乗り越えられる

誰よりもカタイ絆(クサリ)で結ばれた2人は、そう簡単には離れられないし、離れないから

「これからもずっと一緒だよ、何があっても守るから……絶対に」

ー君に出会えた事が何よりも幸せ。
もっともっと君の事が知りたい。
君がいるから、俺はここにいる。



もう君なしじゃ、ダメなんだ。


(この時はまだ、お互い何も知らなかったから。
ずっと一緒にいられるって信じてたし、それ以外なんてないって思ってたから、何も考えず幸せでいられたんだ。
知ってしまった今、俺たちはどこへ向かっていけばいいんだろう。
もう一度、この幸福な時が永遠であると信じたい。
でも残酷な未来を知ってしまった。
もう戻れない。
それでもこの時が永遠であると、俺は信じてるから、夾架も信じてね)


season1.END


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