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2人を乗せた車は1時間に満たないくらい走り、鎮目町に並ぶ程の治安の悪さの地区にやってきて、閑静なビルの前で車は止まった
その間十束には意識はあったが、目隠しと手錠で拘束されていたのでどこに連れていかれてるのかは分かっていなかった
意識のない夾架も同様だった

車を降りてエレベーターで階を上がり廊下を歩き、扉が開く音がしてそちらの方に肩を押されたので、おそらくどこかの部屋まで連れてこられて、きっとこの部屋にボスがいるのだと十束は確信した

目隠しを解かれ、目を開けると立派で高そうなソファに腰をかけて足を組んだ、スーツに身を包む中年の男がいた

そしてずっと心配していた夾架も視界に入り、無事を確認し安心したのも束の間、電気を操る男が、肩に担ぐ夾架の目隠しを解いた後に物をポイ捨てするかのように夾架を床に放った

意識がないので受け身も取れるはずもない夾架は、幸い上半身を先にぶつけ、頭を強く打ち付けることは無かった

「彼女に何するのさ」

「お前は黙れ。あの女がどうなってもいいなら好きなだけ喚け」

しかし大事な人を酷い扱いをする者が許せず、十束は置かれた状況を省みる事無く、低い声で怒りを顕にした

床に伏せたまま微動だにしない夾架と、怒りを顕にした十束を見て、ソファにかけたままの男はニヒルな笑みをのっぺりとした顔に浮かべた

「叩き起こせ」

ボスは冷たく言い放つと、夾架を担いでいた男は夾架の髪を徐ろに掴んで頭を持ち上げて、思い切り頬を叩いた
その瞬間に髪を掴む手を話したので、叩かれた勢いのまま頭を強く打ち付けて、ゴンッという鈍い音が響いた

『……いった…』

「夾架!!」

「やあ、お目覚めかな」

『貴方がここの大将ね…?ってか、なんで多々良も一緒なの…?』

右側頭部からじわじわと頭部全体に広がる鈍い痛みと、左頬のジンジンとする鋭い痛みに急激に意識を覚醒させた
頭を強く打ち付けた事により、目の回るような感覚に陥るが目を覚ましてすぐに、夾架は状況を全て把握した
しかし十束までいることには理解が追いつかず、目を丸くして酷く同様を見せた

(逃げられなかったの……?それともあたしを守る為に自ら進んでついてきたの……?)

対ストレイン用の手錠で拘束されているので、十束との繋がりが浅すぎて意思疎通は出来ない
自分だけが傷つく分には構わないが、十束が傷つくのは絶対に嫌だ

「君は、そこの青年がいないと能力が扱えないというのは本当か?」

十束だけでもどうにか逃せないか
思考を巡らせていると、ボスに問いかけられた
背後で手錠をかけられ身体の自由が殆ど効かないので、体は床に預けたまま首を動かしてボスを見据えた
床に這いつくばって無様だと、きっと思われているのだろう

しかし男の発言によって十束の考えが詠めてきた

(そう言って自らついてきたんだね……違う、そんな事ないって言えば多々良だけは解放してくれるのかな……。ううん、それじゃダメ。嘘ついたって事が分かったら殺されちゃう。多々良、巻き込むね、ごめんね……)

夾架は込み上げる感情を押し殺して、肝の据わった表情で男を見た

「そうよ、彼は替えのきかないあたしのリミッター」

「彼がいないとどうなる」

「暴走しまくりで使い物にならないわ、そしてそのうちあたしは死ぬの」

シニカルな笑みを浮かべる男に対して、動じることなく強気に応える夾架を見て十束はハラハラした
すぐ側に立つ者からの殺気が痛くて、2人の会話に入ることもどうやら出来なそうだ

「ほう、それは困るな」

「でしょ?だから彼には手出さないで」

「それはどうだかな」

順調に交渉が進んでいると思ったが、男のどうかなという発言に夾架は眉根を寄せていっそう睨みをきかせた

「彼と、いや、彼だけじゃなくて吠舞羅に少しでも手出してみろ。あたしは一切能力を使わないから」

そっちがその気ならこっちもその気だ、と夾架は鋭い目で語った

するとボスではなく、電気使いの男が行動を起こした

「生意気な口を聞くな」

『うっ!?』

夾架の発言に痺れを切らした男が夾架の華奢な体を蹴り飛ばした
身動きを封じられた夾架は避けることも適わず、男の渾身の蹴りの全てを体で受け止めて床を転げた

「夾架!?離して!」

「ダメだ」

蹴りの強さの分だけ床を転がった夾架に駆け寄ろうとしたが、男に肩を掴まれて身動きを封じられた
十束は精一杯の抵抗を見せるが、更に強く男に肩を掴まれて、十束はなくなくその場に踏みとどまった

その時、張り詰めた空気に釘を刺すように、高い電子音がけたたましく鳴り響いた

「誰の端末だ」

(やば、俺の端末だ……)

(多々良の端末…出雲さんがきっと、買い物行ったっきり帰ってこないあたしたちを心配してかけてきてるんだ……)

ピリリリリという電子音は端末の着信を告げる音だ
ボスが周囲を見渡し名乗り出るように言うと、仲間たちは皆首を横に振り、自分のものでないと否定の意を示した
そして自然と夾架と十束の方へと視線が集まる

その間も着信音はなり続け、耳を澄ますと十束の方から聞こえると分かってきて、十束の一番近くにいる男は、無造作に十束のコートのポケットへと手を突っ込んで端末を取り出し、着信を切った

「こいつの端末です」

「壊せ」

「俺に任せてください」

ボスの指示に従い、槍使いの男が十束の端末を床に放った後に、槍で端末を貫いた
すると、ピリリリリリと再び着信を告げる音が室内に響き渡った

(あ、やば……あたしのも鳴ってる……)

十束の端末は壊されてしまったので、残るは夾架のみ
夾架は観念したかのようにふぅと息を吐き出すと、すぐに夾架を蹴り飛ばした電気使いの男が歩み寄ってきて、これまた無造作に夾架のショートパンツのポケットから端末を取り出し、端末に電気を流し込んだ
膨大な電気に耐えきれず、端末はボンという音と火花を散らして音は鳴りやんだ

(あーあ…壊しちゃった…新しいの買わなきゃじゃん……)

(これでおそらく猿くんは気づいたはず。後は時間の問題だ、頼むよ……)

外部と連絡を取る手段をも奪われるも悲観せずに夾架はすぐに顔を上げ、腹部の痛みも堪えて涼しい顔で再び男を見た

「あたしのこと捕まえてどうするつもり?」

「君を欲しがる組織や、君の能力を恐れている人は大勢いる」

『その組織の奴隷として能力を使うか、殺されるかって事ね。で、貴方達もストレインなのに、ずる賢くストレイン達を捕まえて、その人たちの仲介をしてるってことね』

蹴り飛ばされても尚、どこか挑発をするような夾架の口ぶりに十束は冷や汗をかいた
男らの情報を聞き出したいのは分かるが、何もここまで挑発的にならなくてもいいのでは、と思ったが、止められる術を持ち合わせていなかったので十束はひたすらに唇を噛んだ

喜怒哀楽の怒を表に出す事は基本的になかったが、夾架を捕らえ利用しようとする男達や、助けることすら出来ない自分に、怒りを覚えない筈がなかった

夾架はふぅ、短く息を吐き出して蔑むような瞳で冷たく言い放った

『…最低な集団ね、同じストレインとして恥ずかしいわ』

「おい馬鹿女、身の程をわきまえろ!」

『あ、ぐっ!』

「夾架!!」

男は夾架の挑発のままに、再び夾架の腹部に蹴りをいれた
今度は蹴り飛ばすように脚を振り切るのではなく、力が逃げないように腹部を集中的に狙い脚をぶつけた

ミシリと身体が軋む音がやけに大きく聞こえて、そこから激痛がからだ全体を駆け巡り、先程パーティーで食べ飲みした物が喉まで込み上げる胃の苦しさを感じた
心臓の拍動が起こるたびにじんじん、じくじく、ズキズキと言葉では言い表せないような痛みが襲ってきて、脂汗が吹き出し、急激に身体が冷えていくのを感じた

腹部を腕で抑える事も出来ないので体を可能な限り丸めて、痛みを逃そうと短い息を何度を吐き出した
しかし息を吸っても吐いても腹部が痛む

しかし夾架は可能な限り涼しい顔を作り直して顔を上げたが、その額には脂汗が浮かんだままだった

『…で?あたしはどうされるわけ?』

「明日までに取引相手を決める。売られるか殺されるか、せいぜい覚悟をしておけ」

『覚悟、ねぇ……』

夾架は覚悟という言葉に、口元を緩ませた
遠目で夾架の表情を見ていた十束はここで、男の制止を構わず会話に割って入った

「覚悟するのはそちらさんじゃない?うちのキング、怒ると怖いよ?」

十束も男達に対して色々な感情を抱いているが、夾架の強気な攻めに便乗し、冷静な口ぶりで男らに言う

「連中がここまでたどりつければな」

「うちは血の気の多い集団だけど、中には頭がとんでもなくキレるのが数人いるからさ、きっと今頃向かってきてるんじゃないかな?そうなったら本当にやばいんじゃない?」

十束は徐々に、冷静な口ぶりからいつもの緩やかな口ぶりへと変えていく
しかしその緩やかな口ぶりにも、皮肉さがたっぷりと篭っていた

拘束をされた2人があまりにも強気な物言いをしているために、男はクスクスと笑を零した
あくまでも主導権は自分にあると思っているようだ

「ふっ、もしも吠舞羅が攻め込んできたとしたらお前たちを殺すだけさ。 それでも金にはなる」

『じゃあその前に逃げるわ』

「やれるもんならな。とりあえず眠らせて例の部屋に入れておけ」

「はい、わかりました」
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