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「お待たせいたしました」

『うわぁぁ、凄い…!美味しそう……!』

運ばれてきたパフェを目の前にして、夾架は大きな瞳を数回瞬かせ、パフェと十束を交互に見て感動の眼差しを送った

大きなパフェグラスに高々と盛られたクリームに花びらのようにイチゴが沢山盛り付けられており、グラスの中にもクリームとイチゴとスポンジケーキがぎゅうぎゅうに敷き詰められていた

パフェを運んできた店員がこの季節にしか採れない希少なイチゴを使っている、と説明をしてくれたので、夾架の瞳は尚更輝いている

十束は厳選宇治抹茶のパフェを頼んだ
伏見にも抹茶フラペチーノを勧めたりと、近頃抹茶にハマっているようだ

『念願のいちごパフェ……いただきまーす!』

「召し上がれ」

クリームとイチゴの山の頂上に、ちょこんと盛り付けられた1粒のイチゴをスプーンで掬い取り口へと運んだ

言葉に出来ないほどに美味しいのか、うっとりとした顔で美味しいという気持ちを表現していた
そして飲み込んだ後に漸く緩く口を開いた

『幸せ〜生きててよかった〜』

「ほんとだね〜、想像してたよりも喜んでくれて嬉しいよ」

夾架の幸せそうな顔を見れただけで満足だ、と十束もつられて笑顔を浮かべながら抹茶パフェを食べ始めた

パクパクと手を止めることなくパフェを食べていたが、もっと味わって食べないと勿体無い、と思った夾架は1度手を止めて、気になっていたことを問いかけた

『ね、そういえば今朝さ、よくあたしに気付かれずに出て行けたね。ご飯作ってる音も全然気付かなかった』

「昨日は夾架がよく寝るように頑張ったからね」

さすがに疲れてそのまま寝ちゃったごめんね、と付け加えると、夾架は軽くため息を吐き出した

同じくして後始末をせずにそのまま眠ってしまった
いつもは夾架がそのまま寝てしまっても、十束が服を着せてくれるので、起きた時に裸のままだったのも珍しいと思っていた

『あー、そういうこと?随分しつこいなーって思ってたけど』

「わー傷つくー……」

『冗談よ。ちょっとだけしつこいって思ったけどね』

あからさまに傷ついたように項垂れると、クスクスと夾架は笑い出す
そんな夾架にからかわれた十束は顔を上げて、唇を尖らせ不満を漏らした

「それ全然冗談じゃないじゃないか。でもね、寝ぼけてなのか起きててなのか、出かける前に夾架がちゃんと寝てるか見に行った時に、シャツ掴まれちゃって、離してくれないからそのシャツ脱いで握らせて、違うシャツ着て出たんだよ」

『あー!だから起きた時シャツ握りしめてたんだ!』

漸く疑問に思っていた事が全て解決した
納得した表情を浮かべて頭を何度か上下させて、スッキリしたのか再びパフェスプーンを手に取って食べ始めた

「その感じだと寝ぼけてたんだね」

『寝ぼけてたっていうか、無意識?多々良の匂いにつられたのかな。その後もシャツの匂いで多々良がすぐ横にいるって思い込んでたから起きなかったのかな』

スプーンの先をパフェではなく天井に向けてくるくると円を描いた
もう片方の手は顎に添えて悩ましげに言う夾架がなんだかおかしくて、十束は肩を竦めて笑った

「随分野性的だね」

『ふふっ、ごめんごめん』

気配とかならまだしも、匂いだなんて言われるとは思ってなかった
何はともあれその時夾架は起きていないようで、こうして外で待ち合わせが出来たので作戦は成功だ
だが今でもシャツを掴まれた時の驚きは忘れられない

それからまた他愛のない話で盛り上がりつつ、互いのパフェを食べさせあったりしていた

「そうだ。突然なんだけどさ、誕生日プレゼント何が欲しい?」

『誕生日プレゼントって……結構まだ先の話じゃない?』

あと1週間で4月が終わろうとしているところだ
夾架の誕生日は6月13日なので1ヶ月半も先の話
もうすぐ誕生日だ、なんて意識し始めるのはせいぜい1週間前からなのでちっとも気にしていなかった
しかも誕生日を目前に控え、楽しみだと感じたのは去年のたった1回だけだ
それまで日にちを意識していなかったので、誕生日を知らず知らずのうちになんでもない苦痛な日常として過ごしていた

「まだ先の話って思ってるとあっという間なんだよ。欲しいものある?」

『ちっともないかな』

誕生日プレゼントに欲しいもの、というのも考えたことが無かった
去年も聞かれて考えたが、結局何も浮かばずで十束が選んだネックレスを貰ったのもまだ記憶に新しい

「なんにもないのは困るなあ」

『だって本当にないんだもん。今が人生の中で1番幸せ。これ以上願ったらなんだかバチがあたりそうで。多々良がいて、みんながいて、楽しい毎日が送れて、あたしはそれだけで十分だよ』

「もちろん俺も今が1番幸せだよ。改めて夾架と出会えてよかった」

『なんか恥ずかしくなってきた…//』

恥ずかしさを隠すため、残り3分の1にまで減ったパフェを大きく掬い取り口に運ぶ
十束はニコリと微笑んで、向かいに座る夾架の頭を優しく一撫でした

「例え夾架が何もいらないって言っても必ず何か用意するからね。パーティーも去年よりメンバーが増えたから派手にやれそうだね。そういえば千歳と1日違いなんだよね」

吠舞羅に新しくメンバーが入ると、その度に必ず誕生日を聞いていた
人数が多いのでカレンダーに書き込んで忘れないようにしていたが、千歳は夾架と1日違いということで頭に根強く叩き込まれていた

『あたしが13日で洋が14日。だからパーティー開いてくれるなら14日にまとめてやろーよ!』

「1日後になっちゃうけどいいの?」

丁度どうしようかと悩んでいた事だった
もちろん2日連続でパーティーを開くのも悪くないとは思うが、2日目がイマイチ盛り上がりにかけるのではないかと考えていた

『13日は多々良に祝ってもらいたいから大丈夫!あ、多々良の手作りケーキ食べたい!作れたりする?』

「俺洋菓子店でバイトしてた事あるから多分作れると思う」

クランズマンになる前だったか、巷では評判の洋菓子店で働いた事があった
その時にケーキを作る工程を一から見せてもらったことがあったので、きっと作れないこともないだろう
そう言えば夾架は目を輝かせ十束に期待の眼差しを向けた

『じゃあ多々良の手作りケーキ楽しみにしてるね!もう20歳だって、変な気分。出雲さんに念願のお酒作ってもーらお』

「草薙さんが作るカクテル美味しいんだよね〜」

『あたしには、未成年だからって出してくれなかった!多々良ずるい!』

前にメニュー表をじっと眺めていたら草薙に、お酒は20歳になってから。と釘を刺された
十束がお酒を呑んでいるところを見たことはなかったが、意外とやんちゃしているところもあるので、呑んだことがあるだろうとは分かっていたが改めて言われると狡いなと思ってしまった

草薙としては、十束にだったら呑ませても大丈夫だと思ったが、夾架に呑ませるのは気が引けたのだ
バーテンダーの勘では、今までマトモな食事をとってこなかった夾架がお酒に耐性があると思えなかった
だから呑ませようともしなかったし、呑みたそうにしてたもダメだと告げてきた

その事について十束も同意見であった
なので最近は草薙にお酒を作ってもらうことは殆どなかった

「夾架が来る前とかよく3人で呑んでたなー。懐かしいや。そのまま床に転がって寝てたっけ」

十束は楽しそうに思い出話を始めたが、夾架は話に乗ることも笑顔を見せることせず硬い表情で黙り込んだ

十束、周防、草薙の3人の仲の良さがとても羨ましかった
それと同時に、自分が吠舞羅に転がり込んだ事によって3人のだけの時間と居場所を邪魔してしまったのではないかと思う
ずっとずっとそう思っていた

3人の学生時代の青春話や、王とクランズマンになった経緯も一通り聞いたことがある
写真も見せてもらったこともある

周防が王に目覚めるまでの過激な事件の話はともかく、3人で和気藹々としていた話を聞いたからこそ、
自分が邪魔をした。
3人で楽しくやる時間を奪ってしまったのではないか。
と思うのだ

「やだなー夾架、邪魔されたなんて思うわけないでしょ。彼女のいないムサイ野郎3人組だった所に華が出来て俺達嬉しかったよ。しかも夾架が来たからって俺たちが離れ離れになった訳じゃないし、今みんなでワイワイやってる中に俺達3人もちゃんといる。
3人の時もそりゃ楽しかったけど、それとはまた違う楽しさがあって、誰も前のほうがよかったなんて思ってないよ」

夾架の黙りを解くように、優しく、至極丁寧な口調で言うと、夾架はおずおずとだが口を開いた

『……でも3人って、言葉にしなくても通じあっちゃう事多いよね』

「まあ、付き合い長いからね」

夾架とは出会って1年ちょっとだが、周防草薙と出会ったのはもう丸4年が経とうとしていた
夾架の言う通り、言葉にせずとも互いが何を思っているのか理解をし、行動まで移すことが出来る
厄介事を抱えている時は尚更だ

周防草薙とは恐らく出来ないが、十束とであれば、言葉がなくても通じ合うことは出来る
しかしそれも、力があるから、なんとなくで十束が今何を考えているかというのが分かるが、一切の力がなかったらどうなのだろうか

力がある故、他人の心と深く向き合おうと思ったことがなかった
寧ろ他人が何を考えているのか考える事が怖くて、そういったことからは目を逸らしていた

『あたしにはそういう友達いないからちょっと羨ましい。女の子の友達なんて1人もいないし。あ、でもね!施設にいた時仲良かった女の子がい……、…え、あれ、え、あ………ううん何でもない…多分気の所為……』

悲しげに話をしていたのだが何かを思い出して急に明るい口調で話し始めたが、すぐに言葉を詰まらせ、眉根を寄せて頭を振った

急に様子がおかしくなった夾架に十束は疑問を抱いたが追求すべきではないと敢えて聞かなかった
また記憶の混在に戸惑っているのだろう
パッと何かが浮かんでも、それを口にする頃には忘れてしまう
最近の夾架には良くあることだった

「女の子の友達出来るといいね。そのうち吠舞羅に来るさ」

『ムサイ男所帯だから無理だよ。誰か彼女作ってあたしに紹介してくれればいいのに…』

(さっきのどういうこと?あたし何を言おうとしたの…?女の友達なんていないよ……?また記憶を失ってる間の事?っいた、頭痛い……そっか、そういう事なんだ、友達いたんだ…。もしかしていつもの声の女の子とか…?まさかね。せっかくのデートなんだからこういうの考えるよやめよ…)

「夾架、大丈夫?」

『大丈夫、ごめんね』

夾架の強ばった顔を心配そうに覗き込むと、張りを解いてぎこちなくだが笑ってくれた

「この後どうしようか。夾架が行きたいところにとことん付き合うつもりだったからノープランなんだよね。ってことでどこ行きたい?」

最後の一口を勿体無いと言わんばかりの顔で、だが躊躇うことなく口に含み、グラスの中が綺麗サッパリ空になった

そして次の目的地を決めてから店を出ようと話になり、十束は夾架に行きたい所がないか尋ねた
夾架は驚いた表情で十束を見た

『待って、あたしてっきり多々良が考えてると思ってたから考えてない。どこ行きたいって急に言われてもなー…。あ、そういえば……』

夾架はポンと手を叩き、バッグの中から財布を取り出し開いて中身を漁り始めた

いつもは千円札が2.3枚しか入っていないが、今日出かける事は分かっていたので一万円札が数枚入っていた
財布の中身もキチンと揃えられているので、夾架の目的のものはすぐに見つかった

お札の後ろから、お札とほぼ同じサイズの青い紙を2枚取り出して、テーブルの真ん中に置いた

十束は差し出された青い紙に顔を近づけて、おぉと短く声を出した

「お父さんが水族館の招待券くれたの。ここから結構近いし、行ってみる?」

「水族館かー、いいね!夾架のお父さんグッジョブ!せっかくだから行こっか。実は俺、行ったことないんだよね」

『もちろんあたしも初めて!楽しみだな』
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