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2人はダイニングテーブルでかきたまうどんを啜っていた

「十束に電話しとったん?」

『うん、気にしてるだろうから』

「意外とナイーブな所あるからなー」

先程同じように気にしてたから人の事言えないと思うんだけどね、と心の中で呟くが、あえて口では共感を現した

『ほんとにね。あ、うどんすっごく美味しい』

ふーふーと何度も息を吹きかけていつも以上に冷まし、いつも以上によく噛んで食べていた
久しぶりのまともな食事なので、がっついてしまうと胃が驚いてしまうので慎重に麺を啜る

「そらよかったわ。無理して全部食べんでも、気にせず残してええからな」

『はーい頑張ります。出雲さん食べたら帰るよね?』

「せやな、これから行くとこあんねん」

ふーん、と短い声を漏らしてうどんを1本箸で挟んで啜ろうとしたが、夾架は眉間にシワを寄せて草薙を見た

『…どうしてセプター4に行くの?』

「……野暮用や」

草薙は一瞬驚いた顔をした後に、何でもないという表情を顔に貼り付けて夾架を見返した

そんな些細な表情も見逃すことなく夾架は追求する

『やっぱり何か危ない事に関わってるの?』

「ノーコメントや。夾架は今は自分のことだけ考えてればええよ。元気になったらちゃんと話す。それじゃあかんか?」

草薙にとってはそれが最良であり唯一の選択だ
夾架が納得をするしない関係なくこうとしか言えないのだ

夾架は箸を置き、怒気混じりな口調で言い放つ

『…出雲さんのそういう所嫌い。わかってるよ、どうせ今は足でまといだもん。お言葉に甘えて力の制御に専念するよ。
ご馳走様、後で片付けるから置いといてくれればいいや。あたしシャワー浴びてくる』

よたよたと、だが足早に歩いてダイニングを出ていった
取り残された草薙はくしゃりと髪をかきあげて深々と溜め息を吐き出して、呟くように言う

「ほんまにすまんな…、でもあの子との関係性がわからん以上は無理させるわけにはいかへんのや。教えて万が一、取り乱してこれ以上悪なっても困るし。
にしても、嫌いは刺さるわぁ……」

夾架も夾架で、足でまといだと自分で発言してからその事実が胸に突き刺さって苦しさを覚えた

吠舞羅が大きな問題を抱えているのは確実だ
だがそんな時に何も出来ない自分が情けない

ーーどうしてこんな時に…
しかも大事な仲間に八つ当たりなんてして、あたし最低だよ……
どうして収まってくれないの……?
なんでよ、やめてよ……

ズルズルと夾架はしゃがみこんで浴室の壁を拳で叩いて嗚咽を漏らした
シャワーの音に掻き消されて外まで声は漏れないだろう

流れた水が排水口で渦をまく
自分の中でも負の感情が渦をまいていて、水のようにそのまま流れて無くなってしまえばいいのにと思う

脱衣場のバスマットを容赦なく踏みつけ裸体にタオルを巻き付けて、髪をタオルドライしていると、洗面台に据え置きされたハサミに目がいく

そのまま引き寄せられるように手を伸ばして、歯を広げ左手首に当てた

力を入れようとしたところで十束に二度と切らないようにと念を押されていること、そしてそれを約束した事を思い出した

右手は勝手に力を入れ肌を割こうとしてたが、歯を当てた腕とは反対方向に力を入れて、本能に逆らい攻防し、漸く右手から力が抜けてハサミは床へと落ちた

夾架自身も床にへたり混んだ

ぶつける先がなく、自身の中で感情が膨れ上がり死ぬほど苦しい
依然は、自制が効かない自分を落ち着ける為や、制御ができない戒めとして手首を切りつけていた
これ以外に吐き出す方法を知らなかった

クランズマンになってすぐ、辛いことがあるなら仲間に吐き出せと周防に言われたことがある
しかし今、その仲間は何か大きなものを抱えている
それの役にも立てないのに、更に厄介事を増やして迷惑をかけたくなかった
仲間にも話せない、話したところで何も変わらない
自分だけの問題だ

ハサミを拾い上げて歯を見つめてから夾架は目を閉ざし、ぐっと奥歯を噛み締めハサミを洗面台に戻した

『約束だからね……』

リビングに戻ると、今度こそ帰ったと思っていた草薙がまだ居て、ソファーで端末を操作していた

冷蔵庫から冷えた水を取り出した時にシンクの中に何も無く、水切りラックに器や鍋が立て掛けられていた

『いいって言ったのに』

「ええんよ、これくらいさせてーや」

先程よりはマシだが、少しキツめの口調で言えば草薙は困ったようにだが優しく微笑みかけた

『……ありがと』

「ほな、そろそろ出るわ。夜また俺か尊寄越すわ」

『ん、わかった。
出雲さん…、あのね、その……』

立ち上がり、部屋から出ていこうとする草薙に、夾架は視線を斜め下に落として口をもごもごとさせた
八つ当たりしてごめん、でもこんな状況だからこそ仲間外れにされるのが辛い、でも話してくれない理由も必ずあるのだと考えると上手い言葉選びが出来なかった

「ええんよ、気にせんといて」

ひらりと手を上げて颯爽と出ていく草薙を見送って、寝室に戻ってベッドに寝転んだ
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