short

□サイレント
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『ちょっと八田ちゃん、多々良、うるさい!!尊起きちゃうでしょ。疲れてるんだから寝かせておきたいの』

「す、すんません…」

「ごめん夾架…気をつけるよ」

いつも通りバー内で騒ぐ十束と八田を夾架は叱咤した
元気なのは良いことなのだが、今自分の膝の上に頭を乗せて、安らかに眠る、愛する人を起こしたくはなかった

普段から王として色んなことに気を使い、退屈な小競り合いをする
疲れてるのは当たり前だった

夾架は黙って膝を貸し、黙って膝枕で寝だす周防を見て楽しんでいた

「姐さん、ブランケットいりますか?」

『ありがとう鎌本。助かるわ』

「他なんか欲しいものありますか?」

『大丈夫よ』

鎌本がブランケットを持ってきてくれる
それを受け取り、周防の身体にそっとかけてやる
ピクリとも動かない周防の髪を撫で、微笑みを浮かべる

「尊さん、夾架さんの膝枕好きっすよねー」

『好き、なのかなー。んー、多分あたしがそうさせてるだけなんじゃない?』

「足痺れないの?」

『痺れないよ。慣れてるもの』

何年やってると思ってるの。十束なら知ってるはず、とにっこり悪意を込めて笑みを向けると、十束も微笑み返す
この笑顔には裏がありすぎている。八田はやりとりを見て、あまり関わらないようにすると決めた

「姐さんと尊さん、いつ出会ったんすか?」

「俺らが高3、尊が高1ん時や」

「夾架と草薙さんとキングって、同じ高校出身だったんだっけー」

「そうなんすか!?じゃあ草薙さんと姐さんも高校で出会ったんすか?」

八田の口数は減った。そのかわりカウンターの内側から草薙が話をするようになる

もちろん声のボリュームを下げて

自分たちの過去話をした事はなかったんだっけ。と今更ながらに夾架は話を始めた

「えええええ!?」

『ちょっと、うるさいってば…。起きちゃったらどーしてくれるの!?』

自分が草薙の幼なじみであること。それから、元恋人であること。中学3年間丸々付き合っていたけど、高校に入ってから別れ、その後周防と付き合い出したこと
わかりやすく話せば、終わった時に十束、八田、鎌本は絶叫した

何度も言うようだが、周防を起こさないでほしい。と口元で人差し指をたて眉を顰める
幸い周防は起きなかったのだが、もしも起きてしまったのなら、きっととんでもないのだ

以前八田が、周防の昼寝中に騒ぎ起こしてしまった事があった
その時のバー内の雰囲気といったら、地獄そのものだ

痺れを切らした十束が気になっていた疑問を3人を代表していう

「草薙さんと付き合ってたとか、俺でも初知りだよ…。でもさ、なんで別れちゃったの?今でも仲いいじゃん?」

十束の言うとおりだった
八田が思うに恋人の別れた後と言ったら、ギスギスからのギスギス。会話なんて出来たもんじゃない
なのに目の前で会話している2人は性別を感じさせないほどに仲が良い
そういう経験が薄い八田はどこか少し勘違いをしている

「俺らわ幼なじみっちゅうんが、ちょーどいいんや。恋人じゃあかんかったんや。それに、あの尊が夾架を必要としてる。それだけや」

『そうね。でもまだ出雲の事好きって言えるわ。大好きだもん』

「俺も夾架の事、好きや」

それでも夾架は周防を選んだ
草薙はそれに関して特に気にも止めていなかった。未練があるわけでもなく、復縁を求めてるわけでもなく、最高の幼なじみであることが、ベストな形なのだ

八田にはその気持ちが微塵も伝わらず、やりとりを見て頭にクエスチョンマークを浮かべるだけだった

「キングは年上が好きなのかー」

「それはちゃうで、十束。年上が好きなんやない、夾架が好きなんや」

『そうかなー。なんか照れるな。でももしかしたら尊が選んだのが、たまたまあたしだっただけかもしれない。あたしより早く違う人と出会ってたら、きっとその人を選んでたと思う』

妙にシリアスな空気が流れる
先ほどまで普段通りだった夾架がいきなり暗い顔をしだす

この話はあまり持ち出してはいけない話題だったのかもしれない
すぐさま話題を変えようとしたのだが、その必要はなかった

いつの間にか起きた周防が、いつの間にか夾架の頭を引き寄せ、押さえつけ、キスをしていた

『あっ……ん……っ…』

「………」

キスが次第に深まる
周防が舌を滑り込ませ、絡ませ吸い付く
無音だった空間でキスの音だけがリアルに響き、シリアスだった空気が一気にエロティックなものに変わる

暫くして離れた2人はお互いを見つめあっていた

「やっ、八田さん!?」

「八田!?大丈夫!?」

始めて大人のキスというものを目の前で見せつけられ、八田は顔を真っ赤にしながら失神していた

「…出るぞ」

『えっ、あ、うん』

いきなりの行動に夾架は慌て、机においていた端末を乱雑にポケットに押し込み、先にバーから出て行った周防を追いかける

気遣ってか途中で足を止め、夾架の事を待っていた
追いついてくれば、いつもよりゆっくりめに、隣を歩きだす
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