short

□苦くて甘い
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『尊、煙草好きだよね』

ふう、と灰色の煙を吐き出す周防を見て、夾架が呟けば、周防は吸いかけの煙草を灰皿に押し付けようとした

『消さなくていいよ、別に』

灰皿に目をやれば、気を失う前には無かった吸殻が3本程。いつのまに吸っていたのだろうか
消さなくていいと言ったのに制止を聞かずに火を消してしまった
自分が消させてしまったと思うと申し訳なくて、夾架はごめん。と一言謝る

「夾架、煙草嫌いだろ」

『嫌い、じゃないよ。でもあんまり吸って欲しくはないかな。ほら、百害あって一利なしって言うでしょ?まあ吸わないでとは言わないよ。吸う吸わないは尊の自由だから』

夾架は煙草を吸わない
それなのに、自分のベッドのサイドテーブルには灰皿が置かれている
置いて欲しいと言われたのではなく、夾架が周防のために、と置いたもの
これが意味するものは周防も分かっていた

受動喫煙させてしまうのも悪い気はしたが、本人が全く気にしてないなら、気にしない方が良い
とは思うけど、あんまり良いようには思われていないのも知っていた

周防は少なくとも、煙草を吸うことでストレスを解消できている
もしも煙草を吸うなと言われたら、行き場のない苛々は募るばかりで、機嫌も悪くなるだろう
そうなれば吠舞羅の士気もさがるし、皆気を遣うようになる
だから吸わないでとは言わない、寧ろ言えない

現在、部屋に煙草の臭いは充満していた
芳香剤の甘い香りと、煙草の苦い臭い

どちらかと言えば煙草の臭いが勝っていた

『尊の匂いだから、好きなの』

「…そうか」

本来なら煙草の臭いは好きじゃないのに、愛する人の愛煙する煙草の臭いなら、愛おしく思える
ここに周防がいなくても、すっかり染み付いた匂いで、周防がここにいるような気がして心地よかった

『出雲の煙草も好きだよ』

そういえば周防が怪訝な顔をする
2人きりの時に、こうして草薙や十束の話をすると怒る
意外と独占欲が強いので、たまに苛めてやりたくなる

『好きだけど?あたしが愛してるのは周防尊ただ1人。わかってるでしょ?』

夾架は軋む身体を動かして、周防の首に腕を回し、先程まで煙草を咥えていた周防の口にキスをする
開かれた口に舌をいれ、ねっとりと絡ませる
苦い。とてつもなく苦い。でも、ほんのり甘くて切ない味がした

『口が寂しいなら、こうやって埋めればいいじゃない。しかも最近煙草高いじゃない?煙草なんかに依存してないで、あたしに依存して…?』

返事を聞く間もなく再び夾架は口付けた
貪るようなキスに溺れ、窒息するまでに続けた
離れる時はいつだって名残惜しく、ずっと繋がっていたかった

「服、着ろ」

『いいよ別に。まだこんな時間だからもっかい寝るし』

周防はズボンだけ履いていたが、夾架は裸に等しいものだった。薄手のブランケットを羽織り、なんとか身体は隠れていて、自信ある身体ではないが、見られて困るってほどでもない
周防相手に今更隠したところで、何も変わらない

おやすみ。と一言言うと、夾架は周防に背を向け、布団を頭からかぶりながら寝入る

「いい度胸してんじゃないか」

『…はい?』

ギシリ。とベッドのスプリングが軋んだかと思うと、周防が夾架の上に覆いかぶさってきた
夾架は何事かと思い、布団から顔を出すと、やはり周防が夾架の上にいた

「人のこと煽っといて寝ようとは…仕置きが必要か?」

『周防さん…?なっ、何を!?あたし眠いんんだけど…やっ!///』

布団を剥ぎ取られ、ベッドの下へと落とされる
隠せるものが何もなくなり、一瞬であられもない姿にされて、隠せなくてもいいかと先程まで思っていたのに、恥ずかしくなって手で隠してしまう

周防は夾架の腕を夾架の頭上で一纏めにして縫い付けて、身動き取れなくする

「隠さなくていいだろ」

『ひっ、やっ…ちょっ、まっ、あーーーっ!!』

"お前が悪いんだからな?"
低い声でそう囁けば、夾架はみるみる顔を青ざめさせる
夾架の悲痛な声が室内に響き渡り、だが周防はそんなの御構い無しに事を進めていく
そしてその悲痛な声は、段々と甘やかなものへと変わっていった

結局、もう一度夾架が意識を飛ばす事になるのは、まあ目に見えていた

それでも抵抗しないのは、周防がそうしたいと思っているのだから、そうさせてあげたい。
と思う夾架なりの気遣い


あたしに依存してくれるならそれでいい。
それでいいんだけど…ちょっとは加減というものを、覚えてほしいかな…



END.
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