short

□Dissimilar
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容姿端麗、頭脳明晰、才色兼備、文武両道
彼女に似合う言葉はたくさんあった
何でもできて、完璧で、世間からはまさに必要とされるべき人なのだが…

「夾架、パンツ見えてるで」

『えー、あー…見えてない見えてなーい』

普通の女の子なら、きゃーとかわーとか恥ずかしがってすぐさま隠す
それなのに夾架は棒読みでそれだけ言って、隠す気すらなく、変わらずソファーに寝転がり、脚を組んだまま

「隠さんのか…?」

『だるいからいー…。あー…、あたしのパンツ見て欲情してんのー?』

"行儀が悪い"
彼女はそんなこと気にする人じゃなかった
いつもつまらなそうな声色で、全くといっていいほど、声のトーンも変えない
だいたいは棒読みで、反応を示さない事も少なくない

周防以上に手がかかる。草薙はそう思った

「襲うで」

『襲えるもんなら襲えば?
ああ…その代わり、ここのバーのマスターは所構わず人を襲ってくるケダモノ。って情報流しとくね』

「上等や。そないなこと言えないくらいにしたるわ」

草薙は鼻でフッと笑い、口角を吊り上げ、夾架が寝転がるソファーに手をかけ、夾架に触れようとする
その瞬間に降りかかる制止の声

「ちょっと草薙さん!俺の夾架に何してんのさ!」

「こいつは俺んのや。姉の恋愛事情に口出すなや弟!」

『あー、はいはい。わかったから寝かせてよね…疲れてんだからさ…』

これ以上はめんどくさい
めんどくさい事を極端に嫌う夾架は、自分の腹にかけていたブランケットを下半身にかけるようにして隠し、ソファーの背もたれの方に身体を向けてしまった

十束は事が解決するとカウンターのスツールに戻り、八田達と喋りだし、草薙はそのままソファーの肘掛に腰掛ける

「ほんっとにダルがりやなぁ…」

『…寝かせてっていったじゃない』

「愛する彼の話くらい付き合えや」

『愛してなーい。あたしが好きなの多々良だけだし』

「流石の俺でもそれは傷つくわ」

『勝手に傷ついてれば』

なんとか会話のキャッチボールとして成り立ってはいるが、夾架が返す言葉は、氷のように冷たい言葉ばかり

吠舞羅のNo.2として君臨し、多くの仲間を従える強い男、草薙でも傷ついていた

「ホンマ美人なんに、もったいないわ」

『…悪かったわね』

見た目やステータスには何の問題もない
問題があるのは、知る人ぞ知る夾架の内面

世間ではひたすらに猫を被って、自分を偽り、何でもできる完璧な人間として振る舞う

だが本当の夾架は執着するしない以前に無趣味、何事にも無関心。めんどくさい事を極度に嫌う無気力
暑いの嫌い、寒いの嫌い、花粉もアレルギーでダメ
年がら年中怠そうにしている

「十束を見習ったらどや?」

『…わかってるよ、あたしがめんどくさい性格してるって。ていうか、あたしも十束なんですけど?』

「…せやな」

ごもっともな意見だった
夾架の名前は十束夾架、姉弟だからもちろん苗字は同じ

草薙は夾架は夾架、多々良は十束
と呼び分けてはいるが、紛らわしい事には変わりない

だが特に気にしてはいない

『あたしはへらへら笑ってらんないよ。柄じゃないし、一秒でも多く働かなきゃだし』

今も十束は笑ってる。その反面、夾架は険しい顔をしていた
でも夾架はそれで良いと思っている

双子なのに、見た目はそっくりなのに、中身は正反対だった
夾架をそういう性格にさせたのは、紛れもなく十束姉弟を捨てた両親

草薙は痛い程にそれを分かっていた
自分の隣にいたってあまり笑わない
でも草薙はそれを知っているからこそ、夾架を変えたかった

「まだ捨てられたんわ、自分のせい思てるんか?」

『…何、あたしの事泣かせたいわけ?』

「まあな」

賑やかなバー内では不釣り合いな話をしようとしていた
夾架が泣くわけがないって理解されているはずだが、あえてこういった質問を投げかけてみた

草薙が何をしたいのかは分からないが、泣いて欲しいと思われてるなら、嘘泣きの1つでもしてやろうか
何て思ったけどすぐさま思い浮かんだ"めんどくさい"と言う言葉により、考えはなかった事になった

『…あたしが悪いんだよ。あたしが泣いてばっかで、多々良の背に隠れてばっかで、泣き虫で、弱かったから…。ウザかったんだねきっと。だから捨てたんだよ、あたし達を』

「そんなわけ…」

『ないって言える?出雲は何も知らない。多々良はすごくいい子だった。でもあたしのせいで捨てられた。謝って許される事じゃないってわかってるからこそなの』

夾架が表情を見せてくれないのが余計に辛くなる
"何も知らない"そう言われてしまえば草薙は黙るしかなかった
1人で何から何まで抱え込み、大事なことは一切話してくれない

少しでも夾架の負担を軽くしたくて隣にいるのに、重荷にしかなってないんじゃないか
草薙はそう思うばかりだったが、それでも夾架の傍にいることを選んだ

『でもね、出雲がいるから頑張れるよ』

草薙は自分の耳を疑いたくなった

『出雲がこうやって話し聞いて、傍にいてくれるから、頑張れる。まあ、多々良が好きなんだけどね。多々良がいなきゃ生きてけないしー』

あえて最後に十束への愛を主張してくるとこが夾架らしい
しかし、今の一言で草薙は全て報われた気がした

夾架がブラコンなのは、知っての上でのことだったが、こんなことを言われたのは初めてだった

産まれた時からずっと一緒にいて、痛みも悲しみも、喜びも分かち合ってきた
普通の姉弟よりも強い絆で結ばれ、お互いがお互いを1番に理解しあっている

だから夾架は、罪滅ぼしとして強く在り続け、十束は何も知らないフリして、夾架の分まで笑う

『この話は終わり。あー、寝れなかったじゃない…』

「自分で話始めたんやないか」

『聞いてきたのは出雲じゃない』

ハア…と深々としたため息を吐き、心底怠そうにしながら寝返りをうち、仰向けになる

視線をカウンターの方に向ければ、夾架は微笑みを浮かべる

「何笑ってんのや」

『んー、多々良が楽しそうだなって』

「せやな。あいつはいつでもヘラヘラ笑ってて、呑気な奴や」

十束が辛気臭い顔をしてたら、すぐに夾架は心配そうな顔をする。十束が笑えばたまに夾架も笑う

夾架の笑った顔は、可愛いなんかじゃ済まない
十束みたいな満面な笑みではないが、やわらかな雰囲気でとても美しい笑い方をする
そんな夾架の笑顔を見れた日は幸運だ

仕事ではどれだけ愛想笑いをして、引きつった顔をしているのかは見ものだった
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