short

□Dissimilar
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それから数分間、飽きもせずに十束と八田の様子を見ていた
ようやく満足したのか、再び寝返りをうち、うつぶせになる

『あー、眠い眠い眠いー…。はー、めんどくさいー…』

いまにも駄々をこね、暴れ出しそうな勢いだった
草薙は端末を取り出し画面に浮かぶ時計に目をやる

「そんな夾架に朗報や」

『何ー?』

朗報ということは、さぞ夾架が喜ぶことなのだろう
夾架は珍しく目を輝かせながら起き上がる

「今、何時や?」

『……えーーー』

草薙は夾架の目の前に端末の画面を持って行き、画面いっぱいに時刻がだされた端末を見せる

時計をみた瞬間に夾架はうな垂れ、それから冷たい目で草薙を見る

『全然朗報なんかじゃないんですけど?…最悪、出雲そうやってあたしのこと…』

「ほら、早よ行かんと遅刻してまう」

『出雲のバカ…』

「夾架さん、バイトっすか?」

『うん…』

これから夾架はバイトの予定が入っていた
バイトをしてお金を稼がないと、色々困るのだ
食費は草薙が負担してくれたりするが、生活費は自分で稼がなくてはならない
だから夾架は日夜バイトに明け暮れる

『行ってきます。終わったらまっすぐ家帰る。あ、明日の朝はバイトだから午後くらいには来るから』

「おう、頑張りや」

「頑張ってねー」

「頑張ってください!」

草薙、十束、八田に送り出され、外に出ると冷たい風が身に染みた
空が灰色で、今にも雪が降り出しそうな寒さを肌で感じた

そういえば夜には雪が降り出す。と今朝みた天気予報で言ってたなと思い出す

ー寒い、めんどくさい。でも頑張らなきゃ…

バイト前のこの憂鬱感が大嫌いだった
でも十束の事を思っておけばなんとかなっていた

「夾架!」

『ん、どうしたの多々良?』

バイト先に向かっている途中、後ろから十束の声がした
走って追いかけてきたのか、軽く息を切らしていた

夾架が不思議そうに首をかしげていると、首元にフワッとしたものが巻かれた

「マフラー忘れてたよ。そんな格好してるとまた風引いちゃう」

『あー…ごめん、ありがと』

マフラーの存在をすっかり忘れていた
バーに忘れていったのを十束が見つけ、追いかけて届けてくれたのだ

マフラーが首に巻かれ、一気に首元が暖かくなった

わざわざそんな事しなくても
と言おうと思ったのだが、先日風邪をひいてぶっ倒れたばかりだった
まあ迷惑をかけるわけにはいかない。だから何も反論することはなかった

「夾架、無理してない?ちょっと頑張りすぎ。…やっぱり俺もバイト…」

『してないから、大丈夫。多々良は吠舞羅に欠かせない存在だから、吠舞羅で笑ってて。それがあたしの望みだから』

ね?と笑かければ十束はゆっくり頷く
夾架は自分より背が高く、昔と比べてずいぶんたくましくなった十束を見上げ、腕を伸ばし頭を撫でた

昔は夾架の方が高かった背丈、だが中学に入りみるみる背を伸ばす十束に、追い抜かされたのは中2の夏
いつのまにか追いつかれ、追い越され、肩幅も広くなっていき、気付いた時にはすっかりイケメンになっていた

「今日のご飯、何食べたい?」

『肉じゃが。多々良の作る料理の中で肉じゃがが1番好き』

「わかった、夾架のために頑張るね」

『楽しみにしとく』

肉じゃが。昔よく聞いた、男の胃袋をつかむなら肉じゃが
今はどうかはわからないが、胃袋を掴まれたのは夾架の方だった

『あ、やばい、もうこんな時間…』

端末で時間を確認すれば、夾架が眉を顰めた
ちょっと走らないと間に合わないかもしれない、と考えただけで嫌になる

十束は夾架の頬を手で包み、頬にそっとキスをした
そして得意の満面の笑みでこう言った

「行ってらっしゃい、お姉ちゃん!」

今ならなんだってできる気がした
最愛の弟にキスをしてもらって、普段とはまた違う"お姉ちゃん"呼びはぐっときた
普段呼ばれない名で呼ばれると、やはりキュンとくる
草薙には悪いと思うが、不覚にも萌えてしまった

多々良の姉でよかった。とはいつも思ってはいたが、今日以上に思った事はなかった

そんな満面な笑みで言われてしまったらしょうがない
あれをやるしかない

『行ってきます!』

今まで草薙には1回ポッキリ。十束には五本の指で数えきれるくらいの数しか見せた事のない満面の笑みを見せた

もちろん作り笑いではない、自然な笑みだった

夾架は小走りでどこか楽しげに走っていってしまった
十束は唖然とし、立ち止まる

十束は胸キュンしてしまい、顔を真っ赤にし、夾架の後ろ姿を見つめていた

「姉弟なのに、これはマズイよね…草薙さんに怒られるなー…」

もしも夾架が草薙と結婚したら、十束にとって草薙はお兄さんになる
まあ、夾架は俺のだからー。なんて草薙に敵対心剥き出しにして、バーへと戻っていく



ー俺は、君がどんなこと思ってるか知ってる。
別に君のせいとは思ってない。
でも、止めたところで君の意思は揺るがない。
俺にはどうする事もできないから、
君の望むとおり、俺はいつでも笑ってるよ。

俺が十束夾架の弟であることが、君を守る術。
だからどうか、引き離さないで。


大好きなお姉ちゃん
俺は君の弟であることを誇りに思うよ。


…ありがとう、ごめんね



END.
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