short
□とりあえず寝たい
2ページ/2ページ
ブーブー
端末が振動を起こす音が聞こえた
2人はどちらの端末だか区別がつかなかったので、2人で端末を確認すると、夾架の端末が鳴っていた
淡島からの電話だった
悴む手でなんとか操作し、伏見と密着したまま電話に出る
[こちら淡島。様子はどう?]
『こちら九乃。動きなし。引き続き監視を続けます』
[了解。伏見くんは元気?]
「元気っすよ」
[やけに声が近いわね…。まあいいわ]
密着していれば電話の声も聞こえる。自分の安否の事を話していたから、伏見はすぐに返事をする
淡島も少し疲れた声色だった
同じく徹夜をしたのか、と夾架は思い、淡島も頑張っているのだから自分ももっと頑張ろうと、身体に鞭をうつ
伏見は、夾架の手が真っ赤な事に気づいた
そっと触れてみるとすごく冷たくて、氷のようだった
伏見の手は暖かかった
夾架の手を包み込み、そっと息を吐きかける
『っ…///』
[どうかしたの?]
『いや、なにもないです//』
ー何してんの!?//
そう目で訴えかけると、伏見は夾架をチラ見するだけして、また手に息を吐く
[もしかして、具合でも悪いの?それならそうと早くいいなさい。あなたに何かあったら…]
『そんなことないよ、大丈夫!』
[そう。なら引き続きお願いするわ。何か動きがあったら連絡して頂戴]
『了解』
必死に何もないことを伝えれば、これ以上は詮索されなくなった
電話を切り、ポケットにしまい、伏見を睨みつける
『何してるの?//』
「あっためてる」
『それは見ればわかるけどさ…』
もっと違うやり方があったんじゃないか。恥ずかしくてたまらないが、でも抵抗はしなかった
せっかく2人きりなのだから、たまにはいいかな。なんて思ってしまう
夾架はふとビルの下の道路に目をやると、ハッとする
『猿比古、世理ちゃんに連絡して』
「わかった。すぐ行く」
男らが数人、目的のビルから出てきた
夾架はすぐさま伏見から離れ、わりと高めなフェンスを飛び越えそのまま、地上へと飛び降りた
ここは地上から数階のビルだが、飛び降りたって能力を使えばどうにでもなる
夾架が飛び降りた事に関しては、いつもの事なので心配すらしない
言われたとおりに淡島に電話をかける
夾架は身を屈めて着地し、男たちの行く手を阻む
ゆっくりと立ち上がり、男たちを見据える
数人の男たちが、突然空から降ってきた夾架を見て驚いていた
『やっと出てきた…待ちくたびれたわ。私はセプター4の九乃夾架。セプター4の私がここにいる理由、勿論わかるよね?』
「なんの事だ?」
『わからない?とぼけちゃだめ、ちゃんと令状はでてるの。大人しくお縄につきなさい』
「ざけんなクソガキ。だれがてめえなんかに」
端末からホログラムをだし、見せる。セプター4のエンブレムと言葉の羅列、みればなんとなく令状だとわかる
しかし、元々話したり令状をみせたりして理解する相手とは思ってなかった
今ここにいる人だけでも結構な人数がいた
夾架は待ってましたと言わんばかりにサーベルに手をかける
『剣をもって剣を制す。我らが大義に曇りなし。…九乃、抜刀!』
ゆっくりと剣を抜き、目の前で構える
先ほどまで夾架が纏っていた柔らかな空気から一転して、辺りの空気をピリッと張り詰めさせる
夾架が与えるプレッシャーに男たちは忽ち怯み、数歩後ずさった
「んだよくそ!ガキのくせになめたマネしてんじゃねえよ!!やっちまえ!!」
1人の男が野良犬が吼えるように叫ぶと、その声に便乗して周りの男らも志気を取り戻す
男たちは鉄パイプやら金属バットを持ち、夾架に一斉に殴りかかる
しかし夾架はそれを、たった一撃の衝撃波でなぎ払う
吹き飛ばされた男たちは、皆同様に気を失い、あっけなく倒れてしまった
ーあっけない。根性ないなあ。
何時間も寒い中で待機していたのに、このままだとすぐに終わってしまう。面白くないなと夾架は思った
だが夾架は気を抜いてしまい、背後から忍び寄る影には気づけなかった
すぐ近くに気配を感じ、振り向いた時にはすでに、目の前にバッドが振りかざされていた
「死ね!!」
『っ!!』
防御は間に合わないと、衝撃に備え目を閉じた
しかしいくら待っても痛みは訪れず、恐る恐る目を開けると見慣れた背中がそこに
「人の女に手ぇ出してんじゃねぇよ」
『猿比古!!』
「気抜くな、怪我するだろ」
『猿比古が守ってくれるって信じてるから大丈夫!』
ーーーーー
『こちら九乃。内部も制圧完了。ぬかりはないわ』
[了解。お疲れ様。すぐに回収班を向かわせるわ。到着次第2人は帰投しなさい。暖かい飲み物を用意して待ってるわ。ああ、勿論あんこも添えるから心配しないで]
『はーい。世理ちゃんこそお疲れ様です』
調べによる組織の人数の数と、外やここらで伸びている人数は一致した
たった2人で一帯を短時間で制圧し、ボスもしっかりと拘束し、お縄につけさせる事ができた
ストレインが関与してるもんだから、もっと苦戦を強いられると思っていたが、案外そうでもなかった
コモンクラス数人にベータークラス1人
2人にとってはどうってことなかった
「怪我してないか?」
『うん、大丈夫だよ。さて、帰ろっか』
応援もやってきて、後処理は任せてくれというので、お言葉に甘え帰ることにした
外に出れば日が登り、まだ少し薄暗かった空も、すっかり明るくなっていた
朝の日の光を浴び、新鮮な空気を肺いっぱいに取り込み夾架は大きく伸びをした
『あー、疲れたぁ…。猿比古、どこ行くの?こっちでしょ?』
ー帰り道はあっちだよ、忘れたの?
夾架は真逆の方向に歩いて行く伏見を某然としつつ見つめる
あまりの疲労、眠気により、屯所の場所までわからなくなってしまったのか
それとも、まだ19なのに、記憶にガタがきてしまったのか
どちらにせよヤバイと思い、伏見の腕をつかむ
「行くんだろ?コンビニ」
『あ、寄ってもいいの!?』
「ああ。好きなの買ってやるよ」
『やった!猿比古大好き!!』
夾架に掴まれた腕を引っ張り、再び肩を抱き寄せて歩き出す
朝っぱらから街中を公務員2人がいちゃつきながら歩くのは関心がいかないが、伏見は元々そういう他人の目は気にしなかったし、夾架も伏見と一緒ならどうでもいい。ということだった
ありがとうございましたー。
店員に笑顔で見送られ、色々買ったものが入った袋を下げて、帰路につく
「ほら、熱いから気をつけろよ」
『うん。ありがと』
夾架が伏見に買ってもらったものは、食べたいと言ってた肉まん。伏見は飲みたがってたコーンスープを購入
伏見から受け取り、取り出すなり、夾架は肉まんを半分に割り、半分を伏見に差し出した
『守ってくれたお礼。奢ってもらったものだけど、2人で食べた方が美味しいからね』
「さんきゅ。ほら、飲めよ」
『ありがと。今日の猿比古、いつもより優しい。でも、なんかこういうの悪くないよね』
「ああ」
2人で肉まんを食べながら、コーンスープを飲みまわしして、楽しげな雰囲気だった
先ほどまでの過酷な任務の事も、忘れてしまいそうなほどに和やかだった
コンビニに寄り道して、1つの物を分け合って、というのは学生の時によくやったことだ
昔を思い出し、たまにはこういうのも悪くないと思う
それが伏見だからこそだ
他の人とじゃ意味がない
相方が伏見じゃなきゃ、こんな任務やってらんないだろう
特にアンディと組む事になった時なんて最悪中の最悪
考えたくもないと夾架は思う
『コーンでてこない…』
「まあそんなもんだろ」
『もったいなくない?』
「120円に文句言うな」
『はーい。じゃあさ、今度はホットレモンなんていいんじゃない。あれなら飲み残しなく飲めるし、甘くて酸っぱい感じがたまらないよね。冬ならではのものかな』
「夾架の好きなもん飲め。買ってやるから」
今度なんて言うけど
こんな任務、もう懲り懲りだ
END.