short

□Advance
1ページ/2ページ


!アニメ終了後の妄想


あれから2週間
毎日騒がしかったバーも、今は閑散としていた

王を失った吠舞羅は事実上解散となり、皆バラバラにそれぞれの生活を送っている
暇なときにちょこっと顔をだして、客として酒を飲んで行く程度で、少し前までの絆なんて、忘れてしまったかのようだった

短期間に、何年も一緒で、仲のよかった友人を2人もなくしてしまった草薙は、酷い喪失感を隠せなかった

それでも前に進まなきゃいけないことは分かっていた

だが、失ったものがあまりにも大きくて、もう戻らない。と考えるだけで涙が溢れ出てしまいそうになる

いっそ自分も。
なんて考えることはやめた

残された者として、出来ることを探し、2人の分まで頑張らなきゃ
もしも2人がここに帰ってきたくなったときの居場所を
皆で過ごした思い出の場所を
簡単に手放したりはできなかった

自分は吠舞羅のNo.2ではない
バー≪HOMRA≫のマスター

自分がやるべきことは、ここをより良い物にしていくこと

それから、アンナの親代わりとなり面倒をしっかりみて、成長を見届ける

まだ収拾のつかない頭でだが、草薙は色々考えていた

そしてもう1つ、守るべきものがある

九乃夾架。
草薙にとって何よりも大切な存在
草薙と同じく吠舞羅の古参組
昔から仲がよくて、何年も付き合っている
彼女も一連の事については酷いショックを受けていたが、既に自分の足で歩き始めている
周防や十束の分まで、頑張るんだ。と

彼女は強い。でも、弱いところだってある

彼女を1番理解しているのは草薙で、彼女の苦しみはよく分かっている
だから、自分が守らなきゃいけない。と草薙は感じていた

そして、付き合って何年も経ち、することだってちゃんとしたし
そろそろゴールしてもいいんじゃないか

20代後半にさしかかり、三十路なんてすぐそこだ
いい加減、男としての幸せを掴んでもいいんじゃないか

だがそればっかりは、すぐに決断というわけにはいかなかった

色々ありすぎて、まだ立ち直りきったわけでもない
しっかりと傷を癒してからでも遅くはない


話し合うのもアリだと思うが、
その夾架の姿が見えない

「どこに行ってるんや、夾架…」

静かなバー内で、草薙の呟きが響く

毎日の様に此処に来て、来ない日が無いという程のものだった
こない日には必ず理由があって、ちゃんと連絡がきていた

それなのに、もうまる2日も姿を見せない

心配になった草薙はメールをした。でも返事はない。電話をしても、電源が入っていないか電波の悪いところにいる。それの一点張りだった
所謂音信不通となり、嫌な事しか頭に浮かばない

夾架も吠舞羅のメンバーであったから、裏で名前も顔も知られている
無防備に街を歩けば狙われる
女という事もあり、その確率は高かった

他の仲間に見なかったかと聞いても、皆同様に知らないと言った

いつもここで適当に話に付き合ってくれ、昼寝して、店を手伝ってもらい、彼女でもあり、相棒でもあった夾架が急にいなくなり不安が過る

思い当たる節にも全てあたった
夾架の実家、友人、情報屋、色々掛け合ってはみたが、有益な情報を得ることは出来なかった

やはり何かあったんじゃないか
何かあってからでは遅い
しかしこれ以上宛がないから探しようもない

「夾架…」

どうもこうもセンチメンタルになる
今だからこそ傍にいて欲しかった
あの笑顔で、あの声で、自分の不安を取り除いてほしい

「夾架…どこや…」

返事は返ってくるはずない
そう思っていたのに

『…呼んだ?』

どれだけ待ち望んだだろう夾架の姿が今此処に

いつのまに入ったきたんだ
全く気付かなかった草薙は、カウンターの向こう側に立つ夾架を見て、呆然としていた

『ただいま』

「夾架…ほんとに夾架か…?」

『うん。正真正銘生きた九乃夾架、脚だってちゃんとあるわ』

草薙は信じれないと言った表情をしたいた
自分が幽霊になって帰ってきたんじゃないか、そう思われていたら困る。夾架はちゃんと地につけている脚を見せてニコリと笑う

『あ、まだ信じてない?なんなら、あたししか知らない出雲の恥ずかしエピソードでも…きゃっ//』

「阿保…っ、何処行ってたんや…」

夾架はいつも通り元気そうだった
いち早く草薙はカウンター内から飛び出し、夾架をキツく抱きしめた

涙がこみ上げてきた
とりあえず夾架がここにいる事を実感したかった

『ごめん、色々あって。連絡しようとしたんだけど、端末の電池切れちゃったからさ』

苦笑いをしながらそう言う夾架は、無事。というわけではなかった
所々に包帯が巻かれていて、戦いの後を物語っていた

『比良坂ビルと、葦中学園に行ってきたんだ』

「言うてくれたら俺も…」

『どうしても1人で行きたかったんだ。2人には、いっぱい話すことあったからね』

それぞれが亡くなったところで、誰にも言わずにずっと秘めていた思いを放ってきた
ずっと言えなかった何年分もの思いを、漸く解き放ち、もう振り向かず歩き出そうと覚悟を決めた

ひとしきり涙を流し、これ以上はもう2人も望まないことだ
だからもう泣かない。後悔しない。前だけを見つめ続ける

『それから帰ろうとしたんだけど、絡まれちゃってさ…。あたしもまだ気が動転してて、力が上手く使えなくて、もうダメかと思った。あっちも王がいなくなったばかりって知ってるから、狙ってたのかな…。でもセプター4がね、助けてくれたんだよ。目が覚めたのほんの2.3時間前でさ、それから急いで帰えってきたんだ』

伏見にも連絡すればよかった。草薙は昨日の自分の行動は浅かったと後悔した

無事、ではないが、とりあえず夾架が帰えってきてくれたので、一安心した

だが納得はいってなかった
今フラフラしてたら危ないのは夾架も知ってたはずなのに、どうして黙っていったんだ

もしもセプター4が夾架を助けなかったら?

夾架の身体のいたるところに巻かれた包帯の下には、きっと痛々しい傷がたくさんあるのだろう
守るって決めたのに、守れてない

悔しいなんてものじゃなかった
本当にセプター4が助けなかったら、草薙はまた大事なものを失う事になっていたかもしれない

「…もうこんな、危ない真似すんなや。…夾架まで、どっかいかんといて…」

『出雲…』

草薙は震えていた
2人を送った時も、そこまで取り乱してはいなかった
どちらかというと感情を押し殺し、耐えていた感じだったが、今は不安を全面に押し出していた

ーああ、大事にされてるんだな。
これほどまでに自分を必要としてくれる人がいるなんて
夾架はそっと草薙の背に手を回し、子どもをあやす様にそっと背中を叩く

「夾架までいなくなったら…俺は…」

きっと壊れてしまう
そんなこと、夾架はとっくの昔に気づいていた

『あたしはここにいるよ。絶対消えないし、どこもいかない。あたしはずっと出雲の傍にいるよ』

「せやな…」

ー何で俺が慰められてるんや…。
ケロっとしている夾架を心配してたことがバカバカしく思えた
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ