short

□Advance
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夾架が草薙の服の裾を握った

「どないしたんや、言うてみ」

『う、うん…あのね…//』

夾架が何か言いたげだったのは、すぐに分かった
優しくそう言うと、夾架は少し黙ってから顔をあげた

『できた…みたい…///』

「へ…?」

草薙は思わず間抜けな声をだす
夾架の言ってることの意味をわかってない

そんな草薙に痺れをきらした夾架は、草薙の手を取り、自分の腹にあてさせる

『出雲とあたしの子、できたの』

夾架は顔を赤らめていうが、どこか不安げな顔をして、草薙を揺らぐ瞳で見つめていた

「ほんまか?」

『まだ100%そうだってわかったわけじゃないけど、セプター4に運び込まれて、色々検査したときに分かったらしくて、多分…間違いないって…悪阻ももうすぐ始まるかもって。だから明日ちゃんと、検査に行こうと思うんだ』

「………」

ーやっぱり、だめなのかな…。
黙ったままの草薙を見て、夾架は泣きそうになった

もしも否定をされたら。
考えるだけで辛くなる

だが、これからのことに関わるので、返事は急かさなかった

『出雲、あのね…もしダメだったら…』

「ダメなわけないやろ…。今、嬉しすぎて泣きそうになってんのや…」

『出雲…』

否定されたわけではないのに、胸が苦しくなった
それから草薙を見つめ、手をそっと握る

『ねえ出雲。あたしずっと傍にいるから、出雲もずっと傍にいてね』

「今更なに言うてんの…当たり前やろ」

『…出雲、結婚しよっか』

これが世にいう逆プロポーズ
夾架は言ってしまったあとは、満足そうな表情をしていた

夾架が思い切っていった言葉に、草薙は驚いていた
それから、深い溜め息を吐き、肩を落とす

「なんでそれ夾架が言うんねん…阿保か…。ふつーは俺が言う台詞や」

『いいでしょ。逆プロポーズ流行ってるし』

「あんなあ…そういう問題やないんや。ずっと言おう思てたのに…」

『さっさと言わない出雲が悪いの。あたしずっと待ってたんだから…』

草薙がずっと言おうか迷ってた言葉を、こう簡単に言われてしまうと、やっぱり今まで悩んでたことがバカバカしく思えた

夾架を相手するのに、いちいち悩んでたら、それこそバカになる

草薙は夾架の後頭部を押さえ、自分の胸板に顔を埋めさせた

『ちょっと…顔見せてよ…』

「…今は見いひんといてや。恥ずかしいんや」

『らしくない…』

「怪我人は黙っとき」

痛むんやろ、なんて言わなくたって、夾架が草薙の前に現れた時から、わかる
本当は辛いくせに、我慢して、大口叩いて、バカだなと草薙は思う

夾架は身体を草薙に預けるようにして抱きしめられる

『…返事、聞かせて』

「聞きたいんか?」

『あたりまえでしょ』

ー自分から言っといて、返事聞きたくないわけないじゃない。

草薙は朗笑し、夾架の頭を撫でた

「ええよ、結婚しよか。できちゃったもんはしゃあないし、ちゃんと責任とったる」

『なんか仕方なくみたいじゃない。別に強要してるわけじゃないんだから』

「そんなことあらへん。夾架は俺がちゃーんと、幸せにしたるからな。もちろん夾架だけじゃなくて、この子も幸せにするからな」

『うん…』

草薙は夾架のお腹に再び触れ、まだ全くと言っていいほど膨らんでいないお腹を撫でた

ここに、自分たちの子どもがいるのかと思うと、なんだか不思議な気分になる

『出雲…』

「夾架…」

お互いが見つめ合い、見つめ合うのはキスの合図
それがいつの間にか暗黙の了解となっていた

そっとキスをして、互いの存在を確かめあった

そのまま草薙が夾架が薄く開けた口の中に舌を差し込もうとした時だった

閉ざされた扉がキイッと音をたてて開く。そして賑やかな声が

「草薙さん、ただいまーって…うおおおっ、な、な、何してっ///」

「夾架さん、戻ってきたんスか!おかえりなさい。邪魔して申し訳ないっス」

「ただいま…」

八田、鎌本、アンナは遊びにでていた
あまり元気のない草薙を気遣い、少し1人にさせてやろうという、鎌本の案で、八田、アンナを連れてバーからでた

そして帰えってきた
最悪のタイミングとなってしまい、名残惜しくも慌てて2人は離れた

「おっ、おかえり…よう遊べたか?」

「楽しかった」

「すまんな2人とも、アンナ任せてしもて」

「堅いこと言わないでください。なんか困ったことあったら遠慮なく言ってくださいっス」

夾架は恥ずかしくて下をむいてしまった
八田は珍しく失神しなかったが、凄く顔が真っ赤で、相変わらずのDTさを露呈していた

しかし数日ぶりに見た夾架のナリを見て、音信不通だった理由を聞かずにはいられなかった

「夾架さん、ボロボロじゃん。草薙さんほったらかしてなにやってたんすか。相当寂しがってましたよ」

「八田ちゃん、余計なこというと、もう何も出さんで」

「それは勘弁してくださいよー」

『いやー、ちょっとさ。まあこの件については悪いとは思ってるよ』

あはは、と苦笑いをしながら、自分の元へ駆け寄ってくるアンナを見て、しゃがみ込み、目線の高さを合わせた

「おかえりなさい」

『ただいま。ごめんね、ずっと留守にしてて』

「へーき。みんなが遊んでくれたから」

そっか。と夾架は呟き、アンナの頭を優しく撫でた

アンナは夾架の家で暮らしていた
夜、バーに1人残してしまうのは危ないので、それならあたしが。と夾架が名乗りでて一緒に暮らし始めた

夾架が家を開けていた間は、草薙の家で預かっていた

草薙も草薙だったが、アンナも寂しがっていた
夾架に頭を撫でられ、アンナは少しだけ微笑む

「キョウカ、おめでたい…?」

『えっ?』

「いるの?」

ビー玉を介してではないが、アンナはまっすぐな瞳で夾架を見つめ言う
それから先程草薙が触れたように、夾架のお腹に触れた

「なっ、マジっ!?」

「ほんとなんスか?」

八田と鎌本はアンナの言葉に驚き、目を見開きながら草薙を見た

草薙は、ちゃんとわかってから言おうと思っていたが、アンナの能力を前に、隠し事は通用しなかった

仕方ない。そう思って本当の事を話す
全てを聞いた八田、鎌本は、揃いに揃って夾架のお腹に触れた

『まだ何もなってないよ』

「人の奥さんにセクハラせんといて」

「セクハラじゃねーっすよ。純粋に感動してんすよ」

"奥さん"という響きが妙にくすぐったかった
でも、これから慣れていき、そしてあと10ヶ月もしないうちに、ママになってしまうのか

すぐの事なのに、全くといっていいほど想像がつかなかった

『ねえ出雲、アンナのこと、養子に迎えるのはどうかな?』

「ええんやないか。アンナ次第やけどな」

やはり親がいないというのは、今後成長していくにあたり、少し不便な点がある
夾架もずっとこのことを考えていた

『今まで通り、親子というよりも、友達って感じでいいよ。まあ、戸籍上はって事で。…どうかな?』

「即決せんでええよ。よーく考えて決めな」

草薙もアンナの目線の高さに合わせ、いつも通り優しい笑みを浮べ頭を撫でた

アンナはきゅっとスカートの裾を握る
それから、こくこくと頷いた

「なる…」

『ほんとに!?』

夾架が嬉しそうにいえば、アンナは再び頷く

アンナにとって夾架はお母さん同然だった
アンナがここにきた時から、アンナをよく見て、1番に気遣ってくれた
夾架の優しさは、お母さんそのもので、夾架の彼である草薙も、同様に優しかった

本当のお母さん、お父さんも好きだけど、夾架、草薙も同じくらい好き

だからいいかな。なんて、アンナは思う

「夾架のお腹、大きくなる前に式挙げよな」

『そうだね。アンナにはフリッフリのドレス、着せてあげるからね』

「楽しみ…」

その3人の姿は、既に家族だった
八田と鎌本は3人を微笑ましい目で見て、邪魔しないように静かにしていた

『尊と多々良も、喜んでくれるかな…』

「ああ。十束なんて特に、早く子供作れとか、俺が精一杯面倒みてあげるよとか、なんや言うてたな」

『うん。そうだね。…っ、2人にも…見せて、あげたかったね…』

もう泣かないと、決めたはずなのに、いざとなったら涙が止まらない

草薙は崩れ落ちる夾架を、アンナも共に抱きしめた
アンナも泣きたそうな顔をしていたが、必死にスカートの裾を握り堪えていた

「2人の分まで、幸せにしたるからな」


もう戻らない。
ならば、それ以上のものを作ればいい

決して忘れていいものなんてない
2人がここにいて過ごした時間は、消えたりしない

周防と十束が、勝手に逝って仲間を残してしまった事を後悔しないように、2人には今まで以上の幸せを

強い王様も、ムードメーカーもいない
自分が2人を背負ってたち、護るんだ

失ったものは大きくて、そう簡単に埋めることはできないけれど、それに値するものを得た
大切に、少しずつ、失ったものを取り戻していこう


ー聞こえるか尊、十束。
お前らの分まで、頑張るからな。
見守っててや…。



END.
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