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□王子様の口づけで
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ー行ってきます、礼司。
すぐ戻るから、その間サボらずお仕事頑張ってね。
宗像礼司は日夜、業務に身を呈していた
青の王として、東京法務局戸籍課第四分室の室長として
誰よりも仕事熱心だった
少し前まで、いつも宗像の隣には、今とは異なる女性の姿があった
彼女は王である宗像の良き理解者で、気品溢れる可憐で麗しい強い女性だった
美男美女の恋人同士
仕事も出来、容姿端麗で、年も近いので2人が恋人同士になるのにさほど時間はかからなかった
セプター4に所属する全員が、2人の関係を知っていた
2人もまた、関係を隠そうとはしていなかったので、セプター4内での憧れに近いような2人であった
しかしとある事件を境に、彼女が宗像の隣に身をおくことはできなくなった
副長であった彼女の席が空いてしまい、当時No.3であった淡島が、そのまま副長へと昇格した
彼女が不在である今、宗像は彼女の分まで働き、尋常じゃないくらいの超過勤務を毎日こなしていた
彼女が個人のスキルで回していた仕事も山ほどあったし、色々な重要案件を抱えていたので、それを皆に分担する事なく、宗像は1人で請け負う事にした
溜まっていた書類を一通り片付け終える
そろそろやって来るであろう淡島はまだ姿を見せない
今手元にある仕事は全て片付け終わり、次の仕事がやってくるまでに時間がある
いい機会だからお茶でもいれ休憩にしようと、何時間ぶりに椅子から立つ
ー礼司、お疲れ様。疲れたでしょ?少し休まないと、身体に悪いよ。今お茶いれるから少し待っててね。
彼女には宗像の事はなんでもお見通しだった
丁度疲れてきた時に、彼女は休憩しようと告げる
彼女がいれた美味しいお茶に、美味しいお茶菓子
それらを有難く頂きながら数十分休憩をすれば、疲れなんてすぐ吹き飛んでしまう
彼女の癒しのスペックは栄養ドリンクの数倍の効果があるものだ
今でも彼女の温もりや言動、
彼女が宗像の隣にいた痕跡は、今でも消える事なく宗像の心の中に存在していた
しかし、ここには彼女はいない
いなくなってしまった
彼女が傍にいることが当たり前だったのに、急に訪れた喪失感はどうもこうも、気分を悪くさせる
自分を癒してくれる彼女もいなくて、疲れは溜まっていく一方で、宗像は根本的に参っていた
「夾架…」
全ては自分の判断ミス
あの時、自分もあの場に向かっていたら、こんな事にはならなかったのかもしれない
自分の浅はかさ故に彼女を失いかけた
彼女をあんな状態にさせたのは紛れもない自分で、今更後悔したって遅い
今の宗像自身ができる事といえば、強い王であり続け、セプター4を守り、夾架が帰る場所を守り抜く事。最後に交わした言葉の、戻るまで仕事を頑張れ。ということを果たす
彼女が戻ってきて、自分を見て幻滅しないように、昔以上の成果を挙げ続ける
宗像をここまでに動かすのは、何気無い彼女の言葉
そんな言葉1つで、ここまで頑張ろうと思うのは、彼女への愛の示し、それから償い、罪滅ぼし
これくらいの事で、へばっていられなかった
午後。長めの休憩を淡島にいれてもらった
少しでも仮眠をしてください。と言われたが、真っ先に宗像が向かった先は仮眠室ではなく、医療課のフロア
「今日もいらしてくださったのですね」
「ええ。淡島くんが長めに休憩をいれてくれましたのでね。今日はいつもより長く居れそうです」
医療課のフロアの最奥ににある一室に、宗像は毎日欠かさず訪れる
この部屋には限られた者しか入る事ができない
顔認証、指紋認識、それらで認められたのちに、定期的に変わる8桁のパスワードを打ち込み、全て通ったら、この部屋に入ることを許される
宗像はここに入ることを許された、数少ない人である
現在の価格副長である淡島でさえ、入ることを許されていない
白で統一された部屋
あるのはベッド、椅子、サイドテーブル、その上に色とりどりの花
それからこの穏やかな部屋の雰囲気に削ぐわぬ機械
ピッピッと一定のリズムで刻まれる電子音
機械から伸びる数本の管に繋がれ、ベッドに横たわる女性の姿を見て宗像は軽く息を吐く
病的までに白い肌、少しでも力をいれたら折れてしまいそうな細い腕
相変わらずの彼女の姿を見て、ズキリと胸が痛んだ
「夾架…」
返事は返ってくるはずがない
なぜなら彼女は、2年ほど昏睡状態に陥っている
ーーーーーー
『行ってきます、礼司。すぐ戻るから、その間サボらずお仕事頑張ってね』
その時はまだ、それが最後の言葉になるなんて思ってもみなかった
抜粋された隊員に出動要請がかかり、夾架も副長として、司令官として、現場に向かった
すぐに任務を終わらせ、終わり次第帰投するので、たった数時間離れるだけだと思っていた
だが夾架が無事に宗像の元へと戻ってくる事は無かった
いつも通り、彼女を見送った後も宗像は業務に身を呈していた
すぐに疲れた様子で帰ってくる彼女の為に、少しでも負担を減らしてあげるべく、仕事を進めていた
夾架が帰ってきたら、少し休憩をしようと思っていた時だった
宗像に緊急の連絡が入る
≪宗像室長!!大変です、副長が!!!≫
「なに…!!?」
連絡の相手は、夾架と共に現場に向かった秋山
夾架からではなく、秋山からの連絡というものは中々ないもので、その時点で何かあったのかと身構えていた
だが、任務に私情を挟むのは良くないので心を落ち着け、ひどく焦った様子の秋山を宥めつつも、緊急連絡の内容を聞くと、宗像の表情は一変した
秋山の言葉は疑いたくなるもので、だが、緊急連絡として話しているのだから、決して間違いなどではない
疑う暇などない。宗像は頭の中で現場の状況を浮かべつつ、椅子から立ち上がる
「私もすぐ現場に向かいます」
嫌な予感がした
その後すぐに応援を連れ、現場に向かった
現場は街中
既に一般人の避難は済まされ、ここにいるのはあるビルの周りを囲うセプター4のみ
事件が起きたのは数時間前、表向きは普通の企業。だが裏ではストレインも関与し、大量の薬物や武器などの違法な取引をしているという調べがあがった
ボスもストレインだという噂もある
セプター4がそれを放っておく理由がなく、すぐに手配所が出された
取り押さえにそこまでの人員は必要ないと判断され、数人の隊員が派遣されたが、その判断が後に大変な事件を巻き起こした
秋山からの連絡で確認した今の現状は、セプター4が乗り込んでくると気づいた組織は、街にいた一般人を人質に取り、近づくな、近づいてきたらこいつを殺す。というありきたりな脅しで、一般人を人質に取られてしまった為に流石のセプター4も動けなくなってしまった
そのままれビル内に立てこもられてしまい、全く手が出せず、撤退を余儀無くされたが、撤退はしなかった
撤退はしないと指示したのは、副長である夾架
現場の指揮をとっていたのは夾架で、夾架の指示ならということで、隊員は皆夾架の指示に従った
ビル前で包囲網をはり、様子を見ていたが夾架は1人、ビル内へと歩みを進めた
「九乃副長!どうなさるおつもりで!?」
『人質を解放する』
「ですが…どうやって」
『私が身代わりになるわ。そして、きっちり話をつけてくるから秋山はここで指揮をとっていて』
「余りにも危険です。副長が行くというならば自分も…」
『私の指示を聞きなさい秋山、副長命令よ。ただし無事である証として、信号送り続けるから、もしも私からの信号が途絶えたらその時は緊急事態と思って、早急に室長へ連絡して。いいわね?』
夾架はサーベルを腰のベルトから外す
そのまま秋山に預け、武器を持たない丸腰状態のまま、ビル内へと入っていった
異様なまでに静かなビル
夾架が中に入ってから数分が経過したころ、女の啜り泣く声が聞こえたと思ったら、中から人質にされていた女性が姿を現した
怪我もしていなさそうだったので、無事に保護でき、その時はまだ夾架からの信号は変わらず届いていた
しかし、再び数分が経過したころ、大きな爆発音が聞こえた
おそらくビルの上階で起こったもので、その爆発音を聞いたあと、隊員たちはざわめき始める
夾架は無事なのか?
皆がそう騒ぎ立て、中には自分たちも突入する。と言い出した隊員もいたが、道明寺や日高らが副長命名だ、動くな。と周りを宥めていた
しかし爆発音を境に、夾架からの通信は途絶え、秋山は言われたとおり宗像へと連絡をした。ということだ
「室長!!」
「わかっていますよ」
現場に到着した宗像や淡島の姿をみて、急かすように秋山らは言う
宗像は聳え立つビルを静かに見つめた
その瞳はいつも以上に不安を含めていて、揺らいでいた
一度深く目を閉じ、再び瞳を開けば、その目はとても凛々しく闘志を燃やしていた
「特務隊は突入を準備を。それ以外の隊員はここで待機」
「準備はすでに整っています」
「あらそう」
淡島が宗像の代わりに周りに指示をだせば、秋山をはじめとする特務隊の全員が既に隊列を組んでいた
彼らも、ビル内の夾架を思い静かに闘志を燃やす
「総員突入します。中の人間は一匹たりとも逃さず捉えてください。死なない程度なら何をしても構いません、いいですね。目指すは最上階。くれぐれも慎重に制圧をお願いします」
「「はい!!」」
かくして特務隊はビル内へと突入していった
あくまでも慎重に、ビル内を歩いていたが、入ってすぐは人影なんてものは全くなかった
やけに静かで、何かおかしい。とすぐに気づく
少し辺りを散策しながら奥へと進んでいくと、床に男が数人倒れていた
「これは…」
宗像にならわかる
この男たちが夾架の力によって倒されたのだと
微かに力の余波が残っていて、でも怪我は少なく、ただ気を失っているに等しかった
このフロアも、次のフロアも、完璧に制圧されていて、意識が残っているものはいなかった
部下に後始末を任せて、宗像は最上階へと目指す
最上階への道のりにも男が倒れていて、剣を持たずに入っていった夾架がここまでの事をするなんて思えなかった
しかしやったのが夾架ということには変わりはないので、改めて夾架の力の強さに驚く
果たして夾架は無事なのだろうか
はやる気持ちを抑え宗像は、一秒でも気を抜く事なく最上階のフロアへとたどり着く
少々焦げ臭い気がした
やはり爆発音は確かで、何処かで何がが爆発したのだ
ここのフロアに部屋は1つ
少し先に見える大きな扉
そこから焦げ臭い匂いもするから、爆発したのもその部屋で夾架もそこにいるのは確かなはず
足早に扉の前まで行き、重たい扉を開ける
壁や、床に焦げついたような黒い痕が残っている
まだ熱の余韻と煙が残っているが、火は完全に消えている
だが焦げ付いているのは部屋の半分
扉がある手前のみ焦げ付いていて、奥の机や窓がある方は傷一つないし、窓ガラスも割れていなかった
普通は爆発が起こったのなら、部屋全体が熱せられ、焦げて傷がついたり、ガラスも割れてしまうだろう
部屋の異変に気が付き様子を伺っていると、奥の方に人が2人倒れこんでいるのが見えた
「…夾架?」
はっきりとは見えないが、青い服を身に纏っている女、それからガタイのよい男
宗像はすぐに駆け寄り、その姿を確認する
「夾架、夾架!!しっかりしろ!!」
やはり間違いではなかった
倒れこんでいる片方は夾架で、宗像は夾架を抱き起こし、身体を揺さぶる
返事はない
特に外傷はなさそうで、ただ単に気を失っているのか
脈は正常。呼吸も正常
ひとまず安心して、もう片方の男を見てみると、男はやはりこの組織のボス
両腕にはしっかりと対ストレイン用の手錠が嵌められている
全く状況を理解できない
男も揺さぶっても返事がない
宗像の推測だが、セプター4が目の前まで迫っていると知って、爆発を起こしてそのまま自殺を図ろうとしたのか
そしてそれを夾架の力によって阻止された。という所だろうか
男が気を失うのは理解出来たが、夾架まで同じように倒れていた事は宗像の考えを持っても、理由は思いつかなかった
取り敢えずこの組織の一員は全て取り押さえをした
宗像ら応援が駆けつけた時には、既に任務は終了していた事になる
夾架の手によって、ほとんど犠牲者を出すことなく、綺麗に片がついた
事件はそうして幕を閉じ、夾架はすぐにセプター4の医務室へと運び込まれ、目覚めるのを待つ。ということになった
夾架が起きるかストレインの男が起きるか。あの状況を知る者は2人だけなので、どちらかが目覚め次第すぐに事情聴取をして、現場検証をする
しかし、夾架も男も一行に目を覚まさなかった
色々な検査の末にわかったことは、ボスが意識干渉のストレインであったという事
人を眠らせることができたり、使い方は様々で、夾架もおそらく術にかかった
本来ならすぐに目覚めるはずなのだが、目を覚まさないということは、ずいぶんと強く能力をかけられた。ということだ
能力者である本人も目覚めないのは、自分にもかけたからなのか
それから数ヶ月後に、安定していたはずの男の容体が急変し、そのまま息をひきとった
なにが起こって死んだのかはわからない
ただ、心臓の働きが低下して、そのまま
なにもわからないまま、重要参考人が死亡し、能力も消えたから夾架も目覚めるだろうと思った
しかし未だとして夾架は眠りについたまま
いきなりいなくなってしまった
穏やかな顔して眠り続ける夾架の姿をみて、当時の宗像は絶望した
そしてもし、男のように容態が急変して死んでしまったら
考えただけで吐き気がした