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□ゴールからはじまる
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「ケー番教えてもらってもいいですかぁ?」

「今度どこかに、2人だけで食事行きませんか〜?」

「彼女いるんですかー?」

聞き慣れた台詞だ

彼にとっては、毎日聞く、聞かない日があるわけない、というまでに慣れた言葉だ

ええよ。
おらへんよ。
返事は決まっていた

女なんてちょろい
自分にかかれば落とせない女なんて、世の中にいる訳がない

毎晩家に誰かしら女を連れ込んで、好きなようにして、気に入ったやつとは付き合う
だが大抵すぐに飽きてポイ
飽きる、というよりは目移り

とりあえず女との関係は途絶えることはない
付き合った女の数は数しれず
両手両足の指を使って数えるのが無理になったのなんて、高校生のときだった

いつ女遊びが激しくなった?
って、元よりモテモテで人気が高く、だが火がついたのは高1の頃
校内、いや近隣の学校の中では、ダントツにモテていた

今まで付き合ってきた女の顔なんていちいち覚えていられない
一夜限り、なんてのも少なくなく、基本どうでもよかった

周りからなんて言われようが、そんなこと自分には関係ない
自分から求めなくとも自然と女はよってきて、自分は求められていた

草薙と付き合ったことのある女の共通点は、顔が整っていること
美しく可憐なものにしか興味が湧かない

興味が湧けば、味見したくなる
そして味がよければ、必ずしもおかわりしたくなる

自分にかかれば女を落とすなんて、容易なことこの上ないのだ。が、たった1人、草薙に苦戦を強いださせていた

裏社会の情報屋である九乃夾架、彼女は他の女とは違った

たまたま仕事を通じて出会い、その美しさ故、一瞬で草薙を虜にした

草薙のことだ
すぐにでも自分のものにしたい。そう思い、いつもやってるように口説きにかかったが、効果は無し。いくら口説いても全く靡かない
むしろ逆効果、どんどん彼女は遠ざかっていく一方

何故ここまで自分に靡いてくれない?
そこまでされると意地でも落としたくなるのだ

腐った根性だ。なんて、とうの昔に自覚していた
少しでは靡かない女も多々いた
だがそういう女たちを落としたときの快感は計り知れないもので、これだからやめられないのだと、草薙は口角をあげ、己の薄い唇を舌でペロリと一舐めする

『なにが可笑しいの?』

「なーんにも」

『…ムカつく』

「そりゃどうも」

目の前でいきなり口角を釣り上げ笑う草薙を見て、彼女は眉根を寄せる

今、せっかく草薙の部屋に2人きりだと言うのに、自分のことではなく他のことを考えるなんて許せない
だなんて、彼女が思うわけはなかった

「ああ、でも1つだけ可笑しいこと、あるで」

草薙がそう言えば、彼女は更に眉根を寄せ、しかめっ面で草薙を睨む

『なによ』

「そんな怒った顔せえへんで。可愛い顔が台無しや」

『うるさい』

「あー…こわいこわい。そんな怒らなくてもええやないの。此処にきたのはあんたの意思や。別に無理矢理連れてきた訳やないんやから、帰りたかったら帰ればええやないの」

『…うるさい。美味しいワイン飲ませてくれるって言ったから来ただけよ。そうじゃなかったらこんなとこ、来てないわよ。何度も言ってるけどあんたみたいな男が1番嫌い。あたしを其処らにいくらでもいる低レベルな女と一緒にしないで。あたしはあんたみたいな軽い男には靡かないから』

彼女は半分程グラスに残ったワインを、毒を吐いて汚れた口内を洗い流すかよように一気に飲み込んだ
そして一言、美味しい。と素直な感想を零す
愛してやまないワインに罪はないので、侮辱するのは草薙だけ

口を開けば棘のある言葉しかでないのは、お互い様だった
普段から互いが猫をかぶっているのか、今の2人には全く違和感がなく、素そのものだった

彼女は警戒オーラを全開にして、草薙に近寄るなと言わんばかりだった
とうの草薙は、そんなこと知らないと言わんばかりに彼女が腰掛けるベッドへと近づく

草薙が近づく度に彼女の不機嫌さは増していく

「夾架ちゃんの棘っぽいとこ、嫌いやないで」

『うるさい。いつも言ってるでしょ、あたしは周防みこ…ん!!?』

「男と2人きりのときに、他の男の名前出すなんて反則や」

『っ、最低!!』

周防尊。その名前が出た瞬間に、草薙は見事なまでの素早い手つきで、彼女の手から空のワイングラスを奪いサイドテーブルへと置き、空いた彼女の片腕をつかみ、もう片方の肩を思い切り押した
強い力でいきなり腕を掴まれ肩を押され、彼女の身体はそのままベッドへと沈み、いともたやすく草薙に組み敷かれ、唇を奪われてしまった。

そんなこと一切予想をしていなかった彼女は驚きを隠せず、また、怒りを露わにしていた

今にでも殴り倒してやろうか。そう思うものの、彼女の身体は未だ自由にならず、草薙に組み敷かれたまま

「驚いた顔してはるけど、ここ来た時点でそういう流れになるの当たり前やないの?」

『はあ?それはあんたの勝手な考えでしょ?あたしは違う』

「違う。言うてるけどベッドの上でそんな無防備な格好して酒飲んで、誘ってんのやろ?」

『んなわけないでしょ。あたしはベッドの上で、くつろぎながらお酒飲みたい派なの』

組み敷かれたまま文句をひたすらいい続ける彼女に最早苦笑いをするしかなかった
草薙は空いた手で、彼女の艶のある髪をひと束掬い、髪に口付けながら色っぽい声で囁く

「好きや、本当に」

『あたしは軽い男嫌いよ、本当に』

そんなもの逆効果なのはとっくにわかっていた
だがその言葉が嘘で無いのは確か

これほどまでに拒絶されたのははじめて
そしてそれと同時にこれほどまでに誰かに執着し、愛しいと思ったのはじめて

初めは自分に一切靡かない女を落としてみたいというゲーム感覚だった
しかし、草薙が彼女に惚れてアタックを始めて早半年、今までの草薙なら半年攻めても落ちないのであれば、とっくのとうに諦めている
しかし諦めない所か燃える一方で、極めつけにその半年間は1回も他の女と関係を持っていなかった
彼女がそういった軽い男が大嫌いだとわりと序盤に知れた
であれば、他を絶たないと絶対に彼女は自分のものにはならない
何年も辞められなかった女遊びが嘘のようになくなり、今は滅法彼女に一筋

そんな草薙の思いとは裏腹に、
彼女が行為を寄せていたのは自分の王様、周防尊
彼女の方こそ片思いで、一方的に好いているだけだが、ほんの少しでもいいから、見ていられるだけで幸せ
というように、草薙のように付き合いたい、自分のものにしたい。などといった思いは一切ない

「なあ、なんでそんなに俺のこと嫌いなん?」

『別にあなただけが嫌いなんじゃない。あなたみたいに愛を軽くベラベラ語るどうしようもない男が嫌いなの。そこは勘違いさせてたかしら、ごめんなさいね?』

彼女の頑なな態度に草薙はピンと来た

「あぁ、俺分かったわ。夾架ちゃんが男に対して刺々しい態度とってる理由」

『全ての男に対してじゃないけど』

「はいはい、俺みたいに軽い男、の間違いです。俺の予想、夾架ちゃんの過去の男が原因。でー、そうやな、浮気でもされたんか?」

キスをした時よりも彼女は驚いていた
ベッドと草薙に挟まれる形で身動きがほとんど取れないので、彼女は草薙から視線だけを外し、瞳を不安げに揺らした

出会ってから、いつも凛としていてとても綺麗だが、口を開けば棘のある言葉ばかりを言い、怒ってむすくれてばかりの彼女が、始めて自分の前で瞳を揺らし動揺を見せた

これは図星だ

「なるほどね、付きおうてた彼に浮気されされて信じられなくなったんか。真面目そうな男はともかく、遊び歩いてる男なんか特に。な?」

『……あたし帰る。退いて』

否定も肯定もしなかったという事は、恐らくそういう事なのだろう
今度は目をそらしただけでなく、首ごとそっぽ向いてしまった
そっぽを向く際に、目尻に光るものが見えてしまった

「尚更退きたくなくなったわ」

『そんなに抱きたいなら抱けば?あたしの事抱いてあなたの欲求が満たされたら帰るわ』

「おぉ、じゃあそうさしてもらおかな。お互いの合意があっての事やから、後から文句は言わんといてな」

我ながら最低だと思う
ここは離してあげるべきだし、否定するべきだ
しかし、してもいいと許可は貰った
ずっと望んでいた事が叶えられる
弱みに漬け込むようになるが、このチャンスだけは逃せない
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