short

□口寂しいなら、
2ページ/2ページ


「さあ、言い訳を聞こうか夾架ちゃん」

『猿比古がちゃん付けで呼んでくるとか怖すぎるんだけど。いや、気付いたら3本目だった、それだけだよ』

宣言通り、業務を終えたあとに伏見は夾架の部屋へとやってきた
チェーンを締めようかと思ったが、本当に扉を壊されそうだったので鍵も開けておいた

そして黒い笑みを浮かべながら夾架のベッドへと腰掛けて足を組んだ
夾架は足を組む伏見の目の前でちょこんと地べたに座り、伏見を見上げる形をとっていた

「夾架ちゃん、俺がいつも言ってる事何だっけ?」

『1回の休憩につき1本まで。です』

「ピンポーン」

伏見の問いに間を開けることなく答えれば、とてつもなく棒読みで正解を告げられた
間違えることなく答えられた事が嬉しくて、夾架は思わずガッツポーズをして立ち上がった

『やったー!当たった!!』

「やったーじゃねぇだろ」

調子に乗るな、と伏見は夾架のおでこに軽いチョップをお見舞してやった
項垂れた夾架は、チョップをくらったおでこを抑えながら再び地べたに座り込む

『いたーい…だって最近忙しいから中々休憩取れないんだもん。吸い溜め的な?』

「煙草の吸い溜めが出来ねーくらい分かってんだろ」

『だって吸わないとイライラするんだもん!吸わずにイライラして仕事が手につかなくなって進みが遅くなって怒るのは猿比古でしょ!あたしが煙草吸ってスッキリしてお互い仕事が捗ればwin-winだよ!!』

まるで台本が用意されてるかの様にスラスラと、そして早口言葉で述べる夾架に少し引いた
しかし、win-winという言葉と共に、それぞれの手でチョキを作って人差し指をくっつけてWのマークを見せられると、イラッとした

「1本で足らせろ」

『無理!!あたしの喫煙歴何年だと思ってんの!』

「3年だろ」

『ぶっぶー、6年だもーん』

「違法に吸ってたのを威張んな!吸いすぎだ!」

『今は1日1箱未満だもん!!これくらい普通!』

お互い口速いタイプなので言われた言葉にすぐに返して、またすぐに返ってきたら、すぐに返す
時たま煽るような言葉を混ぜてきたりでこういう時、口喧嘩の仕方が似ているなと伏見はつくづく思う

しかし自分より3つも歳上の女の人と同じレベルで会話するのもどうかと思う
だが彼女に大人な対応を求めても無理だ、そんなタイプではない
あきらめが肝心である

『何でそんなにあたしに煙草辞めさせたいの?辞められる気がしないんだけど!』

「心配だからに決まってるだろ」

伏見は盛大に溜め息を吐き出して呆れた顔で夾架の頭をポンと撫でた

『どの辺が?』

どの辺が、だなんて聞かれるとは思っていなかった
昨日今日煙草を控えろと言い始めた訳ではないので今更だった
夾架の煙草を吸う仕草はとても色っぽく、大人の女そのものだったが、煙草そのものが夾架の身体に害を与えているのであれば、一刻も早く辞めてほしかった

夾架と居ると、最早癖である舌打ちよりも溜め息の方が多く出てしまう

「毎月毎月生理痛が酷くて唸ってんのはどう考えても煙草の影響だろ」

『元々だもん』

「絶対ちげー。せめて生理中は吸うな、いいな?」

『努力はしま……す……』

語尾のすが聞き取れないくらい小さかった
本当に努力する気はあるのだろうか、またしても溜め息が漏れた

「ったく、少しは自分の身体大事にしろよ。子供出来た時に影響でんぞ。そもそも出来にくいっつーしな」

『子供?誰の?』

「はぁ…?チッ……俺と夾架の子に決まってんだろ。それ以外あるわけねーだろ」

『え!!?猿比古子供嫌いだから要らないって思ってた』

ほとんどと言ってもいい程想像すらしたことがなかった伏見の言葉に夾架は驚き、ベッドに腰掛ける伏見の脚の間に身を乗り出して顔を覗き込んできた

「嫌いっつーか、苦手っつーか。でもお前との子供なら可愛いと思うし、悪くねぇなって思ってただけだよ!あーもう、変な事言っちまったじゃねぇか、忘れろ」

『猿比古がそこまで考えてくれてるなんてちょっと意外、でも凄く嬉しいかも』

伏見は照れ隠しをするかのように頭を掻いて、ニコニコと笑っている夾架から視線を逸らした
ニコニコというよりはニヤニヤが正しい
これは絶対に弄られると嫌な予感を感じた

「俺はただ、」

『心配なんだよね?ありがとう、猿比古。猿比古が将来のこと考えてくれてるなんて思ってもみなかった。ほんと嬉しかった。でもまあ、まだ子供はまだ先の話だから今は気持ちだけもらっておきます』

幸い弄られることはなく、そればかりか夾架は伏見のお腹へと顔を埋めて擦り寄った
そんなに嬉しかったのか、と穏やかな気持ちになり、夾架の頭を数回撫でた

すると夾架は何か思いついたのか伏見から離れてニッコリと笑った

『てことで、そろそろ口が寂しいです。1服させていただきます』

伏見から離れて机上に置かれた煙草に手を伸ばそうするが、伏見はそれを許さなかった
腕を掴まれ一瞬のうちにベッドへ縫い付けられていて、気付いた時には唇同士が触れ合っていた
それからすぐに伏見の舌が、唇を強引に押し開き、口内へと侵入してきて舌を絡めとった

夾架も負けじと巧みな舌使いで伏見の舌に絡みついた

『んっ、ん、さる……ひこ……ぁ///』

「ん……夾架……」

時折舌を吸い、何度も何度も角度を変え、息を吸う間もないくらい激しく、ねっとりと互いの舌を求めあった

何分経ったのか分からないくらい長い時間唇を重ね合い、飽きる事は一生ないが何となくで唇を離した

「ほら、これで寂しくねーだろ?」

『口が寂しいならその都度キスしてやるよって?』

「あぁ、何分でもしてやるよ」

『でも仕事中は無理じゃん』

喫煙室でされた時も今も、ちっとも嫌ではなかった、むしろキスは大好きで大歓迎だ
煙草を吸う理由の1つに口寂しさを埋める、というのがあるので、キスで代用出来るならしたいものだ

しかしそれが叶うのは朝晩だけである
日中はセプター4の隊員として働き詰めるのと無理な話だ

せっかくの提案だが、これでは意味が無い

「して欲しいならしてやるよ」

『やだよ、今日のも結局道明寺に見られてて、喫煙室で伏見さんが九乃さんに壁ドン顎クイキッスしてた!!って特務でもう広まってたんだから』

胸の内に閉まっておくということが出来ないのが道明寺なので、道明寺に見られてしまったらもう最後で、退勤するまで散々弄られ、あんな羞恥を二度と味わいたくなかった

「じゃあ仕事中でも口寂しさを埋められるもん、あとで買ってきてやるから楽しみにしとけ」

『言っとくけどガムじゃダメだからね!あとスルメもダメ!』

「おー、任せとけ」

『じゃあもっとキス頂戴、口が寂しいなー』

仕事中でも口寂しさを埋められるものが果たしてあるのだろうか
ちっとも想像がつかなかったが、何か考えがありそうな伏見に任せることにして、夾架は未だ自分を組み敷く伏見の首元に腕を回して引き寄せた

甘い声でキスを強請り、チュッとリップキスを送ると、伏見は口角を釣り上げてそのまま夾架へ噛み付くようなキスをする

夾架の言う口の寂しさを埋めてやるべく、くまなく夾架の口内をかき乱してゆく

この甘美なキスも、喫煙後だとどうも苦くなる
夾架本来の甘さが煙草にかき消されるなんて勿体無いにも程がある

もっともっと、夾架を味わいたい
口付けの邪魔になっているメガネを外してベッドボードへと置いて、更に夾架を深く深く味わった


翌日、情報室で夾架が棒付きキャンディーを咥え、時折唸りながらキーボードを叩いている姿があったとか。
しかし煙草を持って情報室を出たのは、昼休憩の時だけだったとか。
そしてそんな様子を伏見が満足気に眺めていたとか。


口寂しいなら、
キスで寂しさ埋めてやるよ。
あと棒付きキャンディーな?



END.


前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ