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□目が覚めたら大変な事になってました
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寝起きはわりといい
意識が覚醒すれば、すぐに目を開けて行動出来るタイプだ

目を開けると整った顔が視界いっぱいに広がる
いつも強い意志を灯す、澄んだヴァイオレットの瞳は閉ざされていた

視界から脳へと情報が入り、速やかに処理して思考回路へと送られる

(あ、室長って寝るんだ……)

宗像室長の噂というか最早七つじゃ事足りない七不思議等になりつつある案件の中では、一日一時間しか寝ない。というものがあったのでそれが嘘であることが発覚してなんとなく安心した

だが今考えるべき所はそこではない

行きつけの居酒屋が一緒だったのは元より周知していた
ここ数日抱え込んでいた仕事にようやく方がついたので、自分へのご褒美として、宗像も行きつけであるバーへと足を運んだ
カウンターでバーテンダーと他愛のない会話を勤しみながら何杯か楽しんだ頃、ついにドッキングして、一緒に呑む事になった所までははっきり覚えてる

王と二人きりでお酒を呑んで緊張したからなこだろうか、酔いが早かったのも覚えている
だがその後の事が一切思い出せない

そんな事を考えながら声を発したが、自分で出そうと思っていた声量よりも驚く程に小さく、声しか出なくて焦る
喉を開いたことにより、そこで初めて乾燥を実感した

『ん……?…し、つ、ちょ?』

夾架のか細い声を聞き、ヴァイオレットの瞳が開かれる

「…おはようございます夾架。具合は如何ですか?」

『え…?具合…ですか……?ん?夾架?ん、んんん!?え!?えええええ!?』

夾架とは自分のファーストネームである
それをなんの違和感もなく宗像に呼ばれたが、夾架はすぐに違和感を覚えた

どういうことなのだろうか、うつ伏せの体制から体を起こすと、やけ柔らかな掛け布団の感触を肌全体で感じた
それにも違和感を感じて慌てて自分の体に視線を持っていき驚愕した

「お元気そうで何よりです」

『え?夢?え??』

「これは紛れもない現実です」

今の夾架は何も纏っていない生まれたままの姿である

チラリと床へと視線を持っていくと、そこには昨晩身につけていた衣服にブラジャーやショーツ、その横には宗像の物であろう浴衣とパンツが無造作に散らばっていた

そして腰に鈍痛、下半身の方の穴に違和感

所謂、事後の感覚を味わうのは初めてでもない
22歳にもなれば過去に男と付き合い、何度もセックスをしたことがあるひぬき
その時の数倍腰の痛みと気だるさがあるのは単に久しぶりだからだろうか
そして単なる思い込みで、何かの間違いなのではないか、何か違う理由なのではないかと必死に違う理由を探したが、事後以外考えられなかった

残念ながら現在彼氏はいない
必然的に日常の中でセックスをする相手はいない、ということなのだが、事後の感覚を味わっているということは昨晩辺りにでも情事を行ったのだろう
ということはその相手は、今目の前にいる宗像なのか

なんとも現実味のない状況は把握出来たのだが、それに対して言葉が出なかった
ぐわんぐわんと目かけさゆが回るような感覚
この感覚も覚えがある、所謂二日酔いだ

何故こんな状況に陥っているのか経緯が全く分からない
考えてもちっとも分からない
暫く放心状態でいると、布団から出た体が冷えていき、そこでようやくハッとなって、宗像の前に晒した裸体を隠そうと慌てて背を向けた

『あたしなんで裸で室長の部屋にいるの……?え、ほんとどういうこと!?』

とりあえずいつまでも裸でなんていられない、と思い下着を拾い上げて背を向けた状態で身につけた

「昨夜は随分と刺激的な夜でしたね。私の下で懸命に喘ぎ悶え、とても素敵で、正直ゾクリとしましたよ」

『え、えと…その、この状況は、つまり……』

やはり声が掠れてしまう
鼻の調子は頗る良いので風邪ではない
酒やけと思いたかったがどうやら違うようだ

ワンピースも拾い上げ、胸元を隠して宗像の方を恐る恐る向くと怖いくらいの笑みを浮かべていた

「おや、覚えてらっしゃらないのですね」

『あの……』

懸命に昨晩の記憶を辿っては見たものの、どうしても宗像と一緒に呑む事になって、シャンパンで乾杯をした所で記憶は途切れている

宗像は、戸惑い目を泳がせる夾架を見てクスリと悪戯な笑みを浮かべた

「昨晩私たちは酒を飲み交わし、その後性行為に及びました」

『……えええええ!?本当にしたんですか!?』

「ええ、セックスしました」

『えええええ……』

分かっては居たものの、言葉にして言われてしまうとやはり驚きを隠せない
しかしこれでもまだ信じきれない

現状を楽しんでいるのかセックスという言葉をやけに強調して言うが、宗像が言うと数倍いやらしさが増す
宗像に、そういう言葉を発するというイメージが存在しないからである

というのも、七不思議の1つである、宗像室長には性欲というものが存在しない、というものがある
それも嘘であることが発覚した
是非とも真実を広めたいが、自分の首を自分で締める事になるので胸の内にしまっておこう

不意に布が擦れる音が聞こえ、そちらに視線をやると、宗像がサイドボードへと手を伸ばし眼鏡を掴んでかけた

そこでやっと、今まで眼鏡をかけてなかった事に気がついて、頭の中で映像を戻して、滅多に見れないノー眼鏡の宗像の顔を頭の中に叩き込んだ

それから、なんの躊躇いもなくベッドから降りて裸体を晒して床を歩く

『し、室長!ふ、ふふふ、服着てください!!///』

いきなり全裸で歩き回り始め、何をするのかと思いきや、夾架側の床に衣類が散らばっているのでそれを身につける為の様だ

未だ手に持ったままであるワンピースで顔を覆い隠し、バッチリと脳裏に焼き付いた、引き締まり、最早美しいとも言える完璧な宗像の肉体を、頭の中から消しさろうと必死に首を振った

「おや、恥ずかしいのですか?することは済ませましたのに」

『大変申し訳ないのですが、私には覚えがありません…』

今まで生きてきた中で何度かやらかした事もあったが、これはぶっちぎりで1位だ
まさか、泣く子も黙る秩序の番人、青の王様と酔った挙句にヤっちゃった☆
そんで一切覚えてませんてへぺろ!☆
なんて失態にも程がある
穴があったら入りたいなんて表現じゃ足りない、寧ろ今すぐ切腹でもすべきなのではと思う

夾架はワンピースで顔を覆うのを辞め、宗像の裸体を視界に取り込まぬ様にしながらベッド上で正座し深々と頭を下げた
とにかくこういう時は土下座が1番効果的だ
先にやっておけば後々の罪も軽くなるかもしれない

「ほう、土下座ときましたか…中々面白いですが、どうぞ顔を上げてください。まあ私も男なので、好意を持った女性と2人きりで食事が出来て、あわよくば、と思い部屋にお誘いしたら快く引き受けていただけたので、チャンスをものにしてみました」

『え……好意……ですか……?室長、今年度のエイプリルフールはもう終わりましたよ?』

宗像の口から発せられるはずのない言葉が耳に届いてきて、ポカンと口を開けて言葉通り顔をあげた
顔を上げてからしまった、と思ったが既に宗像はパンツを履いていたのでホッとした

「昨日もお伝えした通りです。エイプリルフールがとっくに過ぎているのも存じております」

『え、いや、その、……』

「お返事も頂いたのですが」

『お返事……?』

「ええ、結婚を前提にお付き合いをしましょう。とお伝えしたところ、はい、お願いします。とお返事を頂きましたが」

更に宗像の口から想像の範疇を超える言葉が出てきて、夾架は通常の3倍程早く急速に思考回路を動かして、状況の整理をしようとしたが処理が追いつかず、頭が真っ白になり弾け飛んだ

『何かの間違いですよね…?そうですよね!室長があたしのこと好きとかありえないし!うんうん、そうそう、からかわれてるんですね、そういうのは良くないと思います!
あ。ソロソロヘヤニモドラナイト、シゴトニオクレチャウー』

思考が追いつかなくなって何故かカタコトの棒読みで終いには、HAHAHAと陽気な外国人の愛想笑いのような笑いを浮かべた

ワンピースを被ってから立ち上がり、浴衣を羽織る宗像の真横を通り過ぎて玄関まで行く
そのまま部屋から出ようと思ったが、日の登り様からしてもう他の隊員も起きている時間だと気づく
そんな時間に誰にもバレずに青雲寮を抜け出すことは不可能だ

三和土に、酔って上がり込んだにしては不自然な程に綺麗に揃えられたパンプスを、徐ろに掴んで踵を返した

『オジャマシマシタ』

浴衣の帯までしっかり結んだ宗像の横を再び通り過ぎて窓際まで来ると、ダークブルーのカーテンと窓を勢いよく開けて、その窓軽々と飛び越えて外に出た

パンプスを履き、二度程屈伸をしてから夾架は走り出した
奇妙な物を見る様な視線を背中に感じたが、振り返らずに一心に走った

(なんでなんでなんで!?どういうこと!?意味わかんないし!?
室長があたしのこととかありえないし!!絶対何かの間違い!からかわれてるだけ!
上司との呑みで先に潰れる部下がよっぽど気に食わなかったのね!
あたしが覚えてないのをいいことに〜!!)
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