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□目が覚めたら大変な事になってました
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勤務中ではあるが、今朝の出来事が思考の大多数を締め、仕事の邪魔をしてくる
それを追い払おうと集中してパソコンを叩けば、今度は腰の痛みが邪魔をしてくる

(てかめっちゃ腰痛いどんだけ!!ここの椅子もどっちかって言うと硬いし!女子の柔尻に優しくない!)

「九乃君、忘れ物です」

夾架を悩ませている張本人の声が背後から聞こえて恐る恐る振り返る
宗像の手には端末と、ハンドバッグ

それは紛れもなく自分の物で、宗像の部屋に忘れてきた事も知っている
仕事が終わってからどうにか取りに行こうと思っていた

何故今、情報室で、他の隊員が多く居る前で言うのだ
せめて室長室にでも呼び出してくれれば良かったものの、何故普段は重たげな腰をこうも軽々上げて返しに来るのだ

引き攣りまくった苦笑いを浮かべて、わざとらしい猿芝居を始めた

『あ、アリガトウゴザイマス…。無いと思ってたんですよー…どこで落としたんだろー…。拾って戴いて、室長自ら届けて下さってありがとうございます』

拾って。と言う言葉を敢えて強調して、端末とカバンを受け取って頭を下げた

「いえ、忘れ物を届けるくらいお安い御用ですよ」

拾って。を強調した夾架に対抗する様に宗像は忘れ物。を同じように強調する

その瞬間に情報室内にざわめきが起こる
近くにいる隊員同士が声を潜めて、どういうことだこれ?そういう関係だったのか?と口々にしているのを尻目に見ながら、クスクスと悪い笑みを浮かべながら宗像は去っていく

宗像が去った後、非常にアウェーな空間に取り残されたという事を感じた
これはやばいやつだ、と思い端末をマグカップの横に置き鞄を足元に置いて、仕事を再開しようとパソコンに向かおうとすると、押されたのかというくらい勢いよく日高が傍までやってきた

日高の背後に目を向けると、布施と五島がニヤニヤとしながら腕を組んでいた
その2人に本当に押されて日高はやってきたのだろう

反対側にチラリと目を向けると、そういうことにはあまり口を突っ込まなそうな秋山と加茂までもが、デスクからこちらを伺うような素振りを見せている

ああ、ここは地獄だ

「九乃さん!どういうことっすか!?」

『どういうことでもないです。お、と、し、も、のを室長が拾ってくださっただけです』

「や、でも忘れ物って……」

夾架は死んでも認めないと心に決め
て、どんどん掘り下げようとしてくる日高に向かってバッサリと言い切る

『お、と、し、も、のです。はい、仕事仕事!早く進めないと伏見さんに怒られますよ!怒ると怖いんだから!』

そう言ってパソコンに目を向けようとすると、背後から聞こえた声にぎくっと肩を縮こませる

「誰がなんだって」

『ふっ、伏見さん…、なんでもないですよー……』

暫く席を外していたのでまだ戻らないだろうと思っていたのでなんともタイミングが悪い

あははははー…と誤魔化すように笑い、今度こそパソコンと向き合おうとすると、伏見が思い出したかのように言い出した

「あ、お前今朝庭走ってただろ。ついでに言うと昨日の夜外で室長と歩いてただろ」

伏見の言葉が胸を貫く
ぶわっと毛穴という毛穴が開き脂汗が滲む
ロボットかと思うくらいぎこちない動きで振り返る夾架の顔は明らかに先程よりも引き攣っていた

情報室内のざわつきが更に増す

『なっ、なんのことですか?』

こんな時に上擦った声しか出ない自分が情けない

「どっちも見た」

夾架は俯き、震え混じりに息を長く吐き、吐ききった所で笑みを浮かべて顔を上げた

『…嫌だなぁ伏見さん、私が男子寮の裏庭なんて走るわけないじゃないですか。あと昨日は1人で呑みに行きましたよ。見間違いです。疲れてるんですよきっと!そうですよ、伏見さんは疲れてるんです。あ、これ纏めて経理に提出すればいいんですよね?私やりますので伏見さん他の仕事進めてください。はい、そうしましょ』

マシンガンの如く言葉を発射する夾架に伏見は軽く引いた
怖いくらいの笑みと勢いに圧倒されて、伏見は持っていた書類を渡してしまった

書類を受け取った夾架は漸くパソコンと向き合う事が出来て、もう何も受け付けないと言わんばかりに高速でキーを叩き始めた

「俺、男子寮の裏庭なんて言ってねーけどな…」

『え、何か言いました?』

「別に」

伏見が何かを呟いた気がしたが耳には届いて来なかったので、視線はパソコンに向けたまま聞き返すが、大した用ではないのか教えてくれなかった
それについてはもう気にしないようにした

その後もビジネスワード以外はシャットダウンして必死にパソコンに向き合った

驚くほど仕事が捗り、伏見が抱えていたものを何個か引き継いだ
そのおかげなのか、暫く残業続きだった伏見を定時に上げさせることが出来たので満足だ

退勤時間はとっくに過ぎていたが、部屋に帰ってもモヤモヤするだけだし、やれるうちにやっておいて後々の負担を軽くしたくて、情報室に1人残っていた

秋山が退勤間際に煎れてくれたコーヒーも冷たくなっていた
気遣いからか、少し甘めに煎れてくれたようで若干疲労を訴える身体によく染み渡った
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