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□2.ただの幼馴染みだよなんて言い飽きてる
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あれ以来、猿比古の顔を見ると思い出してしまうのが嫌で、どことなく避けていた

だって、あのときのはなんか生々しかったというか、こっちまで恥ずかしくなるし、胸が痛くなる

自慢じゃないけどキスなんてしたことないし

猿比古は、恥ずかしくもなく平気でああゆう事してるのか

ああもうやだ!

『あー……』

「夾架、何唸ってんだよ」

『ねえ聞いてよ美咲!!』

「んだよいきなり」

ばん!と手元の机を叩けば、美咲は苦笑いしつつちょっとひいてるのがよく分かる

でもな、美咲にこんなこと言ったってな…
DTだしDTだしDTだし?

『…なんでもない』

「変な奴」

『そんなの知ってるわ』

ああ、らしくないな
なんで猿比古なんかの事でこんな悩まなきゃいけないんだ

バカらしくなってきた

早く帰ろう道場行こう

『じゃあね美咲、また明日』

「おう、また明日。夾架今日も稽古?まあ、気をつけて帰れよ」

『うん、わかってるって』

放課後になれば皆それぞれが話し始めたりもするけど、断然あたしは早く帰りたい派
早く帰って剣の稽古をするのが日課
そそくさと教室をあとにして、校舎を出た…

のはいいんだけどね、

「君、九乃夾架さん?」

『多分そーだと思いますけど』

「少し話したいんだけど、いいかな?」


早く帰りたいな
なんて思いつつ了承すれば、校内の中庭のベンチのとこまで連れてこられる

「何飲みたい?」

『イチゴ・オレ、かな…』

「はいよ」

紙パックのイチゴ・オレ
ここのメーカーの美味しいんだよ、すっごい
美咲にマズい気持ち悪くなるって言われるんだけどね


話に聞けば彼は、最近噂のB組の転校生
通りで見たことがあるなと思ったんだよね

大変ルックスもよろしく、性格もよろしいみんなの王子様的な存在。ってこないだ友達が話してた気もする
…あたしは興味ないけどさ

『あたしに何の用かな?』

「ずっと君と話がしたかったんだ。転校してきた初日に君を見てからずっと」

『へぇー…』

なんでまたあたしなんかに
変わってるんだね、王子様は

「九乃さんは、好きな人とかいるの?」

『そういうの、特にない』

「そっか、ならよかった」

王子くんは甘めなフェイスを生かした笑顔でにっこりと微笑んで、よかったなんて口にするけど…
あたしなんかのそんなどうでもいい情報聞いて何になるんだろう

「あ、あのさ…、よかったら番号教えてもらえないかな。もっと九乃さんと仲良くなりたいんだ」

『別にいいよ』

飲み物奢って貰っちゃったし、別に悪い人には見えないしね

ポケットから端末を取り出して、王子くんの端末に情報を転送した

「ありがとう、後で連絡するね」

『いえいえ、待ってます』

「時間とらせちゃってごめんね、急いでたでしょ。今度忙しくないときお詫びするから」

『別にいいのに』

「いーからいーから!!」

なんか変わった子
でも、根が優しい感じが話しててわかる
なんとなく彼がモテる理由、わからなくもないかも

『それじゃ、あたし帰るね。ジュースご馳走様』

飲み干した紙パックのゴミをゴミ箱に投げたら、ナイスシュート、綺麗な放物線を描き吸い込まれるように入った

鞄を肩にかけて、忘れ物してないか確認して、王子くんに別れをつげて、門の方へ歩き出す

「ちょっと待って!!」

『ん?』

「もう1つだけ…聞いてもいいかな…?」

『いいけど?』

背後から再び声を掛けられて足を止めざるを得ない
もう1つ聞きたいこと、穏便な質問ならいいんだけどね

「あのさ、よく九乃さんと一緒にいる伏見…猿比古くんだっけ?」

『猿比古がどうしたの?』

「伏見くんとは、どういう関係なの?」

猿比古との関係…
そんなの決まってるわ

『猿比古とは、ただの幼馴染みだよ。あいつ今は彼女に夢中だから、最近話してないの』

ただの幼馴染み
それ以上でもそれ以下でもなんでもない

「じゃあ、八田美咲くんとは?」

『美咲は友達、バカだけど優しくて友達思いのいい奴』

美咲は美咲って呼ばれるの嫌いなんだよね
でも八田ってあたしに呼ばれるのは、何か違和感があるとかないとか…
女の子が苦手なのに、あたしとは何故かつるめて、もしかしてあたしの事女って思ってない!?
それは心外だな美咲ちゃん

「…そっか、ごめんね引き留めちゃってさ」

『大丈夫、気にしてないから。じゃあ今度こそまたね』

軽く手を振りながら挨拶すれば、王子くんも笑顔で手を振り返してくれた

さあ、早く帰って剣の稽古だ


昔から、男子にも女子にも猿比古との関係をよく聞かれたもんだ
そのたびにただの幼馴染みだって言ってきて、何回言った事あるんだろう

今更だけど、あたしと猿比古って幼馴染みなんだね
なんか、そんな気しないな…
 

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