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□3.いまさら嫌いになんてなれるわけがない
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[夾架ちゃん、剣道の大会優勝したんだって?おめでと!!]

[そうなんです!ありがとう!!]

端末の画面には王子くんからのメール
そうなんです、先日大会で優勝したんです
まあ、相手もあんまり強くなかったから、楽だったな

最近こうして、王子くんとのメールのやりとりをしてる
電話も少々かな

結構話してて面白いし、盛り上がるし、すごく楽しい

でもなんかこう、胸の奥で何かがひっかかるというか、チクチクする


「夾架ちゃん、よかったら今日一緒に帰らない?」

放課後、皆が解散してあたしも帰ろうと思った時だった
王子くんが突然あたしの教室を訪れた

キャー!!//
王子くんが教室に来た途端にあがる女子の黄色い声

そんなのお構いなしに王子くんは私のところまでてくてくと歩いてきて

「美味しいケーキのお店を見つけたんだけど、よかったらご馳走するよ。…あ、稽古で忙しいかな?」

嬉しそうに話し出すや、捨てられた子犬のようにシュンとうなだれたり、表現豊かな人だなと改めて思う

わざわざ誘ってくれるなんて思ってもなかった
なんか凄い嬉しいかも
幸い今日の稽古は夜だから、返事はもちろんOK

『大丈夫、今日は夜からだからそれまで暇なの。連れてってくれると嬉しいな』

「やったー!!じゃ行こっか」

『うん。猿比古、美咲、また明日ね、あんま夜遊びしないように!』

「おう、わかってるって」

「チッ…じゃあな」

最近猿比古はどちらかというと彼女より美咲って感じ
よく2人でたむろしたりゲーセン行ったりしてるって

あんまり危ない真似はしないでほしいけど、2人はケンカ強いし大丈夫ね


落ち着いた感じのカフェでとびきり美味しいミルクレープと、いい香りのミルクティーをいただきました

カフェがすっごいお洒落な感じで、王子くんはこういうの似合うけど、あたしみたいな女で大丈夫だったかな

「あのさ夾架ちゃんに話があるんだ」

『なに…?』

帰りに寄った公園のベンチに腰を下ろし、王子くんは静かな声で話し出す

「俺さ、夾架ちゃんが好きみたい…」

『え…?///』

「初めて見たときから可愛くて、話してみると凄い面白くて、楽しくて、夾架ちゃんは他の女の子とは違う感じがして、何かいいなって思った」

『か、か、可愛くない…です//』

しまった、何故ここでどもるんだあたし!
でもあたしみたいにがさつな女、彼には釣り合わない

『あたし、ケンカとかで男の子負かしちゃうような、がさつな女だよ?』

「俺は強い女の子、好きだな」

『…はあ//』

やばい恥ずかしい
顔に熱が籠もるのが嫌でもわかる

こんなこと、初めて言われたかもしれない
可愛い、とは言われた事あるけど、あたしがケンカ強いって聞いたらみんなひいてた

「よかったら、俺と付き合ってください!!…返事はいつでもいいから」

『う、わ、わかった…//考えときます//そ、それじゃまた!』

恥ずかしくて顔から火が出そう
半ば逃げ出すようにして、あたしは走って公園から出て、まっすぐに帰宅して、恥ずかしさを忘れるためにひたすら座禅を組んだりした


「俺別れた」

あれ、なんかすっごいデジャヴ感じるかも

『…は?』

「だから別れたっつってんだろ、いつからんなに耳遠くなったんだよ」

『…はあ』

前も夜いきなり電話してきて、いきなり告げてきたっけ
最近は猿比古の恋愛事情も安定してきたと思ってたのにな

『…なんでまたいきなり?』

「ん、ああ、だるくなった」

『あっそう…』

電話ごしなのにだるさ全開なのが目に見えてる
絶対布団でゴロゴロしてるし

「今日、夾架んとこきた男って彼氏?」

『違う…けど、告白された…』

「で、なんて言った?」

『まだ返事してない…』

あたしが猿比古に恋愛の話をするのは初めてかもしれない

…猿比古は、なんて言ってくれるのかな

密かに期待してるあたしがいる

「…ふーん.早く返事すればいいだろ。相手は王子様だろ?夾架ああゆう人好きそうじゃん」

『…っ』

暫しの沈黙の後に返ってきた言葉がこれだ
なんで、胸が痛い、泣けてきた
猿比古、止めてくんないんだ

「夾架みたいなケンカ強いがさつな女でも、王子と付き合ったらちったあ丸くなるんじゃねえの?いいじゃん、優しいんだろ?もったいないし、付き合っちゃえよしかし、お前みたいのに告ってくるやついるんだな、変わってる…」

『……バカ、猿比古のバカ!!だいっきらい!!!!』

一方的に怒鳴りつけて、電話を切って、虚しさがあたしを包んだ

『ひっく…うぇ…っ…なんなのよ…』

“がさつ”
自分でもわかってたのに、猿比古に言われると、凄いグサリと刺さる
やっぱ、そう思ってたんだ

なんで、あたし泣いてんだよ

猿比古なんて好きじゃない、好きじゃないのに
別れたって聞いて少し期待してたし
ほんとは付き合うなって止めて欲しかった

なのにあたしが欲しがってた言葉は、きっと一生猿比古の口から出される事はない

「嫌い…嫌い…」

ぎゅっと端末を握りしめて、また電話かかってこないかな
また無意識に期待してる

「大嫌い……大好き……」

やっぱり、好きなのかな
でももうだめだね
失恋、てやつなのかな

それでも、今更嫌いになんてなれるはずないよ
今までずっと一緒にいたんだもん

「猿比古……」

きっとあたしと付き合ったって、どうせすぐに飽きて捨てられるんだ
 

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