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□6.約束なんて忘れてくれた方がいいんだよ
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あのまま何事もなく、呆気なく卒業をして、周りが泣いている中あたしは泣けなくて、最後に交わした言葉は

『今までありがとう、またどこかで会えたらいいね』

「ああ、必ず会おうな!暇ん時声かけろよ!」

「家近いからいつでも会えるだろ、じゃあな」

なんて言ったけど、丸1年経って、全く会うことも、連絡を取り合うこともなくなった

たまに町で見かける事もあるけど、あたしには無縁の世界だから、声をかけることなく通り過ぎる


無縁の世界、なはずだったんだけどね…
少し前にあたしは高校を中退した
中退って言い方はあんまり好まないんだけど

ある日町でストレインが暴れてて、たまたま通りかかってぶっ飛ばしちゃったら、その数分後にやってきた、東京法務局戸籍課第四分室、通称《セプター4》からあたしの武道の経歴を知り、直々にスカウトされてしまいまして、そのままなんやかんやあって高校辞めて雇われて

室長の宗像礼司さんは《青の王》あたしもそのクランズマンで
年のわりにはいい感じの地位を貰ってて、副長の淡路世理さんの次に偉いくらいのところかな

昔からやっていた剣道柔道空手、武道のセンスを買われてそれを活かせる仕事で、それなりに給料貰えて、時に危険な任務もあるけれど、室長は強いから大丈夫


猿比古のいる世界は《赤》
あたしのいる世界は《青》
お互い敵対している為に、もう恋愛感情なんてもってはいけないんだ

…でも、昔からずっと頭の片隅にあった、猿比古との約束がどうしても忘れられなくて
“大きくなったら結婚しよう”
まだ4か5歳だった時くらいで、その時は純粋無垢だった猿比古の一時の気の迷いというか、所詮子供の時のノリ

それでもあたしは、今でも覚えてるんだよ

猿比古は覚えてない、よね…
例え覚えてたとしても、そんな約束の有効期限なんてとっくに切れてるよね

このことはもう忘れよう


この前、ストレインが起こした暴動事件を解決すべく、現地に赴いたところに、通りがかりの《吠舞羅》と丁度居合わせた

その時に2人もいて、あたしを見るなり驚いた顔をしてた

漸く対等な立場に登りつめたんだ
ずっと追いつきたかった
いや、今は追い越してしまったかもしれない

「夾架、何で《青》に…?」

『久しぶりね美咲。なんでって?まあ色々ありまして』

「…………」

『猿比古、黙ったままなのね』

「チッ……」

『驚いたでしょ、丸1年会ってなかったもんね。あ、似合う?この制服。特注なんだよ』

「チッ……お前に青は似合わねえよ…」

猿比古ったら、相変わらず舌打ちばっかなんだから
例え敵同士だとしても、会えて嬉しかった

意外と気に入ってるんだ、この制服
青色は似合わないって言われたけど、元々好きだったし
世理さんみたいなボンキュッボンじゃないけど、本当に似合わないかもしれないけど、好きなんだ
猿比古に見せびらかしてみても、ジト目で見られてすぐ逸らされた

暴動を起こしたストレインも拘束し、吠舞羅と敵対し戦い始める前にその時はさっさと退却した

それ以来、よく会うようになった

忘れたいはずなのに、会えて嬉しかったなんて、あたしもまだまだだね


「…さん…夾架さん…」

『し、室長!?』

「どうかなさいましたか?」

『す、すみません!』

今は報告の途中だったんだ
あたしのどうでもいい私情にうつつを抜かしてる暇なんてないんだ
報告終わったら違う仕事をして、それからそれから…
とりあえず忙しいんだ

報告の続きをしなくては

『とりあえず以上です。室長、この件については後日改めて意見をいただく事になると思います』

「堅いですよ夾架」

『で、ですが室長!今は勤務中でして…私情を挟むわけには…』

「2人きりの時は、礼司と読んでくださるはずでは?」

『ごめん、なさい…礼司さん…//』

礼司さんは優しくあたしを抱き寄せて、静かにその唇をあたしの唇に重ねる


今はあたしを必要として、本気で愛してくれる人がいるんだ
あたしも、この人を必要としてる

もう、忘れよう
さようなら、昔の自分

期待したって、無駄なだけ
 

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