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□9.好きだよと言っても冗談にしかならない
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目が覚めたのは一昨日、事件から既に4日たっていた
真っ白なベッドの上で身体はたくさんの管と機械で繋がれ、酸素マスクもつけられていた

4日間も昏睡状態だったみたい

礼司さんにめちゃくちゃ怒られて、世理さんにめちゃくちゃ謝られた

いやー、参った参った
入院なんて退屈なだけだし


事件から1週間たった今日、とりあえず仕事に復帰
傷は塞がってないけど、稽古なしで執務だけならなんとかいけると思う。たぶん!
医者にはとっても止められたけど!

本当は完治してからって礼司さんに言われたけど、これ以上周囲に迷惑はかけられないから

新品の制服に身を包んでいざ出勤‼


コンコン。

「失礼しま‥……した」

あっれー!?おかしいな…
ここ室長室だよね?プレートあってるよね?
で、でも、いるはずのない人がいた気がしたんだけど、気のせいかな

「夾架、どうかしましたか?」

「い、いえ、失礼します…」

余りの驚きに思わず閉めてしまった扉の向こう側から、礼司さんがあたしを呼んだ
恐る恐る再び重たい扉を開け、向き直って閉め、一礼して顔をあげた瞬間、ドクン!!大きく心臓が跳ねた

"なんで"
言いたい事は山ほどあった
でも今は仕事中、出かかった言葉を必死に飲み込み、業務的な事を紡ぐ

『今日より仕事に復帰させていただきます。私の不注意により、業務に支障をきたしてしまい、申し訳ありませんでした。おかげさまで、すっかりよくなりましたので、今まで以上に働かせていただきます』

「そんなところにいないで、どうぞこちらへ。ふむ…まだ顔色が悪いですね。やはりもう少し休んでいた方が…」

『いえ、大丈夫です。室長は杞憂しすぎですよ』

室長に言われた通り、室長がいるデスクの前まで歩き、再び頭を下げた

「そうですか…。ですが、具合が悪いと判断された場合には、帰っていただきます」

『はい。それは充分承知しています』

頭をあげるよう言われ、あげた先にはやはり…

少しデザインは違うものの、似たような制服に身を包み、室長の横で微動だにせず直立する男は…

あたしの幼馴染みにそっくりだった

「紹介が遅れました。彼は5日前に新たに配属された、情報課の伏見猿比古くんです」

「情報課の伏見です。よろしくお願いします、九乃さん」

"よろしくお願いします、九乃さん"
なにその言葉遣い、気色悪い
背筋にぞわっと悪寒を感じる

なんで、なんで、なんで?
猿比古は赤のクランズマンで、吠舞羅の一員で、ずっと美咲と一緒にいて、仲良かったのに…
まさか赤を裏切り、青に?

…なんで

「聞く所によるとお二方は、幼馴染みらしいですね。いろいろ教えてあげてくださいね」

『は、はい…』

"幼馴染み"
確かにそうなんだけど、今はもう他人
そうとすらあたしは思ってる
なのにどうして、胸が苦しいの?

「では、業務に戻っていただいて結構です。夾架、後で頼みたい仕事があるので、またこちらにきてください」

『はい、では失礼いたします』

「失礼します…」

下がれ、との命で、深々と頭を下げてから猿比古と共に室長室からでる

バタン、扉を閉めた瞬間に身体から力が抜けた
溜めていた目一杯の息を吐き出して、猿比古を見た
あたしの視線に気づいた猿比古も、ジッとあたしを見つめ始めた

猿比古と久しぶりに目を合わせ、その視線に囚われてしまい、息をすることすら忘れてしまいそうな胸の苦しさが再び襲ってきた

『猿…比古、なんで…?』

「………」

『何か言ってよ…』

「……………」

『ねえ、猿比古ってば!!』

なんで何も言わないの
それ以降、ずっと重く苦しい沈黙が続き、あたしもこれ以上何を言っていいかわからなかった

その沈黙を打破したのは猿比古だった

いきなり腕を掴まれ引っ張られ、どこかの部屋に放り込まれた

部屋に入った瞬間に、突き飛ばされて床に身体が投げ出される

『いっ…なにすんのさ…』

打った背中より、何より肩と胸、わき腹の傷が痛んだ
あー、傷口開いたかもしんないじやわないか
傷は深くて大きいから、塞がりにくいらしいんだって

『やっ、ちょ!!なにすんのっ///』

「人がきたらめんどくさい、少し静かにしてろ」

いや、馬乗りにされて、服を脱がそうとしてきてるのに、黙れはないって
でも動くと痛い、抵抗できない

上着をはだけさせられ、シャツをめくられて、包帯をみるなり、患部を…

『っあああ!!』

いきなり押す

『な、に…すんのよ…』

包帯に血が滲み、痛みにのたうちまわるしかできなかった
一体何がしたいの、怪我人ちょっとは労われ

『なんで、こんなこと…んんっ!?』

「……んっ………」

な、な、な、き、キス!?
しかも舌まで滑り込んできた

猿比古が逃げるあたしの舌を、逃がさないと言わんばかりに絡め取り、歯列をなぞったり舌に吸い付いてくる

慣れてないわけじゃないんだけど、なんでキスするの?

離されたと思いきや、再び唇を重ねてくる
今度は軽い、リップキスだ

「お前は昔から、無茶しすぎなんだよ…。今回の怪我だって…」

『心配、してくれたんだ…』

「青の王がもっと早く動いてたら、お前が傷つくことはなかったんだ」

『やめて、礼司さんは悪くない…』

あたしが自分勝手に動いた結果
あたしがかばわなくたって、世理さんは避けれたかもしれない
悪いのは、あたし

「あの雨の日も、お前が本当に大事なら送るなりするだろ」

『礼司さんは王だよ?あたしの数倍忙しいの。あたし1人になんてかまってらんないわ』

やっぱりあの時、猿比古が送ってくれたんだ
今まで確証はなかったけど、やっとわかった

「俺は……夾架が好きだ…」

『…え?』

「俺がお前を守りたい…、俺だったら、お前にこんな怪我させない。好きだ…夾架…」


この言葉をどれだけ待ち望んだだろう
ずっと、君の口から紡がれる事のない言葉、そう思ってた

こんなあっさり言われてしまっていいの?

でも今更、信じられないよ
あたしをからかっているだけなんでしょ?
 

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