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□5.だってまだ届かねえから、
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もう着く

そうメッセージを送ると、

すぐ行くから下で待ってて

と返信が返ってきた

言われた通りアパートの階段下で夾架が出てくるのを待つ

数十秒後、上で扉が開きガチャと鍵がかかる音がした
それからコンコンコンコンと、規則正しい音が聞こえ、それが近づいてきた
夾架が部屋から出てきて、廊下を歩き、階段を歩く音

八田はその音を聞いて、背もたれ代わりにしていた階段に向き直る

『おまたせー』

「大して待ってねーよ」

『ありがと』

階段を降りきって八田と正対し、夾架は微笑んだ

八田は夾架の顔を見てから、本日の服装がどんなものかを一通り上半身から下半身へと見ていき、靴を見てぎょっとした

「おめーはまたそんなヒールの高い靴履いて……」

『7cmのヒールなんて普通だよ。全然歩きやすいし』

「いや、充分高いだろ。ぜってー転ぶなよ?助けねえからな」

『転ばないよ。でも、転んだら助けてね』

7cmのヒールだと言うストラップパンプスをを見て八田はため息をつく

アパート前で立ち話をしていてもあれなので、2人はバーHOMRAへと向かい歩き出す
歩き出しても話題は変わらなかった

「背高い女がそういうヒール履くのって躊躇うもんじゃねーの?それじゃ十束さんとかより高くね?」

『十束さん172って言ってた。あたし167で10cmヒールだとだいたい+6cmくらいだから173…あ、あたしの方が大っきいかも!吠舞羅のメンバーみんな背高いからあんまり気になんないかも』

「悪かったな、俺だけ小さくてよ」

絶対追い越すと誓ってから数年
一緒に吠舞羅に入り、今年で18歳になった
いちご牛乳のかいもあってか、八田は10cm以上背を伸ばして167cmまで伸びた
夾架は成長がとまり、2cmだけ伸びて167cm
数字だけ見れば同じ身長の2人(伏見曰く八田は166.9cm)だが、好んでビールを履く夾架の方が、並ぶとどうしても高くなってしまう

それが堪らなく悔しくて、あともう少しだの言うのに、ヒールを履かれてしまうと更に遠くなる

『頭下げてもぺったんこの靴履いてあげないからね?』

「下げねーよ!好きに履けばいいだろ!」

『じゃあ八田が背伸びたら、あたしはちょっとずつヒール高くしてこうかな』

「クソ猿みたいな事言ってんなよな」

だってその猿くんの入れ知恵だもん。と心の中で呟いた
吠舞羅に入ってすぐはヒールのある靴をそんなに履かなかったのだが、
八田の背が伸びてきた頃に2人でその話になり、追いつかれるかもと言ったら、じゃあヒールを履いて突き放して虐めてやれ。と言われた
だからちょっとした遊び心なのだ

『猿くん元気かなー』

「俺ら裏切って青服に行ったやつのことなんか気にしてんじゃねーよ」

『猿くんの話先に持ち出したの八田でしょ。またいつか3人でつるんで馬鹿やりたいね』

身長の話や、牛乳が込めない事や、散々伏見にからかわれてきたが、そうやって3人でわいわいやるのは悪くなかった
口ではいつも文句を言っているが、寂しがっているのは夾架も分かっていた

そんな話をしているとバーHOMRAへと到着した

いつも八田のちーっすの掛け声の後に挨拶をして入っていく事が多いので、先に八田が玄関前の階段を1段上がり、もう1段上がってバーに入っていくのかと思いきや、クルリと向き直りまだ階段を上がっていない夾架を見下ろした

『入らないの?んっ、』

バーを目前にして入らない八田を見て首を傾げると、唇に柔らかいものがぶつかる感触がした

『もう、また階段の上からキスする。ほんと八田はコレが好きだよね』

「だってまだ届かねえから、嫌なら悪かったな」

『別に嫌じゃないけど、階段登らなくても届くでしょー』

「ちげーよ、お前との約束にだよ。俺がぜってー抜かすって約束しただろ。俺が抜かした時、上からキスする練習なんだよ」

いつからか八田は上からキスをするのが多くなっていた
その事を話題に出したことも、咎めたこともなかったが、久方ぶりに身長の話になっていたので聞いてみた
八田は照れた様子で視線を泳がせて、いつか来るかもしれない未来の練習だと答えた

中学生の時にした約束を18歳になった今でも覚えててくれたのが単純に嬉しかった
こういう時、当時の夾架だったらきっと、可愛い。と頭を撫でただろう

『八田、かっこいい……//追い抜いてくれるの、あたし待ってるね///』

「おう、もーちっと待ってろな?」

自分が隣にいるせいで余計にコンプレックスとなっているだろうが、それを微塵に感じさせない男前な八田が、いつの間にか格好いいと思える様になっていた

八田はもう一度、階段の上段から夾架の唇にキスを落とし、何事もなかったかのようにちーっすと元気な声を響かせバーへと入っていく

『あー、もう、ほんと狡い……』


背の低かった彼は、順調に背を伸ばして、いつの間にか追いついてきた
抜かれてしまっては面白くないのでヒールを履いて再び差を広げたが、
きっとまたすぐに抜かれてしまうかもしれない
それがとても楽しみで仕方なかった


end.
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