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『草薙さんの家に…ですか?』

「せや。着替えもあるし、風呂もあるし、ベッドもあるで。ここより断然マシやろ。十束んちに泊まらせるんでも良かったんやけど、あいつ今日はもっと遅くまでバイトやから」

『私なんかがお邪魔しちゃっても、いいんでしょうか…?』

「ええよ。一人増えたところでなんも変わらへんし。男の一人暮らしに女の子なんて、嬉しいもんや」

『……すみません、お世話になります』

夾架が目覚めたのは日が沈みかけていた頃
ぐっすりと眠っていたので、草薙は起こさない方がいいと判断し、毛布をかけてやりそっとしておく事にしておいたのだ

十束はバーの閉店時間よりも遅くまでバイトのようで、ずっと夾架の傍についていたかったのだが、収入の為にも今後の為にも休むわけにいかず、草薙に背を押されて渋々バイトへと向かって行った

昨日は仕方なくバーのソファーで寝てもらったが、いつまでもソファーで寝せるのも可哀想だと思って自宅に招くことにした

「その代わりと言っちゃなんやけど…ちょっとだけ、店手伝ってもってもええか?」

『もちろんです。私に出来ることならなんでもします』

「すまんな、助かるわ」

ーーーーー


「ありがとうございました。またいらしてください」

営業時間の終わりを迎え、本日最後の客を深々と頭を下げて見送った
今日も稼いだ、と草薙は嬉しそうに売り上げを数え始めた

「夾架ちゃん、手伝ってくれてありがとな。えらい助かったわ」

『いえ、大したことはしてないですから』

掌や手首に怪我をしてるためゴム手袋を着け、グラスや皿をひたすら洗った
それから、客が返ったあとのテーブルを綺麗にする。などという雑務を主にしていたのだ

ここでバイトは雇ってないので、十束のバイトのない日に手伝ってもらい、それ以外は草薙が自力でなんとか店の切り盛りをしていた
周防には端から手伝いを頼んだことがない

今日は平日のわりには来店数がかなり多かった
1人客だけでなくグループでの来店もあったので、夾架が手伝ってくれて、本当によかったと思う

自分から頼んだものの、やはり怪我をしている女の子に手伝わせるのも悪いかと思い、やっぱり大丈夫だと言うも夾架がやらせてくれと言い張るので任せたのだ

「夾架ちゃん、ほんまに覚え早いな。器用なとこ、十束によう似とるな」

『多々良さんも器用なんだ…。そういえば、草薙さんと尊さんと多々良さんって、元はどういう関係だったんですか?』

「俺と尊は高校一緒でな、そん時知り合ったんや。十束は、猛獣って恐れられた尊に付き纏う中学生でな。王になる前からキングキング言うてて、変わった奴やったな。それから尊はほんまに王様になってまうし…。そんですぐに俺ら2人が最初のクランズマンになって、夾架ちゃんが3人めのクランズマンなんや」

『へぇ…そんな感じだったんですね…』

閉店後の店内で2人きり。となり、手を動かしながらも、同じくらいに口を動かした
夾架の口数も次第に増えていった

開店直後、やはり緊張していたのか身体もずっと強張っていた
やはり一目につけないほうがよかったのかと思ったが、時間が経つにつれて、客と2.3言葉を交わしたりもしていた
ずっと施設にいたので、当たり前だがバイトもした事がないだろう
研究員以外と話をする機会もそうなかったと言っていたので、貴重な体験となっただろう

閉店作業を終え、草薙は磨かれてピカピカになったグラスをしまい、同じくピカピカになった店内を見つめ草薙は唖然とした

喋りながらもグラスに視線を向けて作業をしていたので、いつのまにか店内が綺麗になっていて、夾架は有能すぎると気付いてしまった
元々綺麗だった店内がより一層綺麗になり、とても清々しかった

『他にやることはありますか?』

「いや、もう完璧や。ほな帰ろか」

夾架の働きっぷりは100点満点だった
ありがとうな、とお礼を言えば、夾架はほんのり顔を赤くしてぺこりと頭を下げた
ありがとうと言われた事も余りなかったんだろうな、と草薙はなんとも言えない気持ちになった

それから消灯、施錠をしっかり確認し、夾架を連れてバーを出た

「歩けるんか?」

『はい。痛みはひいてきました』

脚の怪我の具合を問われると、夾架は足首をぐるぐると回して大丈夫な事を草薙にアピールして見せた

しかし顔を隠すように下を向いて歩いていた
どうやら具合が悪いわけではなさそうだ
夾架を探し回っている青服たちが近くにいるかもしれないと、警戒をしているのだとすぐに気付く

施設に戻るのがよっぽど嫌なのだろう
話を聞かせてくれたので、夾架の気持ちはとても分かる
草薙としても、夾架を施設に返すわけにはいかない

何も言わずに草薙は、夾架の肩を抱き寄せた
草薙の気遣いにすぐに気付き、それに応えるかのように夾架は、草薙の腰元の服を掴む

こうしていればカップルにも見えて、夾架にヘタに視線はいかない
不謹慎ではあるが、離れるのがもったいなかった
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