long

□13
1ページ/4ページ

「おー、帰ってたんか、おかえり」

『うん、ただいま出雲さん。2階の掃除してたの?』

「そやで、王様はろくに掃除なんかせんからな。いない隙狙わんと、機嫌損ねるからやっかいやわぁ」

『ははっ、尊は相変わらずだよね。おつかれさま!』

草薙が2階から降りてきた事ひ気がつくと、夾架はニッコリと微笑んだ
少々疲れた様子の草薙だったので、すぐに掃除をしてきたのだと勘づく

夾架が思った通り、草薙は疲れていた
しかしお疲れ様、と微笑みながら労いの言葉をかけてもらえただけで、疲れがどこかへいってしまった気がした

朝の10時頃、出かけた2人が帰ってきたのは夕方の4時
遅くなると、鎮目町付近は特に治安が乱れ始めるので、吠舞羅を敵対視する輩にデートの邪魔をされてしまう、実際にされたことがあったので、早々とバーへと帰ってきた
それだけではなく、草薙の手伝いもしたかった

草薙は休む気配を全く見せずに、2階から降りてきてカウンター内へと歩みを進めた
そんな草薙を見て、夾架は苦笑い

『出雲さんちょっと休んだら?根詰めて働きすぎると倒れちゃうよ?』

「そーいわれてもな、まだやる事ぎょうさんあんねん」

夾架に休暇を促されても、草薙は自らも苦笑いしながらやんわりと断りを入れた
開店まであと1時間もない
誰かさんのせいで掃除に時間をかけすぎてしまったので、大急ぎで開店準備をしなければならないと、此処にいない人物に頭の中で睨みをきかせた

『グラス洗って磨いて、店内の掃除でしょ?それくらいあたしやるよ』

「そいつどーすんのや、えらい気持ちよさそーに寝とるけど起こすんか?」

『んー……、そーっとポイかな』

草薙が言うそいつ、というのは、夾架の膝の上に頭を乗せて眠る十束のこと
このカップルは本当に膝枕が好きみたいだ
気持ちよさそうに寝ているが、ポイをすると言われてしまったので、どうしようかと思ってしまう
それよりも、羨ましいという感情の方が先に出てきているのだが

いつも自分の事を心配してくれて、よく働いてくれる夾架の好意に甘えて、お願いをするのもアリだとは思う
だが夾架の方こそ無理をしているのではないか、無理をさせたらまた具合いを悪くしてしまうんじゃ、とかなんとか思ったり

そんな草薙の心情を悟った夾架は、再びニッコリと微笑み、自分が座るソファーの隣のスペースを、ぺちぺちと叩き、座れと促した

『あたしは元気だよ?だから、出雲さんも甘えて!ね、ほら、休憩しよ!』

「せやな、たまには甘えさして貰うわ。ただ、夾架も遊び疲れてるだろうから、少し休憩して、そしたら一緒にやろか」

『りょーかい、ありがと出雲さん』

「こちらこそありがとうな」

促されるまま、草薙はカウンターから出てきて、夾架の横に腰掛けた

カウンターから出てきて、ソファーに座るまでの草薙の一連の動作を、夾架は大きな瞳でじっと見つめていた

視線に気づいた草薙
首を傾げて夾架を見た

「どないしたん、可愛い子にそないにじっと見つめられると流石に照れるわ。俺のことずっと見てても、面白いもんなんてないやろ?」

『んー?何でもないよ、草薙さん見てると楽しいし飽きないし』

「あのなー……」

『えへへ……』

夾架が先程のニッコリとした笑みとはまた違う、ふんわりとした笑みを向ければ、草薙はあれこれ考えるのが馬鹿らしくなった
十束のアホで抜けた感じが、とうとう夾架に移ってしまったのかもしれない

夾架の膝の上で眠る十束を見て、遊んで帰ってきて寝るとか子供か…と思うが、それも十束らしいかと草薙はふっと笑ってしまった

「そういや、映画見に行ったんやろ?」

『うん、そうだよ』

寝ている十束はいないことにして、こうして2人きりで話をするのは久しぶりな気がした
夾架がここに来て間もない時にはよく2人で話をしていたが、メンバーが増え活発になったので、いつも誰かを交えての会話だったり、そもそも夾架の近くには十束がいたから、少なくても3人での会話だった

「何観てきたん」

『ほら、こないだ公開したホラーのやつあったでしょ、あれ観てきたの』

「ホンマにホラー観てきたんかいな」

『うん、すーっごく面白かったよ』

普通、自ら進んでホラー映画を観ようとは思わないだろう
仮に観にいったとしても、怖かったという感想が正常、面白かったはないだろっと草薙は心の中でツッコミを入れた

「女の子やのに……」

『えへ。まあ、あたしが今まで体験してきた事の方がさ、断然ホラーだし、ホラー以上に怖いし?』

「……あのなぁ…………」

『へーきだよ別に。なんとも思ってないし』

怖いくらいニコニコしていて、何か嫌な予感しかしなかった
だが最近、よく笑うようになったのは確かだ

夾架が過去の事を重く受け止めなくなったのはいいが、今みたく時々自虐ネタに走ることがあり、どこにどう触れていいのか未だに掴めていなかった

絡みにくいというわけではなく、難しいのだ
自分の些細な言葉で傷つけてしまう事だってあるかもしれない
そういうところ込みで、十束は上手くやっていたので、一見能天気で何も考えてなさそうだが、凄いと思う
夾架の事をキチンと理解している証拠だ

そんなこんなで色々と話をしている中で、草薙が考え込んでしまい余所見をしてしまったので、ハッとなって夾架に視線を戻せば、

あらやだびっくり

「なっ、何しとんねん!//」

『え、なにって、多々良とキスだよ?』

滅茶苦茶デジャブを感じたしなんかんだった
夾架が身を屈め十束にキスをしていた
この前は逆のパターンで十束が寝ている夾架にキスをしていて、それを見た八田が顔を真っ赤にしていた

2人して何をやっているんだか、呆れていると、いつの間にか夾架の顔がすぐそばまで近づいてきていた

『何、出雲さんもしてほしいの?』

「へっ!?///」

草薙は素っ頓狂で上ずった声で驚きを顕にしていた
ここ最近色っぽさが増した夾架だったが、今は妙にいつも以上に色っぽく見えた

艶やかな形の良い唇
相変わらずの肩口の広めの服
そんな服から除く豊満な胸の谷間
襲いくる形容しがたい衝動に駆られ、草薙はごくりと唾を飲んだ

実に素直である草薙の反応に夾架はクスリと笑った

『図星?…いいよ、してあげよっか?』

「いやー…流石に十束に悪いわ(ほんまはして欲しいけど)」

『あたしのファーストキス奪ったくせに、出雲さんとキス、初めてじゃないんだから、ちょっとくらい大丈夫よ』

キスは挨拶、と付け足し、
少し身を乗り出して、夾架はたじろぐ草薙の両頬に手を添えてグイッと自分の方へと引き寄せた
そしてら草薙の口元ギリギリにリップキスをし、離れてから妖艶な笑みを見せた

『出雲さん顔真っ赤!こんな出雲さん初めて見たかも』

「……アホ。人の気も知らんで。色んな男にこういうことして、襲われてもしらんで」

『んー、なんのことかな?わかんなーい。でも、出雲さんはそんなことしないもん』

草薙の、ひそかに寄せる思いを理解しているのか、してないのか
何事もなかったかのように、ケロッとしている夾架が恨めしかった

だがこの反面、人をからかったり、手伝いが出来るくらい元気になってくれたのが嬉しい
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ