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周防が下に降りると、丁度草薙と十束が上に上がろうとしていたら所だった
夾架の様子を見に行く前に、周防から話を聞こうと、3人はソファーに腰掛けて対面する形になって話した
十束草薙の横では、第1発見者である八田と伏見が立って話を聞いていた
「夾架の具合はどや?」
「制御しきれてなくて力が漏洩してる、もっと悪く言うと暴走だな」
「そういうことか…十束もどうも調子悪いって言うてて、で、伏見から電話もろて……想像通りやな」
「…リンクにおかしな所はない。でも何らかの原因で夾架の力が暴走して、力に翻弄されて、俺にもその苦しさと痛みが流れてきてるって事だよね」
「女の声が近くに聞こえてそれに引っ張られて、力が反応してるって言ってた。何か嫌な事が起こりそうだとも言ってた」
男5人が神妙な面持ちで机を囲んでいた
中でも十束が1番不安げな顔をしていた
「今日いきなりこうなったって感じなんですか?」
幹部3人の話を八田はなるほどなるほど、と頷いて聞いていたが、伏見は黙って聞いているだけではなかった
気になった点はすぐに追求するのが彼のスタイルだ
「うーん、多分そう。昨日までは全然普通で、朝には少し気分が悪いって程度で、一緒にバーにきて、で、買い物行くってなったけど、調子良くないから留守番してるって言われたから俺と草薙さんで出たんだけど…、それからいきなりかな」
伏見の問いに十束は腕を組んで、記憶を遡り順々に説明して言った
順を追って説明することによって、自分の中でも整理が出来たが、やはりこうなったきっかけというものは一切なかった
夜中に苦しんでいた様子もない
朝は少し体がだるい程度で食欲はあったし、熱もなかった
時間と共に徐々に浪費していったようだ
「どうにかなりそうなんか」
「どうだろう、ヒアリングしてみないとかな……」
夾架の影響を受けてか気だるくなった体に鞭を打ち、重たい腰をゆっくりと上げた
ーーーーー
「夾架、入るよ、っ、大丈夫?」
『多々良……』
周防の部屋の扉を軽くノックしてから入った
部屋と廊下の境界線を超え、部屋に踏み入ると十束は軽く呻いた
一瞬たじろいだが、すぐに十束は夾架の傍まで行き、続いて4人も部屋に入った
ゆっくりと上体を起こして十束を迎える
最愛の十束の顔を見れたのに、夾架はちっとも嬉しそうではなかった
「俺に何とかできそうかな。もう少し深くリンクすれば治りそう?」
『……ダメ。寧ろギリギリまで離れるべき。これは多々良のせいじゃなくて、完全にあたしのせいだから巻き込みたくない。多々良にまで苦しんで欲しくない…だから離れて』
夾架は弱々しく首を横に振った
そんな夾架の顔には既に疲労の色が見えていた
夾架の顔を覗き込んで十束は心配そうに言った
「でも離れたら夾架はもっと力の制御が出来なくなるんじゃないかな」
『大丈夫、なんとかするから』
「大丈夫じゃない、俺は夾架から離れたくない」
再び弱々しく首を横に振る夾架を見て、大丈夫そうにはちっとも見えなかった
あくまでも譲る気のない十束に、夾架は困ったような表情で右手を差し出した
試しているのだろう。それをすぐに理解して十束は差し出された手を取った
手を取った瞬間に平衡感覚が失われて、地に足が着かず何処かへ落ちていく感覚がする
夾架が意図的にリンクを深めたようだ
そして頭部を貫くような痛みと、ガンガンと叩かれるような鈍い痛み
器官が狭まり息が苦しくなる
重力を何倍も強く感じて体が鉛のように重くなる
今まで薄らと感じていた体の不調とは比べ物にならないほど、外的に圧力をかけられている
十束がガクリと膝を折ると、パッと手が離されて、不快感は一気に体の外に放出され、すんなりと調子を取り戻した
先程感じていた不調も消えていた
それと同時に、夾架が離れていくのを感じた
『ね?気持ちだけ貰っておく、ごめんね』
儚げな笑みで十束を宥めるように言った
夾架は布団の中の誰にも見えない所で、左手をキツく握っていた
十束の気持ちは凄く嬉しい
出来ればそれに甘えたかった
離れたくなんてない
しかし、そんな自分のエゴで十束を巻き込んで言いワケがなかった
「っと、どういうことや?」
完全に2人だけのやり取りだったので、傍から見ている他の者には中々に理解が出来なかったので、草薙が代表して問いかける
『……リンクを深くすると多々良が辛くなっちゃう。多分、慣れてないからしんどすぎると思う。あたしらの痛みの共有は一定以上リンクを深くすると起こるものだけど、今不安定だからギリギリまで浅くしてやっとだった。でも、そうすればほとんど苦しくないと思う。あと、物理的にも離れる必要がある。今もうかなりホントにギリギリまで離れたんだけど、あたしの力が多々良と繋がれば楽になるっていうのを覚えちゃってるみたいで、近くにいる多々良って存在を引き寄せようとしてる。それだけじゃなくて、今にもみんなと繋がろうとしてる。まだなんとか抑えられてるけど、ずっとは無理かも。だから治まるまでみんなに近寄らないようにする』
そこまで途切れる事無く言葉を紡ぎ、言い切ってから震える息を吐き出した
整った顔をきつく歪めて、堪えるように唇を噛んだ
夾架が話してる間もずっとカーテンや観葉植物は揺れていた
『……ごめんね、この短期間でまた厄介事起こしちゃって』
「そんなん気にする必要ないわ」
普段だったらここで頭を撫でてなり、慰めるというのが1番だったが、伏見や周防に触れられることを拒んだとも聞いていたので、離れたところから言葉をかけてやるだけだった
十束は自分の非力さを痛感し、傍に置かれた椅子に腰掛け項垂れていた
『多々良はここか出雲さんちにでも泊めてもらって。とりあえず、タク呼んで帰るね… 』
「そないに具合悪そうやと病院連れてかれる、送るわ。車回すから待っとき」
『でも…』
「ええから。すぐ出してくるわ」
草薙に強く言われて夾架は頷く
バーのすぐ傍で借りている月極めの駐車場まで草薙は急いだ
二人きりにするのがいいのか悪いのか分からなかったが、十束が出ていく気配もなかったので、とりあえず草薙に続いて他のメンバーも部屋の外へ出た
少しの間、夾架の荒い息遣いだけが部屋に響いていた
「……ごめんね、何もしてあげられなくて」
『…多々良のせいじゃないってば、そんな顔しないで。多々良が元気ないとみんな心配になっちゃうでしょ?』
「うん…、でも夾架が耐えられそうになかったら、その時はダメって言っても俺は深く繋がるから」
『……うん。ありがとう』
夾架と顔を合わせるのが億劫だったのか、ずっと俯いていた十束だったが漸く顔を上げれば、夾架は苦しそうにだが優しい笑みを浮かべていた
内心、肝心な時に役に立たないって思われているんじゃないか、と思っていたが、そんな心配は微塵もいらなかった
むしろ夾架が批難の目を向けているのは自分自身だった
そんな夾架を見るのはやはり辛い
何か少しでもいい、自分に出来ることはあるのだろうか
十束は腕を組み、首を傾げてからゆっくり口を開いた
「夾架、治ったらまたデートに行こう。パフェはこないだ行ったから、そうだな〜、パンケーキが美味しいお店でも調べておくよ」
『釜焼きでフワフワでクリームたくさんの所ね』
「りょうかいりょうかい〜。楽しみにしてて」
食べ物の話で元気づけるのは2回目だ
この手が通じるかは半信半疑だったが、純粋に嬉しそうにしている夾架を見て、とびっきり美味しいパンケーキのお店を何としてでも探して食べさせてあげようと決めた
どちらかというと、夾架よりも十束の方が気持ち的には楽になったかもしれない
「夾架さん、車準備出来たみたいっスよ!」
開けっ放しの扉から八田と周防が入ってきて、車の準備が出来たと告げられた
『わかった、今行く…』
ベッドから足を下ろして、パンプスに足を突っ込んで覚束無い手つきでストラップを止めてから立ち上がる
一歩脚を踏み出したが、上手く歩けずふらついて倒れそうになった
危ないと思い十束が受け止めようとしたが、それよりも早く周防が夾架の体を受け止めた
周防よりも夾架の近くにいたのだが、十束は一瞬戸惑ってしまい体が動くまでに間が空いてしまった
先程夾架に触れた時の苦しさで頭が埋め尽くされて、本能が夾架に触れることを拒んだ
(俺は、最低だ……)
キツく握り拳を握り、そのまま夾架が周防に連れていかれるのを黙って見ていた